大物の愛人だったから、好き放題にやれてきた女

すごい権力者とかすごいお金持ちとかの恋人だったり愛人だったりした女性が、その人と別れた途端に周囲に手のひら返しの扱いを受ける--。

たとえば普通の人はなかなか予約のとれない高級レストランで、以前は行く前にちょろっと電話するだけでするっと入れてくれたのに、別れた途端に「本日は予約で満席です。1カ月先のご予約でしたら受けたまわります」とやんわり断られる、別れて落ち込んでいる時に遊び仲間をご飯に誘っても「最近忙しいから、またこっちから電話するよ」と返事が来て以降は既読無視--なんてことは結構ある話です。

『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』は、まさにそんなところから始まる物語です。ご存じない方に説明すれば、ハーレイ・クインはアメコミのキャラクターで、バットマンが率いるDCコミックの世界の悪役女子。そして町で最大の悪の帝王、ジョーカーの彼女です。物語はそのハーレイがジョーカーに捨てられたところから始まります。

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©2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. BIRDS OF PREY and all related characters and indicia c&TM DC Comics.

映画が始まった頃のハーレイは見るも無惨にズタボロ、派手メイクがドロドログズグズになるほど泣きまくり、家に引き込もって甘いもの延々と食べながら、見てもいないテレビ画面をボーッと眺める.....みたいな生活を送っています。

町に出れば「あの女、ついに捨てられたらしい」という噂話が、嘲笑とともに耳に入ってくるし、頭のなかでは「お前は一人でいきられるワケがない」という元カレから浴びせられた呪いの言葉がリフレインしています。物語はそんなハーレイ(と何人かの女子たちが)、何かに見切りをつけて自立するまでを描いて行きます。

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「絶対に誰にも頼らず生きていく」と決意する力

ここでいう自立は、いわゆる経済的自立というよりは、精神的な自立で(とはいうものの、この二つは不可分ですが)、ハーレイが目指すのは周囲に「ジョーカーの女」ではなく「ハーレイ・クイン」として認知されること。私は男の後ろ楯なんてなくても、今まで通り好き放題に悪事を働くし、それでもしなんか面倒が降りかかってきても、別の誰かに頼ることなんてしない、絶対自分でどうにかすると、決意します。

思うにここで最も大事なのは、ハーレイが「決意したこと」です。極端な話、本当にできるかどうかは問題じゃない。でもその決意がハーレイをめちゃくちゃエンパワーメントし、周囲を巻き込んで行きます。

不思議なのは、誰にも頼らないと決めた彼女が、その途端に、別の人と協力し共闘できる人間になってゆくこと。彼女の回りには彼女と同じようにひとりになった女性が集まってくるのですが、そうした人たちには、それまでの彼女ならきっと敵視していたタイプもいます。

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映画はまさにハリウッドの#MeTooの流れのなかで作られた1本ですが、私はなぜか昨年公開されたあの「ジョーカー」を思い出しました。経済的な自立という最大にして最強の「立つ瀬」を失った男は、当然ながら不可分である精神的な自立を失っています。これまでの多くの映画で描かれてきたそういう男たちは、女に慰められ、女を肉体的精神的に支配し、時に女を殴り、自分の毀損した自信や優位性をどうにか保ってきたように思います。でも時代の要請ゆえか、「ジョーカー」には女を殴るシーンを描くことができません。

もしジョーカーに黙って殴られてくれる女がいたら、きっとなにかが違っていたかもしれない。正気を失うことはなったかもしれない。そうできなかった男へのあわれみがないではありませんが、屈辱と暴力に耐えた末に解放されたハーレイの姿を見ると、こう言わずにはいられません。ここまで来て、まだ甘ったれんのかよ、と。

ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY

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映画『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』日本版本予告30秒 2020年3月20日(金)公開
映画『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』日本版本予告30秒 2020年3月20日(金)公開 thumnail
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