アメリカのセレブリティであるキム・カーダシアンは、シェイプウエアブランド「スキムズ(SKIMS)」を手がけたり、起業家としての顔をもちます。

「スキムズ」は幅広いサイズや、あらゆる肌色のための“ヌード”カラーを展開するほか、その着心地の良さなどから着実に人気を集めるブランドに成長していますが、中にはネットで物議をかもした製品も。

ここでは<コスモポリタン イギリス版>から、「スキムズ」の乳首ブラの炎上に見える、「女性の体にある乳首」を巡る社会の扱いについて語ります。

あえて乳首を見せるブラが炎上

ネット上で物議をかもしている、キム・カーダシアンの「スキムズ」が公開した新商品をプロモーションする動画。そのコメントの中にはスラット・シェイミング(性的な経験の多い人や性的に開放的な人を非難すること)や女性が製品開発とビジネスをリードしていることへの憎悪や批判が残念ながら見られました。

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Courtesy of Kim Kardashian/SKKN By Kim/Violet Grey/Diptyque/Sephora

新製品「アルティメット・ニップル・ブラ」のローンチとともに公開された同動画は、キムが気候学者に扮し、非営利団体「1%・フォー・ザ・プラネット」に売り上げの一部を寄付すると約束するものでした。しかし、ネット上の人々はキムの寄付の約束には目もくれなかったようです。

ネットの反応はさまざま

人々の注目はブラそのものや、特にブラについた“乳首”にありました。

「世界にはもっと重要な問題もあるのに。みんなにこんな物を見せつけて、キムはバカだ」とあるInstagramのユーザーはコメントしました。「今以上に性的な目で私たちの体が見られてほしいの? 胸はいつもこんなに張ってないし、乳首はいつも固くもない。しっかりしてくれよ」という声も。

中には、10月の「乳がん啓発月間」に生まれたこの新製品を歓迎する声も。「乳がんを患った女性がもっと自信がほしいと思ったときに、この商品は寄り添うものだと思うな。ほかにも出産を経験したりして、自分の胸が変わったと感じる人にもいいんじゃないか。私的には結構革新的だと思った! 」とコメントしています。

そして上記の反応以外には、また新しい“美の基準”や変なビューティートレンドが生まれたと嘆く声も見受けられました。

乳首が見えるのは恥ずかしいこと?

私個人(著者)の意見としては、このブラは最高だと思います。よくあるベージュのプッシュアップブラや下着のラインを隠すショーツなど、自然な体の形を隠すことが一般的になっていることを疑問に思っていました。そしてときには、自分の乳首の形が透けて見えるのは恥ずかしいとも同時に感じていました。

社会のプレッシャーから女性の多くは自分の体形や体の一部を“隠さなければ”と思わされることも多いなか、男性以外の乳首は特に性的な目でみられるほか、“みだらなもの”としても扱われてしまいます。

そんな中で乳首風の突起のついたブラは社会のプレッシャーに反抗するものとも捉えられるし、その社会的なメッセージに私は共感できます。

「ニップル・ブラ」は70年代から存在

実は、このようなブラのデザインを発表したのはキムが初めてではありません。「ニップル・ブラ」は1970年代から存在していて、ブラの上からつけるつけ乳首(乳首風の突起)もすでに多く売られています。

乳がんの治療を含む手術を経験した人が主ですが、ほかにもその見た目が好きな人などのために作られているそう。そして現在は乳がん患者のコミュニティからドラァグのアーティストまで、幅広い人に使われているという背景があります。

ドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』のサマンサ・ジョーンズがバーで男性を誘うためにシリコン製の乳首をつけ「乳首は今、トレンドなの。雑誌を見てみなよ」と言ったシーンは忘れられません。

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しかしキムのこの製品は今までにない規模で、大きな話題になりました。乳首は“ふつう”で、無害なただの体の一部なのに、乳首の形が見えている状態で街中を心地よく歩くことはできないのだという現実を突きつけられます。

「胸」は性的なものとされていて、乳首の形が見えていることは不適切で、社会的にふさわしくないとされています。たとえその乳首をもつ人が、ただ社会のそうした期待に応えるためだけに“ブラジャーをあえて着用している”のだとしても。

だからこそキムのこの新製品は、長きにわたって他者によってコントロールされ、“検閲”されてきた体の一部をふつうにしていくだけでなく、祝うような未来への第一歩だと私は思います。

乳首を隠さないのはエンパワメント?性的化を助長する?

