女子のコミュニケーションにある、恐ろしく複雑な「お作法」

地方とか海外にいる知人に「遊びにおいでよ」と言われるとすぐに遊びに行くタイプの私なのですが、「遊びに行ったら本当に遊んでくれる率」は、意外と男子が高かったりする。

もちろん女子にも遊んでくれる人はいますが、ここで言うのはあくまで「遊びに行ったら本当に遊んでくれる“率”」のこと、つまり男子は「お前となんか個人的に会う気ねえし」っていう人は、そもそも「遊びにおいでよ」なんて言ってこない。でも女子は、自分自身が「遊びに行く」と言いつつ行かないことも多いから、「そうは言っても、実際は来ないだろうけど…」と見越しつつ、「遊びにおいでよ」と言ってる人も多い印象です。

「ケッ! 女子ってこれだからよ!」と言いたいわけではなく、これはある程度仕方のないことかもしれません。だって女子のコミュニケーションは「共感ベース」、つまり相手に同意していなくとも「そうだよね」と言うことを、幼い頃からお作法として教え込まれているから。

もちろん中には本気の「そうだよね」もあり、そういう時は言ってる人の後頭部がレインボーカラーに発光して…みたいなことが起こるわけもなく、「そうだよね!」なのか「そ、そうだよね」なのか「そうだよねえ…」なのか「そう…だよね?」なのか、奇妙な脇汗かいてるのかいないのか、視線が泳いでるのか泳いでいないのか、そういうところから汲み取るしかありません。コミュニケーションが恐ろしく複雑な、ヘル女子社会。

第92回アカデミー賞では3部門でノミネートされた『スキャンダル』は、2016年に実際に起きたアメリカのFOXテレビの社長によるセクハラ事件の告発を描いているのですが、見せ場はまさにそういった、女子たちの明言しないコミュニケーションです。

セクハラされたけど、女のワタシに地位をくれた恩がある

最もゾクゾクするのは始まって45分くらい、主要人物3人――看板人気キャスターのメーガン(シャリーズ・セロン)、セクハラを告発するベテランのグレッチェン(ニコール・キッドマン)、今まさにロックオンされている新人ケイラ(マーゴット・ロビー)――が「2階(社長室)」に向かう下りエレベーターで乗り合わせる場面。

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©LIONS GATE ENTERTAINMENT INC.

メーガンに「助けて」と言いたいけど言えず視線だけを投げるケイラ、「なんで私を見るの?」と訝るメーガン、後から乗りこみすでに押された「2階」のボタンに「メーガンも社長室?」と考えるグレッチェン、その様子を目ざとく見て「落ち目のグレッチェンが社長室に?」と考えるメーガン、視線を交わす二人をおずおずと見るケイラ。3人の視線が交錯しながら到着した2階で、降りる二人に何かを嗅ぎ取るメーガン。一緒に降りたケイラに「え?降りるのアンタ?そういうこと?」と呆れるグレッチェン。

ほぼセリフ無し、「あれ~、みんな社長に呼ばれてんの~?」なんてこと誰一人として言わない視線だけのシークエンスで、三人が「2階で降りることの意味」を知っていることがわかります。

この場面に限らず、映画全体が“視線と空気”でできていてハラハラしっぱなし。マスコミの表舞台で起こることはめちゃくちゃエキサイティングだし、個人個人は同じ地獄のように最悪の体験をしているんだけれど、羞恥心やレッテル貼り、そしてやっと仲間になれた「男社会」からはみ出すことを恐れて、誰も声を上げない。そういう中で女子たちは繋がれるのかを、映画は描いています。

この映画は、従来型の「被害者の戦いを応援するセクハラ映画」とはちょっと異なり、セクハラ事件にまつわる人々の反応を「全部盛り」で描いてゆきます。

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©LIONS GATE ENTERTAINMENT INC.

「“ナチ占領下のパリの苦情箱”みたい。結局は“俺たちは社長養護派”みたいなヤツらに告発する気になる?」てな具合のセクハラホットラインとか、「女同士を戦わせて、仕返しの仕方すら吹き込む」男性上司の存在とか、「要求なんかしなくても、女達はやりたがってた、言わなくても分かる」というアナタ超能力者かなんかですか? な加害者とか、「セクハラされたのは、君がセクシーだから。擁護派の女達は外見が…」と被害者を慰める“良心的”な男性たちとか、ほんとに「あるある」過ぎ。

ただより根深いのは「男が女に欲情するのはあたりまえ。私たちは地位をくれた彼に恩があるのよ」とのたまう、実在する前世代の女性たち。「女なのに」地位を与えてくれたんだから、ありがたいと思うべき――っていう、自分すらも貶める思考回路をそろそろ止めてほしいんだよなあ。

『スキャンダル』

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公式『スキャンダル』2.21公開/本予告
公式『スキャンダル』2.21公開/本予告 thumnail
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