今年は日本が議長国となり、5月19日から21日に広島で開催されるG7サミット(主要7カ国首脳会議)。フランス、米国、英国、ドイツ、日本、イタリア、カナダの首脳が集まり、世界経済や地域情勢、地球規模の課題について意見交換を行います。世界に大きな影響を与えるG7に、女性の権利やジェンダー平等の課題を投げかけ、政策提言を行う「Women7」。G7サミットに先駆け、「W7サミット」が4月に開催されました。

今回はW7の共同代表を担い、「国際協力NGOジョイセフ」で アドボカシー・マネージャーを務める斎藤文栄さんに、W7の活動やサミットで発表された内容について伺いました。W7とはどういうものなのか、何が重要なのか、基礎知識をカバーしながら紹介していきます!

G7の政策にジェンダー視点を投げかける

「Women7」とは?

Women(女性)の頭文字をとった「W7」は、同じ目的を持った人や団体が集まり、自分たちの関心や課題をG7のリーダーに提言を行うエンゲージメント・グループのひとつです。主にジェンダー平等や女性の権利、LGBTQ+やSOGIを含むフェミニスト課題に関する市民社会の声を集めて提言をまとめ、G7の政策へ反映させるために提言をしています。

W7のほかにも、以下7つのグループがあります。

  1. B7(Business・ビジネス)
  2. C7(Civil・市民社会)
  3. S7(Science・科学者)
  4. T7(Think・シンクタンク)
  5. Y7(Youth・若者)
  6. L7(Labour 7・労働)
  7. U7(Urban 7・都市)

それぞれが異なる課題に重きをおき、企業や非営利団体、市民団体などが集まって提言を行います。斎藤さん自身もW7の共同代表を努めながら、C7の国際保健の分野にある「ジェンダーとヘルス」というサブグループのコーディネーターとして関わりを持っています。

最近では、LGBTQ+の人権保護や政策提言を行うP7(Pride)が設立され、G7公式のエンゲージメント・グループとして認められるよう、W7もサポートを行っています。

 
Women7/ Yuichi Mori
4月16日に開催されたサミットから

設立されたのはいつ?ミッションは?

W7が設立されたのは、2018年にカナダで開催されたG7シャルルボワ・サミットのとき。W7の運営は各国の市民社会に任されていて、カナダ政府がジェンダー平等の取り組みに積極的だったことから、政府のサポートを受けてW7が設立されたそうです。

なぜ提言を行う?

主要国の首脳が一同に会するG7。そんな大きな影響力を持つ集まりだからこそ、ジェンダーの視点がないと「ゆがみ」が生まれてしまうと斎藤さんは言います。

その例として、紛争下における女性の性暴力の問題などが挙げられます。これは複合的に紛争の影響によっておこるため、意識的な視点をもっていないと気が付けない課題だと言います。

「現場で起こっている課題も取りこぼさないために、ジェンダー視点を横串とした政策提言を行っています」

W7の運営に関わっているのは、どのような人・団体?

140以上のNGOやNPOなどが加盟し、日本ではSDGsの推進を図る市民団体「SDGs市民社会ネットワーク」のジェンダーユニットの幹事を務めるジョイセフとJAWW(日本女性監視機構)が中心となって運営しています。

そのなかで「#なんでないの プロジェクト」共同代表の福田和子さん、ヒューライツ大阪所長の三輪敦子さんと斎藤さんの3人が共同代表を務めました。実行委員には、普段からジェンダー平等や女性の権利、フェミニスト課題について国際的なアドボカシー(政策提言活動)に関わっている若い方々や団体が参加しています。

資金源は?

