映画ライター、映画コラムニストの渥美志保による、コスモ世代におすすめの作品を紹介する連載企画「女子の悶々」。第124回は、『82年生まれ、キム・ジヨン』を紐解きます。

「#MeToo」大国、韓国から上陸したベストセラーの映画化

韓国で大ベストセラーとなり、日本にも上陸した『82年生まれ、キム・ジヨン』は、「なんで女だからってこんな目に…」という女子が読むと、わかるなぁ、わかるわかる、てかわかりすぎ!! みたいな小説なんですが、この映画化作品が10月に公開されます。

第4次韓流ブームと言われる昨今、第1次からずーっとそのフロントランナーの一人として活躍するイケメン、コン・ユがヒロインの夫役(この映画におけるリ・ジュンヒョクとも言っていいと思う!)だし、みんな見てね! ってな具合にキャピ! っと宣伝しつつ、私的な本題に入ります。

夫役に『新 感染 ファイナル・エクスプレス』の人気スター、コン・ユ
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さてこの映画からジワジワ出てくるものを浴びながら私が思い出したのは、なぜか不思議と、BLM運動で注目を集める「なおみん」こと大坂なおみ選手でした。

8月末、まずは「ウエスタン・アンド・サザン・オープン」の準決勝を棄権し、ウィスコンシン州での警官による黒人男性の射殺(それも背後から)に抗議。さらにUSオープンで、試合ごとに同様の黒人被害者の名前を書いた黒いマスクをつけることで、さらなる抗議を表明。いや本当になおみん、かっこいいなと思ったわけですが。

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てか、「気に入られたい」と思ってないし。

これに対する日本での反応の冷ややかなこと。マジでびっくりしたのは、彼女のスポンサーとなっている一部の企業の反応です。「正直複雑」や「スポーツと人種問題を一緒するのは違う」などというコメントが報道されましたが、これが企業名を公表せずに漏れ聞こえてくるというのが、さらに色々こんがらがってるところです。

そういったコメントが出てくる背景には、それらの企業が完全なる内向きで、ガラパゴス市場である日本をメインに相手をしていことがあるのでしょう。つまり、これが一般的な日本人の感覚(だと、それらの企業が思っている)--ってことに、暗澹たる気持ちになります。

さてそういう人たちが、どんな言葉でなおみんを叩いているのか。これがまた「日本人ならそういうことはしない」とか「日本に迷惑をかけた」とか「結局は日本人じゃない」とか、そもそもその根底に「大坂なおみは日本人じゃない」という考えが透けて見えるものが多い。つまり「日本人に気に入られたいなら、日本人らしく黙ってろ」ってことなんですね。てか、「気に入られたい」と思ってないし。と、私がなおみんを代弁して言いたいくらい。

この「周囲に気に入られること」という行動規範がやっかいなのは、その人が「周囲に気に入られたいと思っている」ことと合わせ技で、ある種の従属プレイみたいになってることです。あなた好みの女になりたいです~。そうかそうか、わしに気に入られたいのだな、よかろう、かわいがってやろう、みたいな。

よしんばルーツや書類上として日本に所属していても、“従属”する必要のない大阪なおみ選手のような存在に、それを要求する、要求して当たり前と思ってるなんて、呆れてしまいます。

いつまでも従属していると、人間は結構壊れますーーというお話でもあります…
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というわけで、 82年生まれ、キム・ジヨン』は、そういう形でしか所属できないコミュニティの息苦しさを描た作品です。自分たちの息苦しさを笑えない笑いにし、努力が足りないと叱責され、背いては陰口叩かれ、耐え抜いて壊れる女子たちの物語。

ちなみに「キム・ジヨン」とは、'82年に韓国で生まれた女子で、最も多い名前です。今の日本の30歳で最も多いのは、愛と彩。ジヨンはあなたのことかもしれません。

『82年生まれ、キム・ジヨン』

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
『82年生まれ、キム・ジヨン』予告 10月9日(金)より 新宿ピカデリー他 全国ロードショー
『82年生まれ、キム・ジヨン』予告 10月9日(金)より 新宿ピカデリー他 全国ロードショー thumnail
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