SNSを通して、海外を中心に話題を集めている「ボディへア・ポジティブ」という言葉。ファッションや生き方と同様に、体毛を処理するのもしないのも自由という考えが根底にあり、価値観の多様性が重視される昨今では、「ボディポジティブ」に続く新たなキーワードとして浸透しつつあります。
そこで今回は、独自の感性で体毛と“共存”する選択を取ったミレニアル世代のオピニオンリーダー、HIBARIさんとKIENさんにインタビュー!
「ボディへア・ポジティブ」に生きるヒントやアドバイスを中心に、体毛との向き合い方やパートナーとのコミュニケーションの取り方、社会課題について聞きました。
プロフィール
■HIBARI
■KIEN
体毛もアイデンティティの一部
――ボディヘアに対する価値観を教えて下さい。職業柄感じる苦悩はありますか?
- HIBARI:自分の体毛は基本的に「自然なもの」として捉えていて、今は「“お手入れ”をしないといけない」と思わないかな。腕や脚の毛は、何年もずっとそのままにしてる。
ワキ毛に関しては、おいらはあってもなくてもどっちでも良くて、撮影に応じて伸ばしたり、処理したりしてるかな! でも基本的に、周りのモデルさんたちはほとんど処理しているから、特にお願いされているわけではないけど、みんなに合わせてる。
ただ、一度剃ってしまうと毛が生えそろうまでに時間がかかってしまって、中途半端に生えている状態が嫌で、剃り続けているのが正直なところ。
- KIEN:私はもともと、気分転換にバリカンで髪の毛を剃ることもあるから、「剃る」という行為自体には全然抵抗はないんだ。
だから一度だけワキ毛を剃ったことがあるんだけど、結論としては、ちくちくしてあまり気持ちいいものではなかった(笑)。きっと、これが原因で剃り続ける人もいるんだろうなと思ったよ。
体毛は結果的に自由に生やしてるけど、それは「剃らなきゃいけない」とプレッシャーを感じたことがないし、そう感じるのが嫌だからなのかも…!
- HIBARI:わかる。これをしていないと“未完成”みたいな風潮は嫌だよね。
- KIEN:中国では「身体髪膚、之を父母に受く。敢て毀傷せざるは、孝の始めなり」ということわざがあって。
これは、自分の体や毛は親から授かったものだから、傷つけないように心がけよう、といったメッセージなんだよね。その価値観は今でも自分の中で残っているのかもしれない。
それに今や、ワキ毛があってこそ自分らしくいられる。むしろ、ないと自分の一部が欠けているような、寂しい感覚だよ。 - HIBARI:すごい、もはや自分のアイデンティティになってるんだね!
おいらは、どこの毛は“剃られるべき”で、どこの毛は自然体で良いのか、その判断基準に戸惑うことがあるんだよね。
おいら、もともと眉毛は一本に繋がってて、口周りの毛も濃いタイプなんだけど、ある日メイクさんに「剃ってもいいですか?」って聞かれて、「この毛はない方がいいってこと?」って内心驚いたんだよね。
自分では全く気にならなかったし、こだわりもないから、ぶっちゃけ剃っても剃らなくてもどっちでもいいんだけど、“ムダ毛”の境界線を理解するのがいまだに難しい…。 - KIEN:たしかに、体毛だって髪の毛と同じくらい、大切に扱って欲しいと思う。
たとえば撮影現場で、髪の毛を切るときは事務所の許可をとる一方、口周りの毛やワキ毛は当たり前のように“処理されるべき存在”として捉えられることが多くて、無断で剃られてしまうこともある。
私の様に、体毛を愛おしいと思ってる人もいるのだから、髪の毛と同じように、処理してほしいのであればそれなりの対価があるべきだと思うのが本音。
あとはさっきも言ったけど、「ワキ毛も含めて私」だから、そこを理解したうえでお仕事をいただけると嬉しいよね!
おしゃれの新常識として楽しめる存在
――初めてボディへアを剃ったときの体験と心境は?
