映画ライター、映画コラムニストの渥美志保による、コスモ世代におすすめの作品を紹介する連載企画「女子の悶々」。第122回は、『15年後のラブソング』を紐解きます。

リモート中に増えた、会社の「用務員さん」の役割

コロナ禍の緊急事態宣言中も、フリーランスの私自身はこれまでとなんの変化もなく家で原稿をシコシコと書き続けていたわけですが、それでもいつもと激変したことは、仕事をしている最中に私以外に絶賛リモート中の人が家の中にいることです。

ふうと一息つくと、彼方でカタカタカタ…とキーボードを叩くかすかな音がしたり、「ええ、そういう話なら***部の**さんに聞いてもらったほうが」とか“もろ会社”な会話が聞こえてきたり、原稿が一段落して鼻歌なんて歌いながらリビングに行くとごはんwithキムチ納豆を食べ終わった的な匂いがしたりで、コーヒーの素敵な香りを求める気持ちが吹っ飛ぶ…みたいなこともあり、緊急事態宣言のなんたるかを思い知ります。

まあアフターコロナの時代にはこういうことが普通になりえる、変わらなあかんってことなんでしょうが、とはいえ家の中で1日24時間ずーっと一緒って、たとえそれが肉親であってもそれなりにストレスフルなもの。夫や同棲中の恋人に対して、なんとなく「女子の役割」をなんとなく担わされ、仕方なくやってしまってきた人は、今、ありえないほどに悶々としているんじゃないか。

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だって二人とも家で普通にフルタイムで働いているのに、相手はお昼になると「ボクのランチまだー?」みたいに口を開けて待っていたりする。こっちはオンライン会議中だっつうのに、宅配便が来ても「自分の仕事じゃないし」的に部屋に閉じこもったきり動く気配すらない。ゴミ捨ては「通勤の付帯業務」だと思っているから、主体的にゴミ捨てにいってはくれないし、ゴミの日を忘れたりもする。

「女子の役割」に「用務員さんの役割」みたいな役割がプラスオンされてくる状況に、これまでも理屈ではわかっていたけどなんとなく仕方ないと思っていた事実--お互いフルタイムで働いているのに、男は会社の仕事以外では面倒みてもらえて当然と思っている、てかそれそもそも「女子の役割」か!? という不満--が、目の前でこれみよがしに展開するのが、まさにイマココ。

会社に通っていた頃は、互いが顔を合わせない時間になんとなくガス抜きされてきたけれど、いまやそれもないわけで、「仕方ない」とやりすごせるはずがありません。コロナ離婚とか、あるようですし。

恋の袋小路にいる女子が、陥りやすい落とし穴

『15年後のラブソング』を見ると、いやでもむしろ早いとこ爆発しとくほうが正解じゃないかと思わされます。マジメな長女気質の主人公のアニーは、「大人になりきれない男」の典型のような男ダンカンと付き合っています。20代の頃に出会って彼女の家に転がり込んできたダンカンは、ガチな90年代ロックのマニアで、自分の自由と楽しみが至上。

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もちろん二人の関係が「幸福な勘違い=恋愛」だった頃は、女子が「あなたに尽くしたい」「あなたの話を聞いてあげたい」「あなた好みの女になりたい」と思ってしまうことは、良くはないけど、よくあることかもしれません。

でもそれが日常の当然になってゆき、関係性として強固に完成してしまうと、状況を変えることはなかなかできません。ちなみにアニーは「仕方ない」と飲み込見続けて15年。こうなると「今は昔とは違うものを求めている」と言っても、相手にされない、相手にする気すらない。変えたいならこれを機会に、早いとこ主張し交渉する。

映画はそういう事態をなんとか打破したいと思う女子が、陥りがちな「落とし穴」=「別の男の存在」も描いています。もちろん相手との関係自体を捨ててしまいたい!と思うなら、それもよし。ただし、新しい男が「前の相手とはぜんぜん違う!」と感じるのは、十中八九は「幸福な勘違い」です。私調べで恐縮ですが。

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『15年後のラブソング』

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