W7の事務局を設立して運営していくために、資金提供を通してW7の取り組みを今回支えたのは、「オープン・ソサエティ財団」。日本政府も会場費などへ援助をしてくれました。

「企業からのスポンサーだと活動内容に制約がかかってしまうので、さまざまな財団に企画書を送りました。しかし、(比較的新しく、先の見えづらいこのような取り組みに対して)資金を出す財団はほとんどなく、かなり資金調達に苦労しました」

これまでG7が開催され、W7も活動を行ったカナダやイギリス、フランス、ドイツでは政府が資金を出しているそうです。日本も、最終的には会場費などの援助をして下さったそうですが、人件費や海外から招へいする人の旅費などはカバーしてもらえず、なかなか厳しかったとのこと…。

「わたしたちも政府に交渉したのですが、日本の予算システムのスケジュール上、もらえたとしても日程に間に合わない。そこで一度断られた『オープン・ソサエティ財団』をもう一度説得し、事務局をまかなう資金を調達しました。わたしたちも普段の業務をやりながら、W7サミットに向けて準備するのは本当に大変でした。結局、事務局を立ち上げるのが遅くなり、かなりの部分、手弁当でやってました」

多様な女性の声をカバーするために工夫していることは?

W7の一番の目的は、コミュニケ(Communiqué)とよばれる提言書をまとめ、G7サミットに先駆けて政府に提出をすること。今回、作成のための議論には、公募で集まった世界38カ国、87名のアドバイザーが参加したそう。

そんな提言書ですが、今年のW7が重きを置いたのは「インターセクショナリティ」。性別や人種、階級など、個人のアイデンティティが交差して生じる差別を指す言葉です。そのなかでも、とくに障がいを持つ女性やSOGIの課題など、当事者の声を反映することを主題に、アドバイザーを選んだと言います。

「G7の政策は、グローバルサウス(復興国・途上国)に及ぼす影響も大きい。グローバルサウスの市民社会の声も届けたいと考え、アドバイザーのうち40%がグローバルサウス、20%を若年層で構成。意見を交換しながら提言書をつくりましたが、より多様な声を取り入れるために、草案ができた段階でユースと一般の方々とも、意見や課題を議論する機会をもちました」

政府が募集しているパブリックコメントのように誰もが参加できる形をとり、そこで集まった声も提言にまとめたのだとか。さまざまな意見が集まったものの「男性やクィアな人のアドバイザーの応募が少なさにW7としての限界は感じました」と斎藤さん。ただ、若い世代の男性と話していると、働き方や性被害による生きづらさから、ジェンダー平等に興味のある人が増えているのを実感していると語ります。

speech ballons design set
MASATOSHI HANAI//Getty Images

インターセクショナリティを主題とした提言書

今回発表した提言書のフォーカスは?

今年度の提言書には、5つの柱があります。

女性のエンパワーメント、意味ある参加、リーダーシップ

    日本に根付くジェンダーや単一国家的な構造を見直し、家族や社会、経済で女性が影響力を発揮するために、クオータ制(政治分野などにある今ある格差を埋めるため、ジェンダーの比率をあらかじめ確保して割り当てる制度)の採用や、教育システムの改善、賃金格差の是正などが記されています。

    女性の経済的正義とケアエコノミー

      ケアエコノミーとは、家事や育児、介護、看護などのケアワークに関する経済活動のこと世界的なパンデミックや生活費の高騰などにより、経済的不平等が悪化し続けています。家事や育児、介護、看護などのケア役割を担うことが多いすべての女性のジェンダー平等の保証を求めるものです。

      身体の自立と自己決定

      ジェンダーに基づく以下の3つの課題に焦点を当てています。

      1. ジェンダーに基づく暴力(GBV)
      2. 性と生殖に関する健康と権利(SRHR)
      3. 性的指向・性自認・ジェンダー表現・性的特徴(SOGIESC)

      社会規範や差別的な法律により、多様な人々が疎外されています。彼らが平等な機会を得たり、社会に参加したりするために、法整備や包括的性教育と性と生殖に関する健康のケア、すべてのジェンダーとセクシュアリティの平等の確保を要請しています。

