「男女」「男男」「女女」だけじゃない

前回は悶々のあまり「オッパイ問題」に終始してしまった『リリーのすべて』ですが、今回はもう少しちゃんと映画の内容をお伝えせねばなりません。てか、それが本来の仕事だってば。

物語はある日「本当は女性だと思う」と言い出した夫アイナー(ことリリー)を、大混乱に陥りながらもサポートし続けた妻グレタの、愛情を描いてゆきます。ふたりはデンマークの首都コペンハーゲンに住む芸術家のカップルなのですが、2人はグレタの個展をきっかけにパリに移住します。基本的に実話をもとにした映画なんですが、ここらへんの実際の事情はちょっと違うようです。

当時「ベル・エポック」と呼ばれた時代の自由にあふれるパリでは、リリーがリリーとして生きやすいことはもちろんではありますが、実はグレタにとっても自分がレズビアンであることを公表できる場所だったようです。当時のデンマークでは同性愛は違法でした。

さてこの映画、基本的にはわかりやすい作品ですが、世の中の性を「男と女とそれ以外」みたいに大雑把に考えてる人にとっては、え?あらっ?どしたこと?と思う点があります。それがリリーの女性としてのファーストキスの相手、青年ヘンリクとの関係です。リリー役がエディ・レッドメインでヘンリク役がベン・ウィショーという女子の勘所を抑えた配役は、まるで『キャロル』のB面のような眼福ですが、まあそれは置いといて。

エディの中の女子がめざめちゃっている瞬間。

あるパーティーで女装した自分を熱烈に口説てきたヘンリクの部屋を、いけないわいけないわ、と思いながら訪ねてしまったリリーは、ヘンリクが自分の身体をまさぐり始めると、ヤバいヤバいヤバいダメダメダメ!と撥ね退けます。ところがヘンリクは「大丈夫だよ、分かってるから」。リリーはバレてないと思っていましたが、ヘンリクはすべてを承知で誘っていたんです。彼は同性愛者だったんですね。

後も続くふたりの関係にグレタは嫉妬するのですが、リリーは「ただの友達よ、だって彼は同性愛者だから」と笑い飛ばします。リリーは本来的に女性なので、ヘンリクの相手じゃないんです。「男女」以外にも「男男」「女女」がある――なんて程度の認識は、性的指向性においては大雑把すぎるほど大雑把なわけです。

よく分かんなくても、ふんわり認め合うことはできるはず

映画ではあんまり触れられていませんが、リリーは男性器とともに未発達の女性器も持つ両性具有だったのではないかとも言われています。遺伝子的に女性は「XX」で男性は「XY」ですが、両性具有は「XXY」とか「XXXY」とか「XXXXY」だったりするわけで、実のところ性別はパックリふたつに分かれてるわけじゃなく、グラデーションなんだなーと思ったりもします。

ここにリリー&ヘンリク的な性的指向性がからんでくると、もうなにがなにやらややこしく、理解しようとすると悶々としちゃうわけですが、まあ究極のところは理解なんてせず、「ふうん。じゃあ、そういうのもアリってことで」でいいのかもしれません。そもそも「男女」の「XY」と「XX」だって、分かりあえないことだらけなんですから。

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