「難しい」「とっつきにくい」といったイメージをもたれがちな「政治」の話。一方で、 SNS上では一部の人が国の政策や政治家の発言に関する報道に反応を示し、大きな議論が巻き起こることも。

そんななか、姉妹でYouTubeチャンネル「アネイモチャンネル」を開設した、臨床心理士・公認心理師のみたらし加奈さんと、政治家を目指す松野未佳さんは、もっと気軽に政治について話すことの大切さを訴えます。

今回は、普段から姉妹で政治について対話をしているというお二人に、政治について語る理由や相手の意見を尊重しながら対話をする方法を伺いました。

みたらし加奈

みたらし加奈さん
CEDRIC DIRADOURIAN
臨床心理士・公認心理師。国際心理支援協会で心理カウンセラーとして働きながら、メンタルヘルスケアに関しての発信を行っている。LGBTQ+当事者としてネットでも発信しており、コメンテーターとしても活躍。幅広く自分の知識や経験をシェアすることを目指している。

松野未佳

未佳さん
CEDRIC DIRADOURIAN
大学在学中にミス日本グランプリを受賞。それまでの経験から大学卒業後に政治家を目指しはじめ、2021年衆議院選挙では自民党で最年少の東京比例名簿記載者となった。現在は議員秘書として働きながら、若い世代にも政治に興味をもってもらえるようにSNSで発信中。

「政治」は気軽に話してもいいもの

――日常的にお二人で政治について話されるそうですね。そういった様子を姉妹で発信しようと思ったきっかけを教えてください。

  • 未佳私は政治家を目指しているのですが、多くの若い世代は政治に興味関心がないと感じています。同世代の友人とごはんを食べていても、あまり政治の話にはなりません。

    宗教と政治の話がどこか“タブー視”されている、という日本の現状に疑問を抱いていたので、普段から発信をしている姉と一緒に考えをシェアしていくことで、もっともっと多くの人にそういった話を広めていけるんじゃないかな、と思いました。
  • 加奈:昔からお互いの部屋を行き来しあいながら、政治の話や時事の話をすることが多かったんです。23時から明け方の4時くらいまで、喜怒哀楽を一周しながら二人で政治の話をしていました。

    これってあまり一般的じゃないのかな、と思ったときに「この密な意見交換会のような対話を、世の中に発信しないのはもったいないよね」と思って。未佳はSNSで活発に発信しているわけではなかったんですけど、二人で話していることをみんなにシェアしたほうが良いな、と思ってはじめました。
  • 未佳:これまではSNSで政治について発信することを怖いと思っていました。でも姉はそれをずっとやっていたので、私からしたら先駆者のような存在ですね。そんな姉と一緒に勇気をもって発信していくことで、何かを変えられるんじゃないかと思っています。

――姉妹で政治について話す様子を世の中に発信していくことに、どういった意義があると感じていますか?

  • 加奈:同世代の子たちと話すときに政治の話になりにくいのは、みんなが“何となく触れちゃいけないトピック”だと思っているからだと感じます。

    たとえば、天気の話をしていても気候変動の話が出てくることは少ないですし、コロナ渦の話をしていたとしても賃金格差や感染症法の話とか、そういったところと紐づいていないと感じるときがあります。

    こう言うと余計に複雑に聞こえるかもしれませんが、私たちはただ小難しい話をしているわけではなくて、内容をすごく噛み砕きながら気軽に話しているんです

    そうやって私たちが、日常生活の話をベースにオープンに政治について話している姿を発信したら、発信を受け取ってくださった方が「意外と他人と政治について話せるかも」「自分も興味があるトピックだな」と思って、近くにいる人にその話をしてくれるかもしれないですよね。そういう“つながり”みたいなものを広げられるんじゃないかな、と密かに期待して発信しています。
  • 未佳:政治って私たちの生活にすごく直結していることなのに、多くの人々はそれを実感していないように思います。私たちの発信が、政治をもっと身近に感じてもらうためのきっかけになってくれたら嬉しいですね。

――政治に興味がない人に想いを届けるのは簡単なことではないと思いますが、今後どのようにしてお二人の考えを伝えていこうと思っていますか?

