近年インフルエンサーや著名人による発信が活発になり、若い世代の政治参加への意識が高まっているように見えはするものの、選挙のたびに投票率の低さが話題に上がるのが現状です。

今回お話を聞いたのは一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN代表理事の能條桃子さんInstagramなどSNSを中心に、U30世代(30歳以下)に向け政治の情報を分かりやすく発信。Instagramのフォロワーは約7.7万人(2021年10月時点)で、ミレニアル~Z世代を中心に支持を集めています。

「政治の話は人としづらい」「投票に行ってもどうせ変わらない」と思ってしまう…そんな人に向けて能條さんが語るメッセージとは——。

お話を伺ったのは…

NO YOUTH NO JAPAN 代表理事
能條桃子さん

 
NO YOUTH NO JAPAN


1998年生まれ。一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN代表理事。慶應義塾大学院経済学研究科修士1年。政治への関心をきっかけにデンマークに留学。留学中の2019年、同年参院選に向けNO YOUTH NO JAPANを創設。帰国後、同団体を一般社団法人化。現在、約60人のメンバーとともにU30世代が政治参加する社会を目指し活動中。

——日本のU30世代の投票率が低いと、社会にどのような影響があるのでしょうか。

まずは「若い世代のリアルな声が政策に反映されない」こと。

私たち一般市民が日常で感じるモヤモヤや将来の不安を、言語化し政策に落とし込んでいくのが政治です。投票というアクションは、私たちが今何に困りごとを感じているのか伝えることができる具体的な手段の一つ。

声を上げない限り、そのモヤモヤは「課題」として発見されることすらありません。

若い世代の政治家が増えないのも問題だと思っています。政治家の周りにいるのも上の年代の人ばかり。このままの状況で若者のための政策は作られませんよね。

たとえば、選択的夫婦別姓や同性婚、また緊急避妊薬などの問題。多くの20〜30代が賛成している議題なのになぜ通らないのかというと、意思決定の場に若い世代の声が届いていないから。

若い世代の問題提起が政治に届いた例が「生理の貧困」問題。実際に声を上げる人がいたから、国や自治体が動き出したんです。

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有権者一人ひとりに与えられた一票は、いわば自分という存在の「登録用紙」。「私はここにいるよ」と、国に存在を認知させるための手段とも言えると思います。

私たちは自分がたまたま生まれた日本という国で、税金を納め法律を守らなければならない。人生に関わる重要なことを、自分の声が届かない場で決められるのって嫌じゃないですか?

——投票率の低さの原因はどんなところにあると思いますか?

投票率が低い原因はいくつか考えられますが、個人レベルで考えると学校や家庭など育った環境によるところが大きいですね。親が当たり前のように選挙に行く家庭では、子どもも選挙に行くのが当たり前になる。

学生の頃、友人と政治を語れる環境にいたかどうかも影響するはず。家庭内や友人同士で政治や社会に関する議論をするって、日本ではあまり一般的ではないですよね。

「自分の一票で何かが変わると思えない」という声もよく聞きます。今の日本の政治家に失望してしまったとか。

私は、政治家は「国民の鏡」のような存在だと思っています。良い政治家がいないということは、私たちが良い有権者になれていないことも同時に意味している。

あなたの一票だけで社会がすぐに変わらないのも、また事実。選挙のあとに投票した政党や政治家がきちんと役割を果たしているか、監視しつづけることも大切です。

——留学したデンマークでは、政治に対する意識にどのような違いを感じましたか?

日本の若者の投票率の低さに危機感を覚えたことがきっかけで、若い世代の政治参加が当たり前なデンマークに留学をしました。罰則などのペナルティがないにもかかわらず、同国で若い世代の国政選挙の投票率は84%ほど。

選挙前の話題の中心は、日本と違って「投票に行くかどうか」ではなく「どの政党、どの候補者に投票するか」。選挙に行くことは”意識が高い”行動でもなんでもない。学校でも家庭でもみんな選挙に行くから、当たり前のアクションになっているんです。

彼らがしている「政治参加」は選挙だけではありません。気候変動やジェンダー不平等などの社会問題を訴えるデモ活動も盛んで、政治家に直接問題提起する人もとても多い。

だからこそ、デンマークでは若年層の声が反映された政策が実現しています。たとえば、大学などの高等教育は無償、入学後も月10万円程度の生活支援費が政府から全員に払われる。失敗があっても人生をやり直せるような施策も充実しています。

こうした社会福祉は、かねてから国民が自らの声を国に主張し勝ち取ってきたもの。

声を上げればきちんと国に届くし、私たち自身が生きたいと思う理想の社会に近づくことができる。それを肌で感じた経験でした。

——そうした風土の違いは、やはり教育によるところが大きいのでしょうか?