      持続可能性と正義のためのフェミニスト外交政策

      フェミニスト外交政策とは、人種、性別、階級、性的指向、性自認など複数の個人のアイデンティティが交差して存在する差別の現状を理解したうえで、ジェンダー平等の推進に取り組むこと。男性中心の画一的な意思決定の場により多様な視点を含めることで、男性も含めて誰もが自分らしく生きられる社会にするためのアプローチとして「フェミニスト」という言葉を使っています。

      持続可能性(サステナビリティ)に関するところでは、気候変動によって女性が被る影響の対処や、資金へのアクセスを求める内容も記述しています。

      ジェンダー平等のための説明責任と財源調達

      実際にG7での宣言がどのように政策に反映されているのか、その過程も公開する説明責任が果たされているかどうかをウォッチすべき必要性を述べています。

      この5つのテーマに横串を通すものとして、インターセクショナリティの視点を入れ込むことを注意しながら作成されたそうです。全文はこちらから見られます。

      どのような社会の流れを受けて策定されたもの?

      女性の自己決定に関する部分は、SNSを追い風に性と生殖に関する健康と権利(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス・ライツ以下、SRHR)の高まる議論を受けて、より強調して書き込まれているのだとか。日本でも避妊具の選択肢の少なさや、他国と比べてアクセスが制限されてていること、費用の高さなどの問題が近年可視化されるようになっています。

      海外では、女性が自身の体にまつわる事柄を選択できる権利の象徴的な問題としてSRHRが取り上げられています。アメリカでは人口妊娠中絶を憲法上の権利と認めるロー対ウェイド判決が50年越しに覆され、憲法で保障された中絶の権利が否定されたことも大きな影響を与えていると言います。

      「わたしたちはよく『声を出しているだけで、なにか世の中が変わるの?』と疑問を向けられることもあります。ただ、ロー対ウェイド判決が覆ったように、わたしたちが声を上げなければこれまで獲得してきた権利も失われてしまう可能性もある。声を出さなければ、『おかしい』と思っていることを変えていけないんです」
      「G7はひとつの機会でしかありませんが、せっかくならそのチャンスを利用して、わたしたちの声を届けたい。国内外でさまざまな機会で世の中の生きづらさを感じている人の声を届けることは、市民社会の使命だと思っています」

      作成した提言書はどうするの?

      16日にW7サミットで提言書の内容を発表したあと、障がいのある人やLGBTQ+当事者、アフリカやヨーロッパを拠点に活動するW7アドバイザーや実行委員ら20人で総理官邸に行き、岸田総理へ届けられました。

       
      Women7/ Yuichi Mori
      2023年4月17日。W7が提出した提言書を読む岸田文雄内閣総理大臣(左)と、小倉將信男女共同参画・女性活躍担当大臣


      W7のコミュニケが政策に反映され、日本社会で実行されるかどうかをどのようにフォローしていく?

      G7の首脳宣言や各官僚大臣会合で声明が出されるときも、ジェンダー平等やSRHRに取り組んでいくこと自体は文書で記述されています。しかし、内容に具体性がなく、本当に取り組んでいくのかどうか見えない部分に対して、G7自身も新たな取り組みを開始したそう。

      「昨年、ドイツ・エルマウで行われたG7サミットの首脳宣言で、ジェンダー平等の達成に向けた進捗を監視するために、『ジェンダー格差に関するG7ダッシュボード』が導入されました。今後は、さらにジェンダー平等の指標を増やし、進捗をモニタリングしていく組織をつくる動きも出ています」

      「正確に追っていくためには資金が必要」と斎藤さん。G7各国の活動家たちとも議論をしながら、ウオッチのための事務局や、運営していくためのアドボカシーを設立できるよう動いていると言います。

      日本政府に期待するのはジェンダー平等を先導する姿

      W7サミットって何?