  • 未佳:「政治は難しいから、専門知識のある人や政治についてよく勉強をしている人しか話しちゃいけない」というイメージをもっている人も多いと思います。

    でも、姉とざっくばらんに政治について発信していくことで、「こんな風に政治の話をしていいんだ」という認識を広げていければ、政治に対するイメージも少しずつ変わっていくのではないかと思います。最初は「政治について話すのって、ちょっとかっこいいね」くらいでいいんですよね。
  • 加奈:私たちの姿を見て、最初は「姉妹でYouTubeやってるんだ」「二人のファッションが好きだな」「二人の掛け合いが楽しい」とか、そういうところからコンテンツを見ていただければ、それはそれで嬉しいんですが、そのうち「あれ? 割と政治の話をしてる…」みたいな感じで、だんだんと一緒に政治に触れていくような感覚をもっていただけたらなって思っています。政治に興味をもってもらうための“入り口”は何でも良いと思うんです
みたらし加奈さん
CEDRIC DIRADOURIAN

――実際に政治の話をするときに「間違いを指摘されるのではないか」と不安になってしまう人も多いはずです。これに対してお二人はどう考えていますか?

  • 未佳:音楽や映画に対して感想を言うのと同じように、政治に対する感想を言えば良いと思います。人の考えに正解・不正解はないですし、自分と違う意見をもつ人に対しては、「考え方が少し異なる人がいるだけ」だと思って、恐れずに発言してほしいです
  • 加奈:ただ、制度によってしんどい思いをしている人や権利を剥奪されている人が存在するような問題に関しては、話し合ううえで“その問題の当事者ではない人”が慎重になるべきトピックだと思うので、個人でしっかりと勉強する必要もあると思います。

    話し合いや対話というのは、異なる意見をもった、あるいは立場が違うみんなが「この場では、安心して自分の考えを話せる」と感じていないとできないもの
    だと思っています。だから、慎重になるべきときは、色々な人のことを考えて、しっかりと学んだうえで発言できると良いのではないでしょうか。

家族・身近な人と政治について話すには

――家族間で政治について話すことを「難しい」と感じたことはありますか?

  • 加奈:私はあまりないです。ただ、あるトピックに関しては家族間で同じような意見をもっているけれど、別のトピックに関してはそれぞれが全く異なる意見をもっている場合もあります。

    私は、人と話し合うときにうまい具合に着地点が見つかるのは、日常で得られる“一番小さな成功体験”のひとつだと思っています。意見が食い違っていたとしても、お互いに納得できる着地点を見つけられたら、それは気軽に政治の話をするための成功体験を積んだことにもなると思います。もちろん、この考えはすべての家庭に当てはまるものではないと思いますが、私自身のことで言えば、たとえ難しさを感じたとしてもその状況や感情を大切にしたいと感じています。
  • 未佳:たとえば、世代の違いによって意見が割れるときもあると思うんですが、そういったときもなるべく相手の意見を否定しないように気をつけています。明らかな偏見や差別的な発言に対して「それは違う」と伝える場合はあるけれど、姉の言う通り、話し合いのなかでお互いが納得できる着地点を見つけることも大切だと思いますね。
  • 加奈:話し合いにおける身近な成功体験ができる場として家庭が機能するのは、とても理想的だと思います。一方で、家庭が最も“安心できない場所”だという人もいるはずです。その場合は、家族と距離をとる選択肢も大切だと思います。
松野未佳
CEDRIC DIRADOURIAN

――身近な人と話すからこそ、感情的になってしまい冷静に話せなくなってしまうこともあると思います。この場合はどのように対処したら良いと思いますか?

  • 未佳:身内で政治について話し合うときに関しては、「そういう考え方の人もいるんだな」と流すことが、ときには自分の心を守ったり、相手との関係性を良好に保ちつつ気軽に話し合ったりするために必要なことだと思っています。
  • 加奈:私と未佳は互いに、「家族といえども他人」という考えをもっているからこそ、互いを尊重しながら話し合いができているんだと思います。これと同様に、どこかのタイミングで「この人とはわかり合えない」と感じたときに、心の境界線を引くことも大切だと思います。

    もしも自分と意見や考え方が違う人と話すときに、精神的に傷ついたり「相手から精神的な攻撃を受けている」と感じたりした場合は、ひとまず自分が安全だと思えるコミュニティに行くことが大事です

