「恋=セックス」しかない男って、つまんねーだろうな。



ラフィキ!ふたりの夢』の主人公ケナを演じるサマンサ・ムガシアは、細い手足がひょろっと長く、ショートカットで声がハスキーで、「性別」という概念に縛られた人たちはその存在の「確固たる何か」を見失って戸惑います。でもその姿、特にどこかシャイな笑顔には、性別とは無関係な美しさがあって、そんなことどうでもよくなってくる。この子かわいい、好き、キュンとするー! ――となるのは、女子だからかなあと思います。

宝塚を例に挙げるまでもなく、女子は女子に「恋」することができるものです。こうした状況をよくわかっていない人は「妄想した理想の男性像だから」と言ったりしますが、実のところそれは全然違う。というのも女子が「恋」するのは、「男役」だけでなく「娘役」にも「恋」するから。

宝塚ファンは特殊? いやいやそんなことないでしょう。例えばすごーく美しいすごーく可愛いすごーく高貴なもの、多くの女子はそういったものに「ドキドキ」した経験があると思いますが、それが「恋」です。そしてもうひとつ明記しておきたいことは、女子の中での「恋」は、「セックス」とつながっている時もあれば、つながっていない時もある。

つまり「恋」の延長線上に「セックス」があることも普通に思えるし、かといって、「セックス」がないことも普通じゃないとは思わない。それが「恋=セックス」の男子とは違う、女子の「恋」です。

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ええ、そうじゃない男子もいることは、もちろんわかっています。とはいえ、女子が「さっきの女性、すごい色っぽくてドキドキしちゃった」と周囲に言えば、男性も女性も「ほんとだよね!」って反応だと思いますが、例えば男子は「さっきの男性、すごく色っぽくてドキドキした」と周囲には、間違いなく言わない。「多かれ少なかれ、相手に性的関心がある」と思われてしまう、と思うからです。周囲を戸惑わせるだろう部分は「ドキドキした(=恋)」というところで、それは多くの男性の中で「恋」が「セックス」とつながっていることの証左のように思えます。

「恋」はこの世で一番楽しいことの一つだと思いますが、多くの男性にとってのそれはバリエーションが極めて少ないと私は思っています。セックスに至らなければ、それが恋として成立したと思えない。逆を言えば、セックスまで済ませたら何か成立した気になれる。こう聞いたら怒る人たくさんいるでしょうが、それって排泄とどう違うの。てか恋もセックスも、支配と排泄くらいにしか考えてない男子も中にはいるのかしら、もしかして。マジつまんねーだろうなー、そういう生き方って。楽しみが少なくて。「男から女として見られない寂しい女」っていう発想は、そこから生まれてくるのか、もしかして!

ふたりの「恋」に「恋」する映画は、本国では上映禁止

なんて思いながら見た『ラフィキ!二人の夢』には、まさにそういう「恋」がいっぱい描かれています。前述のケナの美しさに加え、彼女が「恋」に落ちるジギ、そのケナとは対照的な、エネルギーがはち切れんばかりの身体もドキドキするし、ピンク色のドレッドに編み上げた髪の毛もめちゃめちゃ可愛い。

公園の池でボートに乗ったり、ディスコでフェイスペイントしながらキャッキャやる姿、ビルの屋上で薄汚い街を見下ろしながら、真っ青な空のかなたでしか実現できない夢を語り合う姿。町の片隅に捨てられた小さなバンの中で、ろうそくの光を見つめながらかわすキス。作品はまさに、ふたりの「恋」に「恋」する映画で、ああやっぱり、の女性監督の作品です。

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古い伝統の残るケニアでは上映されたのが7日間だけ。古い伝統が根強いその国の文化を、そこだけを切り取って批判はしますまい。むしろこの映画の出演者や映画監督がちゃんと海外の映画祭に出られていること(海外映画祭への出品の条件が、国内で最低7日間の公開だった)や、アフリカ映画アカデミー賞などアフリカの様々な映画賞で賞を獲得している、そのバランス感覚に、私は注目したい。

ともあれ。女性の性を描いてベトナムで上映禁止になった『第三夫人と髪飾り』、そして女性同士の恋愛を描いてケニアで上映中止となったこの作品。他人ごとに思える「表現の自由」において政治が最初に反応するのは、女子を含めたメインストリームになりえない人々の自由や楽しみだということは、覚えておいておいた方がいいかもしれません。

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11.9(土)公開 映画『ラフィキ:ふたりの夢』予告編
11.9(土)公開 映画『ラフィキ:ふたりの夢』予告編 thumnail
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『ラフィキ!ふたりの夢』

※劇場公開中

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