- HIBARI:初めて剃ったのはデリケートゾーンの毛かな。突然生え始めて、ふわふわしていて不思議だったから、好奇心で(笑)。
でも眉毛に関しては、完全に周りの友達やメディアの影響が大きいよ。当時は細眉が流行っていて、ファッション感覚で初めて整えたんだよね。それはそれで気に入ってたよ! - KIEN:私が初めて剃ったのは、髪の毛。子どもの頃からヘアアレンジが好きで、お小遣いをもらっては床屋さんに行って、おしゃれとして剃ってた。
大人になってから剃った初めての毛は、HIBARIと一緒でデリケートゾーン。中国では、一部の毛を残して刈り上げるへアスタイルが流行ってて、髪の毛と同じ感覚でデリケートゾーンを星形にしようと挑戦したら、案の定わけのわからない状態に終わった(笑)。それ以来、ずっと伸ばしっぱなしだよ。
――お二人とも、体毛をファッション感覚で楽しまれていますね。
- HIBARI:おしゃれの一環として体毛を染めたり、カットしたりして楽しむときもあれば、ただ生やして自然体のときもある。結論、自分が楽しければ良いよね!
- KIEN:私は自分の体毛を気に入ってるよ。太陽光に照らされて輝く一本一本の毛が、可愛いとさえ思う。
気分転換でヘアアレンジをするように、染めることもあるし、いつかワキ毛もデリケートゾーンの毛も編み上げるのが理想なんだよね~! 現実的にはなかなかそこまで伸びないけど。 - HIBARI:おいらも編み上げやってみたいんだよね!
「ワキ毛」から見るジェンダーギャップ
――ボディへアを生やしてから、印象的だった周囲の反応はありますか?
- KIEN:ワキ毛でからかわれた経験はあるよ。男友達から、「ワキ毛すごいよ。俺より長いかも」って笑われて。
そのときは、「みんな、こんなに毛は伸びないの? 逆に私がここまで伸びたのは奇跡!?」とさえ思ったよ(笑)。 - HIBARI:わかるわかる。ファッション業界の人たちは比較的、体型や肌、毛を「個性」として認めてくれる人が多い印象なんだけど、モデルになる前は全然違う界隈にいたから、ボーボーに生やしたワキ毛を見せると、「女なのにお前やべえな」っていじられていたよ。
全く傷つかなくて、むしろ当時は「そんなに!? これってネタになるようなことなんだ」ってびっくりした! - KIEN:ワキ毛がある女性、どんだけ珍しいんだろうね。
- HIBARI:でもその一方で、別の人からは『ワキ毛があると色っぽい』と褒められたこともあるよ。
ワキ毛一つでこんなに色々な捉え方があると、むしろ面白いなと思った。人には見た目の好みがあるように、毛の好みがあるんだなと。 - KIEN:会議が開けそうなくらい、体毛のなかでもワキ毛って大注目されてるよね(笑)。
特に「女性のワキ毛」については尚更。男性に対する反応とは全く違うから、ジェンダーギャップを感じる。
希望を伝えたうえで、相手の意思を尊重すべき
――パートナーから「剃ってほしい」と言われたことはありますか?
- HIBARI:おいらの周りに、恋人から脱毛をお願いされた人がいて。お金もかかるし、痛いし、どうしてそんなことを頼むのだろう…とモヤモヤしたな。
- KIEN:私はパートナーに、体毛についてどうこう言われたことはないよ。お互い、そのあたりは自由にしてるんだ。
一度だけ、相手から「剃った方がいい?」って聞かれたことがあるんだけど、相手の意思を尊重したいから、「好きにしたらいいよ」って伝えた。今や、体毛が生えることは自然すぎて話題にすらならない!
剃る・剃らないの選択は自由
――“ムダ毛”という言葉にどんな印象を抱きますか?