――身近な人と“健全に”政治や社会問題に関する話をするために、アドバイスをお願いします。

  • 未佳:私は、頭ごなしに相手を否定しないこと、常に学ぶ姿勢で相手の話を聞くことを大切にしています。そうすると、意見が食い違ってもあまりカッとすることもなく、「勉強になるな」と思いながら相手の話を聞くことができるんです。

    もしも一度対話をしてみて、心が疲れてしまったり「この人と話すと傷つくな」と思ったりしたら、その人とは無理に政治の話をしなくても良いと思います。こうやって、対話をしたときの自分の感情に気を向けていれば、周囲の人たちと健全に政治について話せるんじゃないかと思います。
  • 加奈:すべての人に「結果じゃなくて思考の過程がある」と知ることですね。自分と違う意見をもっていたとしても、相手にも必ずその考えに行き着くまでの過程があります。同様に、自分にも今の考えに行き着くまでの過程があって、それぞれがこれまでに体験してきたことなどから影響を受けているはずです。

    自分だけが相手の思考の過程を考えていても、相手が結果(意見そのもの)ばかりを見るようであれば、うまく対話ができません。「私はあなたの思考の過程を大事にしているから、あなたも私の思考の過程を大事にしてほしい」と伝えて“ルール”をつくったうえで話し合うのが良いと思います。
  • 未佳:「なぜそういう考えに至ったんだろう」と考えるのは、すごく大事ですね。そう考えることによって、相手のことも理解できるし、自分も納得できると思います。

政治について話す“普通の姉妹”として

――お二人の普段の活動に、政治についての対話が生かされていると感じることがあれば教えてください。

  • 加奈:私が声を上げている問題のなかには、ジェンダーのことやLGBTQ+のことなど、今の世の中で良くも悪くも話題になっているトピックが含まれます。

    私自身も当事者としてしんどくなる場面があるからこそ、このような話をするときに、同じ意見をもつコミュニティのなかで落ち着こうとする心の動きが生まれるんですよね。そうすると、みんなが同じ意見や情報をもっているからこそ、怒りや悲しみが連鎖してしまい、未来に対して希望を抱けなくなってしまう瞬間もあるんです。

    でも家で未佳と話をすることで、また別の視点で「こういうことがあったんだ」「こういう考え方は新しいな」みたいに、様々な意見に対する怒りや悲しみ、喜びを共有できるんです。このように、普段自分が属しているコミュニティ以外にも、自分の考えをやさしく包んでくれる場所をもっておくことが、普段の発信における“心の支え”ですね。

    それに、互いに色々な視点をシェアし合うことによって、自分の理解がさらに深まっていく気がします。このおかげで、発信するための土台がつくられていってるんだと思います。
  • 未佳:私は政治家になるために自分が提言する政策を考えるときには、どうしても大枠を見て物事を考えることが多くなると思っていて。たとえば少子高齢化で人口が減少することに対しては、国レベルで大きく動けるような政策を考えてしまうんですよね。

    一方で姉は仕事上、一人ひとりの声に耳を傾けていて、そしてその声を大切にする人なので、「でも、こういう考え方の人もいるんじゃない?」と別の視点の意見をくれることがあるんです。

    “人に寄り添う政治”を教えてくれたのは姉ですし、二人での対話が「私ももっともっと一人ひとりの話が聞きたい」と思うきっかけにもなりました。そういう意味で、視点が似ているけれど少し異なる意見をもった姉と政治について話し合うのは、すごく勉強になると思っています。
みたらし加奈・未佳
CEDRIC DIRADOURIAN

――最後にSNSを通して、今後どのようなことを発信していきたいかを教えてください。

  • 未佳:コンテンツを見てくださる皆さんと変わらない存在だということを知っていただいたうえで、“普通の姉妹”が気軽に政治について話している様子を伝えられたら良いですね。あと、単純に二人で楽しみながら発信していくことで、見ていただける方や、ともに発信していく仲間が増えたらいいな、とも思っています。
  • 加奈:奔放な姉と真面目な妹みたいなキャラクター性もあるので、まずは私たちの掛け合いを楽しんでもらえたら、とても嬉しいです。

    政治について考えることや、誰かと対話をすること、同じ意見をもった“味方”を見つけることの、小さなきっかけの一つにでもなれたら嬉しいですね。クスッと笑えてちょっと考えさせられる、みたいなやりとりを二人で発信していけたらいいなと思っています。