高校時代に好きだった人を、今も引きずって…る?マジで?

私の友人で地方の某名門校出身の人がいます。その学校の卒業生は愛校精神が強く結束力も固く、東京に同窓会組織もあったりして、大きな集まりは年に1度、それ以外も小グループで何かと言えば集まっているんだとか。

その友人ももちろんそこに参加しないではないのですが、なんとなく気が進まない。というのは、卒業して20年近くたった今でも、彼らの人間関係の中心が同郷同窓の人たちで、でもってみんながみんなお互いの幼いころからの今まで――誰が頭がよかった誰がバカだったっていう話から、誰の家がどういう家系か、両親がどんな人か、誰の家の商売が中学校の時ダメになった、誰が誰に借金してて、誰と誰が付き合ってて、下手すりゃ結婚して離婚までしていたり――をぜーんぶ知っている。彼女にしてみると、そういうのが妙に居心地が悪いわけです。

だって彼女という人間は、同郷同窓の人間関係とは別の場所、別の人との出会いによっても作られて、別の世界をもって生きているわけです。でもその集団に一歩足を踏み入れると、そこ以外の世界で作られた自分でいることが許されていないような感じがする。えー、そんな服着てるのらしくないじゃーん、えー、そんなマジメなこと言うのらしくないじゃーん、えー、そんな男が好きなんてらしくないじゃーん、みたいな感じで、気づけば中高時代のつまんねー自分に引き戻され、そこから一歩も出られずにがんじがらめ――そんな感じに、なんだかどうも悶々としてしまうんだそうな。

そんなある時、事件が起こります。いつもならやんわり断る同郷同窓の小さな集まりに、つい行ってしまった彼女。そこで、その場に来ていなかったクラスメイト――仮にA子としましょう――の噂話が始まります。A子が高校時代に猛烈に好きだった男の子が最近離婚し、A子がそわそわしてる(んじゃないか)という、大筋はまあそんな話です。

People, Human, Smile,
(C)2018 MEMENTO FILMS PRODUCTION - MORENA FILMS SL - LUCKY RED - FRANCE 3 CINEMA - UNTITLED FILMS A.I.E.

高校時代から更新されていないその人間関係に、彼女はあらためて仰天しました。てか、ここって時が止まってんの? てか、高校卒業から20年近くたってるのに、みんな、A子がまだ同じ男を引きずってると思ってんの? 韓流ドラマかっつうの! いやいやいや、彼女は思いなおします。みんなが本気でそう思っているはずがない、するってえとこれはレジャーとしての噂話? だったら、より質が悪い。どちらにしろ、そこにとどまり続けている人にとって、あらゆる過去が「過去」にならず、現在と完全に地続きの場所にいつまでもとどまり続けます。

透明に見えるけど、底にはヘドロがたまった池

彼女の頭の中に、ある言葉が浮かびあがってきました。「村社会」。多くのことが村の中で始まり、村の中で終わる。そこには、A子の好きな人が今では外の世界にいるという発想がありません。彼女はスパッとその世界と手を切ることにしました。というのも、彼女は高校時代に好きだった男が誰だったかすら覚えていなかったからです。

さて、そんなわけで今回ご紹介するのは、『誰もがそれを知っている』。故郷のスペインの村に久々に里帰りした主人公ラウラが直面するのは、まさに「村社会」。学校以上に大変なのは、好むと好まざると、その村から出られない事情を抱えた人も多くいること。村には時の流れによって清算されることのない感情――あいつとあいつはデキていた、あいつはあいつを踏み台にうまくやった、あいつは貧乏くじをひいた、あいつはあいつを恨んでる――が池の底のヘドロのように堆積しています。

そんな中で起きたラウラの娘イレーネの誘拐事件は、池に投げ込まれた石のように、ヘドロを舞い上げ、さっきまで澄んで見えた池の水を真っ黒に濁してゆくのです。それまでは、2~3人から4~5人の小さなグループで「みんな知ってることだけどね」と、かる~い感じで、でもコソコソと語られてきた事実が、「かる~く話してたけど、意外とみんな根に持ってたんだ」ってな具合に明るみに出てきます。

すべてが終わった後、逃げるように故郷を後にするラウラ。その姿に、全世界どこにでもいる「彼女」たちは、きっと激しく共感するに違いありません。

『誰もがそれを知っている』

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