映画ライター、映画コラムニストの渥美志保による、コスモ世代におすすめの作品を紹介する連載企画「女子の悶々」。第127回は、映画『MISS ミス・フランスになりたい』について紐解いていきます。

東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長を辞任した森氏による「わきまえた女」発言に悶々とし、経団同友会会長の「女性側にも原因がないことはない」発言で完全に頭にきた昨今の私を慰めてくれたのは、映画『MISS ミス・フランスになりたい』でした。

注目のジェンダーレスモデル、アレクサンドル・ヴェテール
(C)2020 ZAZI FILMS - CHAPKA FILMS - FRANCE 2 CINEMA - MARVELOUS PRODUCTIONS

いやもうほんとに、ヒロインを演じたアレクサンドル・ヴェテールの美しさに驚愕。彼または彼女は、ジェンダーレスモデルとして活躍している人で、映画では幼い頃からの夢「ミス・フランス」を目指す、美しき主人公を演じています。ええ、出生時に判断された身体的性別の、男性であることを隠したままで。悶々とし続けてきた私の目に、そのキラッキラぶりは、きゃーーーって思うほどの眩しさです。

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映画は、そのミスコンの選考過程を描いてゆきます。ミスコンといえば、昨今は「女性の商品化」や「ルッキズムの象徴」という声も上がっており、当然そうした部分への細々とした目配せもあります。

そのあたりは映画本編をごらんになって頂きたいんですが、私が「おおー!」と思ったのは序盤にあったあるセリフ--アレックスが友人(トランスジェンダーの娼婦)に紹介された「女王陛下」がいう言葉。

さまざまな「美」をスポ根的に叩き込まれる、ミス・フランスの審査過程も見どころ。
(C)2020 ZAZI FILMS - CHAPKA FILMS - FRANCE 2 CINEMA - MARVELOUS PRODUCTIONS
「コルセットを24時間使い、谷間メイクも必要。ヒールは基本12cm、疲れている時でも8cm。セクシーでピュアで、面白くて話題の的で、反抗的で従順で、収入以上のオシャレをする。失敗すれば、尻軽のレッテルを貼られる」

そこでアレックスが「成功すれば?」と聞くと、女王陛下は答えます。

「やっぱり尻軽」


「どっちにしても女性が悪い」と言われても

「どっちにしても女性が悪い」的な理屈は、小さい頃から女子の中に刷り込まれています。

たとえば私は小さい頃から愛想のないタイプで、親から「おまえは愛想がない、かわいげがない」と口が酸っぱくなるほど言われましたし、たしかに「愛想がないから就職試験不合格」とか「可愛げがないからお土産はナシ」なんてこともあったんでしょう。

でも一方で“愛想のいい”、“可愛げのある子”は、時に「自分に気がある」などという一方的な勘違いをされた挙げ句に、「思わせぶりだ」とか「嫌がってなかった」とか責められたりする。

私からすると、最初から期待していない分、落胆も少ない「愛想がない人の損」に比べて、「愛想がある人の損」はややこしくてネバっと後を引くように感じ、それなら「愛想がないゆえの損の方がいい」なんて思ったり。でも、もしこれが男性なら「愛想がない・愛想がある」のどちらであっても、こういった損な展開にはならないんじゃないかという疑念も。

実のところ、働く女性を俎上に乗せた「わきまえない女」と「女性側にも原因がないことはない」も、この話とまったく同じだと私は思うんです。表舞台で活躍すれば「わきまえない」と言われ、活躍しなければ「積極的でない女性にも責任が」と言われてしまう。

さて『MISS ミス・フランスになりたい』の女王様は、幻想でしかない“本物の女性”になるための、そんなん無理! という努力を羅列した後に、こうのたまいます。

「でも“本物の女”にはなれないわよ、永遠に」

これは主人公ではなく、女性全員に向けられたものにほかなりません。

『MISS ミス・フランスになりたい』

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
映画『MISS ミス・フランスになりたい!』予告編
映画『MISS ミス・フランスになりたい!』予告編 thumnail
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