セクシュアリティや“検閲”について学んでいくと、体の扱いにジェンダーの格差があることがすぐにわかります。女性の主体性や身体的な自己決定権という観点から、「#FreeTheNipple(フリー・ザ・ニップル)」は、とても重要な運動なのだと気がつきました。

free the nipple campaign at edinburgh fringe festival 2015
munro1//Getty Images
スコットランドのエディンバラで行われた「フリー・ザ・ニップル」ラリーから。

乳首は隠されてタブー視されることで、よりいっそう性的なものとなってしまうのです。今や授乳さえも、隠れて行わないといけないという現状があります。なので変に聞こえるかもしれませんが、乳首を隠さないということ自体がエンパワーメントにつながるような気持ちになるのです。

コロナ禍でワイヤーつきのブラをしなくなる人が急増し、パッドがないブラや、クロップトップがより一般的になりました。私個人的には、胸をがんばって覆わなければいけないんだと考えることが減っているような気がして、うれしく思います。

自分の体を恥じないことが重要

もちろん「スキムズ」はシェイプウエアブランドなので、100%ボディ・ポジティビティに貢献しているとは言えません。ブラも“上げて形を整える”ものとして販売をされているほか、乳首風の突起も、本物の乳首よりも可愛らしい小さいサイズで作られています。

「自分の体は自分で決める」というメッセージを体現するカーダシアン家ですが、マリリン・モンローのドレスを着るために断食をするなど、批判を浴びることも多々。「スキムズ」のこのブラは、“男性の性的なまなざし(male gaze)”のために媚びるものだと批判する人が多くいるのも事実です。

セックス・エキスパートのアリックス・フォックスさんは「乳首を“ふつう”にすると言うより、より性的なものにしていると思います。ほとんどの場合、男性の目を喜ばせることにしかならないのです」と語ります。

そして「スキムズ」の存在そのものがミソジニー(女性蔑視)的で、シェイプウエアによって体をキツく絞っていたコルセットがあった時代に女性を押し戻すものだと考える人も。同時に、フェミニンでカービーな体を祝福してくれるブランドだと歓迎する人もいるのです。

ただし大切なのは、ブランドに対してどう思うかに関わらず「自分の体を恥じないこと」。歴史をさかのぼり、昔からブラに“乳首”がついていれば、「乳首が透けただけで、こんなにも騒ぐようにはならなかったのでは? 」とも私は思います。

乳首をもっとありきたりなものに

私自身がこのブラを買うかどうかと言えば、きっと買わないでしょう。(Fカップまでしかサイズがないし、1万円近くします)。私にはすでに無料の乳首がついているから、要らないというのもあります。しかし不自然な形だとしても、乳首をもっとありきたいなものにしようとする考えには賛同しています。

an abortion rights demonstrator has the words my body my
Probal Rashid//Getty Images

キムの考えや製品に賛同するかどうかは置いておき、歴史的にずっと隠されてきたことで、乳首は性的なものにされ、タブー視されています。

どのようなモチベーションでこの製品をローンチしたかはわかりまぜんが、乳首の形を隠さないこのブラは、良い影響をもたらすと思います。人間の自然な体やその一部を恥ずかしいと思わせる社会のプレッシャーに耳を傾けず、みんなが自信をもてるようになればと私は願います。


※本記事は、Hearst Magazinesが所有するメディアの記事を翻訳したものです。元記事に関連する文化的背景や文脈を踏まえたうえで、補足を含む編集や構成の変更等を行う場合があります。
Translation:佐立武士
COSMOPOLITAN UK