- HIBARI:剃る・剃らないの選択は完全に自由だから、体毛を処理している人のことを全く悪く思うことはないし、それが多くの人にとって“美しさの基準”になっている理由もよくわかる。
だって、テレビや雑誌で見るスターのほとんどは、髪の毛や眉毛・まつ毛以外の毛がほとんどないもんね。
そういう姿で撮影に臨んでいるのかもしれないし、もしかしたら加工されているだけなのかもしれないけど、そういった人たちに憧れて、“ムダ毛”がない姿に近づこうとする流れはどの時代にもあるし、サイクルが止まらないんだろうなと思う。 - KIEN:“ムダ毛”っていう言葉にも、語弊があるかもしれないよね。体毛は、どれも自然に生えてくるものだし。
でも前に、電車でパッと目に入ったカミソリメーカーの広告が、「ムダかどうかは、自分で決める」っていうメッセージを載せてて、素晴らしいなと思った。
「剃った方が綺麗」というキャッチコピーよりも、「“ムダ”だと思う毛は、脱毛するという選択もある」といったニュアンスに近くて、結構しっくりきたんだよね。
体毛がごく自然に映し出される社会へ
――社会に対して、もっとこうなったらいいのにと思うことがあれば教えてください。
- KIEN:もっと人間らしい姿が、当たり前のようにメディアなどで発信される社会は素敵だと思う。
私はフランスの映画が好きでよく見るんだけど、そこに登場する女性たちの多くは、ごく自然に体毛が生えているんだ。その作品は女性の体毛に焦点を当てているわけじゃなくて、あくまでも日常の一部として、自然と映し出されている。
「あぁ、これが人間だ」と色気すら感じたし、「自分はこれでいいんだ」とより強く肯定されたような気持ちになった! - HIBARI:たしかにそうだよね。おいらが知らないだけなのかもしれないけど、日本ではあまりそういう女優さんをテレビで観たことがない。どちらかというと、体毛に限らず、シミやニキビ一つない、ツルツル&ピカピカな肌の方が多いよね。
メディアもだけど、誰かの無意識の行動にも大きな影響力があると思う。
たとえば、おいらにニキビができてしまったとき。個人的にニキビはごく自然な現象だし、愛おしいとさえ思っているから、隠す必要はないと思ってる。
だけどメイクさんがご厚意で隠してくれたとき、それはそれですごく有難い一方で、「ニキビを作ってしまった自分が悪かったのかな」と思ってしまうことも。
おいらのように、何がリアルで何がそうじゃないのかわからなくなって混乱してしまう人は、若い人ほど多いと思う。
心地よいと感じることを、堂々と行う
――若い世代のオピニオンリーダーとして、「ボディへアポジティブ」に生きるヒントがあれば教えて下さい。
- HIBARI:体毛や体型…すべてのことにおいて、自分が楽しいと思える状態にあることは無敵だと思ってて。たとえ誰かに批判されたとしても、「あ、そう思うんだ。でもおいらは楽しいからいっか!」って思えるんだよね。
そのためには、自分の心に素直になって、自分で自分を幸せにしてあげることが大切だと思う。 - KIEN:結局、自分が良ければそれでいいよね。私はこれまで、自分の好きなことしかしてこなかったし、そんな自分もやっぱりいいなと。
そして、何かをするなら堂々としていればいい。それはボディイメージに限らず、すべてにおいて言えることだけど、やると決めたことを自信を持って行えば、いつか人生を振り返ったときに、一本の線になっているかもしれないから。
「当たり前」を問い直す
――等身大モデルとして、今後の目標を教えて下さい。
- HIBARI:最近自分の足の太さや筋肉のつき方が強そうでかわいいと思って、筋トレを頑張っているんです。
おいらはたまたまリアルサイズモデルとして、大きめの体型で楽しく生きてるけど、この活動を通して、誰かが「どんな体型でも、自分の好きな自分でいいんだ」と思ってもらえたら嬉しい! - KIEN:これからは、映像を通して自己表現したい。頭の中の世界をもっと表現していきたくて、映像や演技に興味があるんだ。
メインキャストとして今年公開される映画が決まって以来、「演技とはなんだろう」「良い役者とはどんな人だろう」と考えるようになって。自分なりに出た結論が、「自分が思うことを、思う存分表現できる人になりたい」ということだったんだよね。
これまではモデル活動を通して、それをしてきたつもりだったけど、今後は直接的に、映像を通して誰かの価値観を問い直すきっかけ作りがしたい!