もちろんそれもあると思います。たとえば、日本の幼稚園では先生がその日のカリキュラムをすべて決めていますよね。一方デンマークでは、何して遊ぶかを子どもたちに決めさせるんです。

学校では、先生が自分が支持している政党や政治家についてオープンに話します。生徒たちもそれぞれ自分の意見を持っているので、先生の言ったことに大きく影響されるということはありません。また、選挙前に候補者へのインタビューが課題として出る学校も。選挙のテントで候補者と子供たちが交流している姿を見るのも日常の風景です。

デンマークでは日常のなかに政治が溶け込んでいました。友人との他愛ないおしゃべりのなかに、政治のトピックが出てくることも珍しくなかったです。

——日本では政治の話をすること自体のハードルが依然として高いように感じます。「押しつけ」にならないように政治を話題にするにはどうしたらいいでしょう?

二点あって、一点目の大切なポイントは「ジャッジしない」ことだと思っています。お互いの意見に違いがあっても結論を出して白黒をつけようと思わない、ということです。

デンマークの人々は幼い頃から「あなたはどう思うのか」と問われ、あらゆる物事に自分なりの意見を持つように教育されていました。

正しい議論のやり方も学んでいます。「意見」と「人格」を切り離して考えているんです。人の意見は、それぞれが育った環境や経験によって作られるものだとわかっている。

意見に相違があっても自分と「視点」が違うだけだと理解しているので、人格を攻撃したり「間違っている」とジャッジしたりしません。心理的安全性が担保されて初めて、恐れずに意見交換ができるんです。

もう一つは「自分の素直な感情を伴っているか」ですね。

たとえばアイドルなど「推し」の話をするとき、「好き」という感情がストレートに出ちゃいますよね。そして、それが周りの人に伝播することも珍しくない。

そういうコミュニケーションの形なら、政治や社会に関する話題でも押しつけやマウントにならない形で意見交換がしやすいんじゃないでしょうか。

私がデンマークにいたとき、様々な社会課題について考えるきっかけはいつも友人でした。ある政党の熱心なサポーターの子や環境問題に熱心でヴィーガンの子が学校にいて、その子たちの存在が入口だったんです。

その感情が「怒り」でもいいと考えていて。私も活動を始めた発端は「こんな社会はどう考えてもおかしい!」という憤りでした。

ただ、文句を言うだけでは何も変わらないのでアクションを起こす人が増えるといいなと思います。

——2年近く「NO YOUTH NO JAPAN」の活動をされている中で感じる変化はありますか?

もともと多少なりとも「政治は大切」だと感じていたけど、知識を得る術がなかったとか、どう声を上げていいかわからなかった人たちが、私たち若い世代にはたくさんいた。

元々政治にまったく無関心だった人たちにリーチしたというよりは、そういう人たちに私たちのメッセージが届いたんだと思います。

——最後に、コスモポリタン読者に向けてメッセージはありますか?

選挙に関して伝えたいのは、「投票に正解はない」ということです。

つい私たちは正しい答えを求めてしまいがち。でも、投票に正解はありません。自分の価値観で投票先を選べばいいんです。

あなた自身が日常で感じるモヤモヤこそが「課題意識」であり、それを解決する一つの手段が「政治」。その違和感から目を背けないでください。

モヤモヤを感じても、「自分が解決すべき問題」だと考えて一人で背負ってきた人もいると思います。あなたが抱えているその困りごとは、本当は社会全体で取り組むべき課題ではないですか? 「NO YOUTH NO JAPAN」の発信が、それに気がつくきっかけになれば嬉しいです。

逆に、普段の生活のなかで問題意識を感じる場面がないと言う人は、恵まれた「特権的」な立場にいるのかもしれません。そのことを認識して、社会で困っている別の誰かの声を代弁する姿勢で投票するのも素晴らしいことだと思います。

今の時代、SNSで政治家に直接DMを送ることだってできます。応援したい政治家がいるならスタッフとしてサポートすることもできます。

私は選挙事務所でインターンをした経験があるんですが、やらないといけない作業が結構多いんですよね。平日夜や土日だけのボランティアでも大歓迎されるはず。政治家の周りに若い人が増えることで起こる変化もあると思います。

もちろん選挙に行くことはとても大切だけど、投票だけが政治参加じゃないという認識も、私たちの世代の間でもっと広めていきたいです。

まずは一人ひとりが「イシュー(争点)」を持つことが第一歩。そのきっかけを提供できるよう、これからも活動していきます。


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