働く女子に理想の夫は、王子様でも下僕でもない
現在公開中の『ビリーブ 未来への大逆転』で、私の中のアーミー・ハマーのブームが再燃中です。『君の名前で僕を読んで』は、世の中的にはティモシー・シャラメの柳腰にやられた女子が多かったんでしょうが、あの映画でも私は断然にアーミー派。『ソーシャル・ネットワーク』で初めて見た時は、背の高さガタイの良さ、いけ好かない奴を演じてもダダ漏れてしまう育ちの良さと優雅さ（本物のリッチな御曹司）、ロシア系の血を引く金髪碧眼で、あまりの美しさカッコよさに眩暈がし、CGで双子役やってることを知るまで、「その上これで双子か！ こんな二枚目がこの世に2人もいるのか！」と大興奮したものです。
さてその最新作が『ビリーブ 未来への大逆転』。舞台は1950年代から1970年代、主人公は、後にアメリカ史上2人目の女性最高裁判事となるルース・ベイダー・ギンズバーグ（RBG）です。彼女は長年、法律における性差別と戦ってきた人で、アーミーはその夫マーティンがを演じているのですが、これが！ バリバリ働く女子が夢見る理想の夫がいるとしたら、この人しかない！という男性です。
とはいえ、家事も子育てもやってくれて、疲れた時は優しくヨシヨシしてくれて、なんでも妻に合わせて尽くしてくれる、金のないイケメン…というタイプとは違います。家事や育児を当然のこととして等分に引き受けるのは大前提。そのうえで、優しく楽しく穏やかで、クソまじめなルースと、彼女に厳しく育てられる子供たちを常に笑わせ、彼女の優秀さを尊敬し、さらにNYで屈指の成功した弁護士…という、そんな男がホントにいるのか!?というキャラクターです。
女に経済力を与えないのが、女を守るってこと？
映画は、彼女が弁護士として初めて、法律の性差別を撃破する場面で終わるのですが、この続きとして楽しめるのが『RBG 最強の85才』という来月公開のドキュメンタリー映画。（85歳でキレッキレの現役ってのもすごい）
この映画を見て改めて驚かされるのは、マーティンが「映画だから特別に美化された存在」ではないこと。マーティンはまさに映画通りの存在、ものすごく成功した弁護士で、明るく陽気でおおらかで、社交的で誰からも好かれ、その上、料理上手（ルースは子供たちが料理を禁じるほど料理下手）。ルースの横で「私も一応、それなりに成功した弁護士なんだけどね！」とジョークを飛ばすマーティンの姿と、そして彼を知る人物の「マーティンは本当に自分に自信があったから、ルースが活躍してもそれを気に病むことなんてなかった」というコメントが印象的です。
つまり多くの男性は、ルースのような妻を持つと自信が保てなくなるってことで、裏を返せば、「妻を養い守っていること」「妻が自分中心に生きてくれること」が男のプライドとか自信の根拠になっちゃってるってことなのかもしれません。根本にそういうことがありながら、僕が稼いでるから働く必要ない、とか、働くならバイト程度に、とか言われる、女子側の「働かさせてもらってる」という罪悪感がぬぐえない、「好きで働いてるんだから、家のことはおろそかにするな」とか言われる…てな具合になっているんだとするならば。一方で社会が女性の活躍とか言ってることには不条理しか覚えません。それが女性を守ってるってこと？ ちなみにRBGはこうも言っています。「“女を守る”は女性差別の常套句」。
映画では、大学を先に卒業しNYで職を得たマーティンに合わせて、ルースがハーバード大学からコロンビア大学に転校するというエピソードが描かれています。そしてドキュメンタリーではその後、ルースの仕事のための引っ越しに、マーティンがついて行くというエピソードが。「彼女がやっていることは、非常に重要なだから」と言うマーティンに――というかこの夫婦の平等の精神に、私はしびれます。昭和一桁代の生まれで、こんな男性は奇跡としか思えません。そりゃあビジュアルはアーミー・ハマーとはいきませんが、そんなもんなくても素敵。いや逆に、この人を演じたから、アーミー・ハマーがより素敵に見えたのかも。
以前、妻が働くことに対して「あいつが俺より稼ぐなら、俺が辞めて働いてもらったっていい（できるもんならどうぞ）」とのたまった某カメラマンを、酒の席でぶん殴りたくなったことがあります。そりゃ金だって大事。でも、キミだって金のためだけじゃなく、働きたくて働いてるわけだし、妻がだってそれでもいいのでは？と私は言いたい。キミの子を産み育てるためにキャリアが中断されなければ、妻だって今のキミとたいして変わらない収入を得られていたかもしれないんだし。
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