自分の脚で歩く、その選択肢があることすら知らない人たち

周囲を気にせず好き勝手にモノを言い、結構自由に生きている私は、よく「海外ジャンル」――つまり、「海外で育った」「海外留学経験者」に勘違いされます。でもって正直に「日本どころか東京以外に住んだことないし!」と答えるわけですが、するてえと「海外の方が合ってる」「海外の方が楽に生きられるのでは?」とか言われる。まあ一応は誉め言葉と受け取ることにして。

確かに私自身、なんで海外留学してないんだろう…くらいに思っている部分もあるのですが、まあ私が学生だった時代は、留学自体がそれほど普通のことじゃなかったっていうのもあるし…。いやでも、留学している人がいなかったわけじゃないしな…と考えて辿りついた結論は、結局のところ、私の身近に「留学」がなかった、つまり近しい人に留学経験者がいなかったってことじゃないかと思います。

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© 2018 NORD-OUEST FILMS – STUDIO O – ARTE FRANCE CINEMA – MARS FILMS – WILD BUNCH – MAC GUFF LIGNE – ARTEMIS PRODUCTIONS – SENATOR FILM PRODUKTION

世の中には「留学したいけど、お金がない。留学したいけど、頭が悪いからついていけない」と躊躇う人もいるかもしれませんが、その場合に試されているのは「本当に留学したいかどうか」という思いの強さで、周囲の反対を押し切るとか、死ぬ気で勉強するとか、1年休学して留学資金を貯め、勇気振り絞ってとりあえず現地に行っちまうとか、あらゆる状況を凌駕することも可能です。

でも、私の場合はそれとは別次元、「留学する」という発想そのものが浮かばなかったという問題のように思います。要は世の中を全然知らず、助言をしてくれる人もいなかったってことなわけですが――これを逆に考えると。

誰かを何かをさせたくないときは、その人が手にする情報を意図的に制限、操作すればいい、ということです。

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女子が二足歩行をすると、日本の秩序が乱れるから

さてそんなことを踏まえつつ、今回皆さんに見てもらいたい! と思ったのは、1900年前後のパリを舞台に描くアニメ『ディリリとパリの時間旅行』。ディズニーとかピクサーとは全然違う感性の、100万人の女子がうっとりしちゃうに違いない夢のような作品なのですが。描かれている世界は、結構今の日本にも似た世界。この時代のパリは、ちょうど女子に大学に行く権利が与えられた時代で、物語にはそれに反対する「男性支配団」が暗躍しています。

彼らが具体的に何をやっているかと言えば、まだ「矯正」が可能な年端も行かない少女たちを誘拐し「支配される動物」としての再教育すること。人間じゃなくて「動物」ってのがすごいところです。主人公のディリリは、自分自身パリで人種差別されるハーフの少女。男性支配団に誘拐された後にそこを逃げ出した彼女は、残してきた少女たちを救おうと奮闘します。

その作戦の1コマが、私には結構衝撃でした。文字通り「動物」として再教育され二足歩行を禁止されていた少女たちは、ディリリに「立ち上がって!」と言われるまで、うっかり四つん這いで逃げてしまうんですね。これって結構芯をついた描写で、つまりたいていの人間は「四つん這いで歩け」と言われ続けると、自然とそれ以外ができなくなる。教えられたこと以外の自由な発想や行動ができるのは、ディリリのような限られた人だけなんです。

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さすがに今の日本に「女子は二足歩行禁止」とか言う人はいませんが、概念としての「自分の脚で立つ」気持ちをそぐ状況は、普通に存在します。「女子は頭が良すぎると可愛くない」「仕事ばっかりしてると結婚しそびれる」とか「女子が外科医になるのは体力的に辛い」とか言われ続けると、「私には二足歩行は無理」か「二足歩行はしているけれど、そんな自分を全面的に肯定はできない」のどちらかになってしまう。

巧妙なのは、そういう進言の中に、なんだかよくわからない善意のニュアンスがあること。「女は二足歩行するな!」とストレートに言われれば、遠慮なく「余計なお世話なんだよ!」と言い返せますが、「それがあなたのためなの」と言われれば、人間だもの、邪険にもできない。

昔の人は偉いもので、こういう状況にぴったりの言葉があります。「おためごかし」。つまりそういう人の心の中には、時に本人すら気づいていない、「あなたのため」以外の気持ちがあるもんなんですよ。

『ディリリとパリの時間旅行』

※劇場公開は8月24日~

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