映画ライター、映画コラムニストの渥美志保による、コスモ世代におすすめの作品を紹介する連載企画「女子の悶々」。第128回は、映画SNS ー少女たちの10日間―』について紐解いていきます。

「12歳の少女」に群がるSNSのエイリアンたち

「今、SNSの世界で、女の子に何が起こっているか?」を描いたチェコのドキュメンタリー映画『SNS ー少女たちの10日間ー』は、なんというか、すごいモノ見たという感じを覚えました。

この映画、ある種の社会実験なわけですが、実年齢は20歳(つまり、いわゆる大人という意味)以上なんだけど12歳に見える女性の3人に協力してもらい、SNSで「12歳」を名乗って写真付きプロフィールを公開、そこから10日間になにが起こるかを追ったものです。

そのアカウントには数時間で数千人の男からメッセージが届き、「ほんとにたった10日間で、こんなにも多くの、こんなにも危ないことが?」というか、「おいおい、見知らぬ12歳の前で突然脱ぐか?」「キモいもの送りつけてくるな!」的な展開が次々と起こります。でも実は、そういう本筋以前にもいろいろ驚愕。

『sns ー少女たちの10日間ー』
(C)2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.

まず私が驚いたのは、チェコ的な価値観で「実年齢が12歳に見える20歳以上の女性」が、日本人である私の価値観では12歳に見えないということ。民族的に骨格がしっかりしているからなのでしょうか、もう顔ができあがっていて、「大人」とは言いきれないけど「子供」ではないという印象。

作品内でも言及されていますが、つまり彼女たちに群がってくるのは「特殊な小児性愛者」ではなくて、ふつうの、そのへんの、「妻は65歳で、いま台所で料理してるよ」みたいな男性なのです。

そして12歳を演じた女性たちをはじめ、チェコのティーンの多くが、そもそも幼い頃にSNSでのそうした実体験の持ち主であること。出演者たちは、その実態を暴くこの映画に、もちろん自分の顔が相手に晒されるリスクを承知のうえで「アタシはやったる!!!」という気持ちで参加していることです。

『sns ー少女たちの10日間ー』
(C)2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.

さておき。ここから書くのは去年の秋のこと。ある人物、仮にAさんの話です。

Aさんの住むマンションにエイリアンが一匹忍込み、ボイラー付近を根城に、配管をつたって各部屋の天井裏や床下に忍び込むという事態が起こりました。

映画を見た方ならご存知でしょうが、ヤツらはそりゃまあ獰猛で、たった一匹入り込んだだけで巨大宇宙船の全クルー(体力的にも知的にも優秀な人たち)をほぼ全滅させた完全生命体。当然ながら市井の一般人である住人たちの生活は激しく脅かされました。

幸い、そこに忍び込んだ個体は小さく弱いタイプだったようで、マンションの理事会と管理組合、そして駆除業者の協力により無事駆除。大きな被害といえばAさんの2フロア下の小型犬が襲われたのみで、住民たちの眠れない2週間は幕を閉じた--のですが、本当の被害はそこから始まります。それは、ある種のトラウマです。

たとえば共用部分の床に穴があれば、まさかヤツの唾液(超強力な酸)の跡? と思い、エントランスに血痕を見れば、連絡がないまま消えた住民がいないか確認し、家の中で「シャシャシャシャシャーーーー」という音がすれば、どこ? どこ? どこっ!と姿を探す。

事実を言えば、穴は以前からあったものだし、血痕は隣家の幼稚園児の鼻血で、「シャシャシャー」は網戸に引っかかったコガネムシの苦悶でしかない。なのに、それまでは気にもとめず流していたすべてのことが、忍び込んだのは本当に一匹だったのか? どこかにまだ潜んでいるのでは?もしかしたら卵を産んでいるんじゃないか…そういった恐怖へとつながってゆきます。

「何が忌々しいって」とAさん――周囲から「強い」と言われ、傍目からは「エイリアン騒動からすっかり立ち直った」としか見えない――は続けます。

「何が忌々しいって、“もう立ち直った、大丈夫”と取り戻したはずの自分が、たかがコガネムシの羽音だけで、ガラガラと崩れていくこと。恐怖に支配されていると、思い知らされること」

強そうな人=傷つかない人じゃない

SNS ー少女たちの10日間ー』に出演している女性たちは、すごく強いファイターですが、世の中はそうした「強さ」を勘違いしていると、いつも思います。

最近で言えば、オリンピックの侮辱演出発覚に際して、周囲から勝手に「気にしていないと思う」と言われていた渡辺直美さんもそうだし、インスタライブで最低の体験を告白したマリエさんもそう。

周囲から「強い」と判断される人は、単に「傷ついている姿を見せたくない人」だったり「悪感情にとどまりたくない人」でしかなく、「傷つかない人」「恐怖を感じない人」ではありません。

映画の中には「彼女たち」に恐怖を与え支配しようとする様々な醜悪が描かれていますが、何に一番胸を締め付けられるって、強いファイターである彼女たちが、十二分に傷ついていることがふいにわかる「ある場面」です。

「あの女性は強いからセクハラなんて気にしてない」ワケがない
(C)2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.

傷を覚悟で戦っている彼女たちに、エイリアンは「顔を出して告発するなんて恥ずかしくないのか」と言うかもしれません。でも傷を懸命に隠せば隠したで、「大して気にしてないし、傷ついてなんていないはず」と言うんでしょう。

そして「女がキーキー怒るなんて」とご丁寧に前ふりしながら、まるでチキンレースみたいに、侮辱と恐怖で崖っぷちまで追い詰める。そして、たとえどこにいたって、コガネムシが網戸にかかっただけで、ビクッ! としてしまう。ほんとに忌々しい。

そのビクッ! を克服するには、どうしたらいいか。やっぱりどこかで「私はあんたなんか屈しない」と、何かの手段で表明するしかないんだろうなあ。

SNS ー少女たちの10日間ー

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映画『SNS ₋少女たちの10日間₋』予告編 4月23日より公開
映画『SNS ₋少女たちの10日間₋』予告編 4月23日より公開 thumnail
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