映画ライター、映画コラムニストの渥美志保による、コスモ世代におすすめの作品を紹介する連載企画「女子の悶々」。第126回は、『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』と『ワンダーウーマン1984』について紐解いていきます。
お色気の担当の「モモレンジャー」じゃない
2017年の『ワンダーウーマン』は、アメコミ界で「戦う女子キャラ」を確立した、アメコミ映画の常識を覆した作品です。
それ以前から『アベンジャーズ』のブラックウィドウとか、『キャットウーマン』とか『Xメン』のミスティークとかもいたんだけども、ブラック・ウィドウはポリコレ&「まあ男性ばっかじゃむさ苦しいんで、色っぽい花も入れときましょうか」的に置かれた、言うたら、かつての戦隊モノの女子キャラ=「モモレンジャー」みたいなもんで、中心戦力とは言えません。でもワンダーウーマンは神なので、少なくともバットマンより強い。もしアベンジャーズの中に入ったらソーと張れそうです。
キャットウーマンとかミスティークは、常に裸まんまのボディラインが見えっぱなしで、時に男性に対して「お色気作戦」を展開する、わかりやすいセクシー系キャラです。
もちろんワンダーウーマンだって、ミス・イスラエルのガル・ガドットが演じてるから美しいんだけども、男性に対して決して色気は使いません。ピンチの時に男性に助けてもらうために、もしくは男性を利用するために、胸の谷間チラ見せするとか全然なし。
そもそも映画に登場する「超人」なんて、男優だってCGとかスタントマン使うんだから、女優だってできるじゃんって話なんだけども、それでも女優アクションがなかったのはやっぱりそれでもそれなりに鍛えることが必要だからなんじゃなかろうかと想像します。
いんちきっぽいプロデューサーが「女優の身体とかアクションだと、リアリティがないんだよね~」とかニヤけながら言いそうですが、ガルちゃんにはイスラエルでの兵役の経験があるんですね。
一方で、ハリウッドではそういう女優さんが激増中でもあります。古くは『バイオハザード』のミラ・ジョボビッチに、なんつったって『マッドマックス 怒りのデスロード』のシャリーズ・セロン姐さん(Netflixの『オールドガード』も最高!)、さらに『キャプテン・マーベル』ことブリー・ラーソンとか。
ハリウッドの表舞台で、がんがんアクションカマす女子たち
もうひとつはスタントかなあ。殴ってるのは女子だけど、ふっとばされてるのガタイのいいオッサンじゃん! みたいなこと、昔はよくありましたね。でも、ここにもがんばってる女子たちがいる。
『ワイルド・スピード』シリーズの姐御ミシェル・ロドリゲスが製作総指揮した『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』では、ステイホームで1日の徒歩数が180歩くらいの私には想像もつかない、すっげーボディのポテンシャルをもったカッコイイ女子たちが目白押しです。
息子が運転するクルマに「ついてきな!」とばかりに、砂埃巻き上げながらドリフトしまくってガンガン走るお母さんとか見ると、「女性は運転が苦手」とかもはや「いざという時には逃げないのが男性」といった神話レベルにウソとしか思えません。
「女性だからできない」は、ウソ
中でも度肝を抜かれたのは、1920~'30年の無声映画時代は、あらゆるアクション――橋から走る列車の上にジャンプするとか、走る車から列車の乗り移るとか、あぶなっ!ってヤツ――を、普通の女優がやっていたという事実です。
その時代なんてドレス姿だし、大した装備も当然ながらあるわけない。つまり「女にアクションは無理」はどこかのタイミングで刷り込まれただけ。「女子だからできない」なんてウソです。
「アクション映画」っていうのは、つまりハリウッドのドル箱で、一番お金が儲かるメインストリームってこと。外科医、プロジェクトリーダー、経営者、政治家--「やれる女子」「やりたい女子」がそういう場でじゃんじゃん活躍することは、あとから来る女子たちの勇気になる。
「自分もそこにいける」「自分もそれを選べる」「自分も諦めることはない」と思える。刷り込みによって「女子はできない」と素朴に信じていた男子の考えを「なんだ、女子も出来るんじゃん」と変えることもできます。
年末年始に観てほしい、パワフルな二作
んなわけで今年の年末年始にぜひ見てもらいたい『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』と『ワンダーウーマン1984』。
後者に関しては、前作の第二次大戦から時を経て舞台は1984年、今回の彼女が戦う「世界を滅ぼすもの」が何かと言えば、#MeTooムーブメント以降の多くの欧米の映画で触れられている「有害な男性性」です。
これ「勝者にあらずば人間にあらず!」って考え方ですが、これかならずしも男性だけのものじゃない、ってところを描いているのもいい。てな感じで、映画で今年最後の女子のエンパワーメントを!