      W7サミットは、提言書を発表するために開催されるもの。今年は4月16日に、浜離宮朝日ホールで一日を使って開催されました。当日は各団体の代表やアドボカシーが世界各国から集まったほか、小倉將信男女共同参画・女性活躍担当大臣も登壇。

       
      Women7/ Yuichi Mori
      2023年4月16日に行われた「W7サミット」にて

      どんなことが議論された?

      インターセクショナリティを軸に、ユースや障害のある人、在日コリアン女性など、多様な背景をもつ市民の視点から見る社会課題について、ディスカッションが行われました。

      小倉大臣は、ユース3人と意見交換をする形で参加。同セッションでの焦点の1つは、ジェンダーの視点から見るAIやデジタルのこと。AIの持つ危険性や、アンコンシャスバイアスを強化してしまう可能性、デジタル暴力などの懸念点に対しての政府の姿勢などがうかがわれました。

      一方で、STEM教育の推進や就労トレーニングなどのデジタル施策は、これからの社会に不可欠なもの。こういった内容を「デジタル声明」として取りまとめ、「デジタル大臣会合」でW7として届けたと言います。

      「当日はデジタルのポジティブな面とネガティブな面で議論されていましたね。デジタルの分野はまだ未知なところもあるので、5つのワーキンググループとは別にトピックを設け、丁寧に説明する必要がありました」

      日本政府に期待することは?

      「今の日本政府を見ていると、ジェンダー課題への対応は後回しにされている印象を受ける」と斎藤さん。

      「G7の他の国では、すでにジェンダー平等が常識になっています。例えば日本の政治家がLGBTQ+への差別的な発言をして、『失敗したな』とは思っても、それが恥じるべきことだという認識までには至っていない。日本は世界基準に追いつくだけでなく、遅れているからこそ先頭を切ってリーディングする意気込みで、ジェンダー平等に向けた具体的な行動を実行してほしいです」

      サミットに登壇した小倉大臣の発言では、「ジェンダー平等のため、大切さについて国民にしっかりと伝えていく」といった内容が。当日、それ受けて「多くの問題は国民ではなく、政府側にあると感じる。問題となる発言なども多くが政府内からでてきていることが課題だ」という意見も参加者からでました。

      「日本政府はさまざまな国際人権機関から勧告を受けています。人権に関しては、『世論を変えるのも、政府の役割だ』と言われています。わたしたちがG7に求めているのは、日本だけでなく、グローバルにジェンダー平等と女性の権利、フェミニスト課題に取り組んでいく熱気を具体的なコミットメントとともに作り上げていくことです」
      「ジェンダー平等は、女性のエンパワーメントだけではありません。G7は自由、民主主義、人権などの価値観が一致しているので、G7でしか発信できないコアな部分、つまり女性の人権や差別の撤廃、フェミニスト問題を推進する必要があると思います」

      今年のサミットでの功績は?

      これまで開催されたW7サミットと比べたとき、今年は障害×女性、紛争×女性、SOGI×女性、ユース×女性、民族×女性といった当事者を巻き込んだ議論が多くできたと自負しているとのこと。

      「日本に住んでいると民族の問題に触れられる機会は少ないのですが、アイヌや部落、在日コリアンなど、日本の生活で生きづらさを抱えている人はたくさんいます。今回のW7では、在日コリアンの方が登壇し、お話をしていただきました。インターセクショナリティは国際的に共通した課題となっているので、日本の社会にある交差性を見せていく狙いがあります」

      市民社会の声が具体的なコミットメントに反映されるために

      市民にできるアクションは?

      市民の連帯なくして、活動が広まっていくことはむずかしい。それを日々実感しているからこそ斎藤さんは地道に「G7が発表した男女平等のメッセージを読んで、伝えていくこと」をあげます。

      「とくに今年はG7イヤーで、各メディアから注目を集めています。政府としても、G7サミットでの発言と反対の行動をとるわけにはいきません。市民社会で活動をやっていくなかで、わたしたちがG7での発言や約束に積極的に触れていくことで、日本政府も「やっぱり取り組んでいかなければならない」と、改めて意識が向くのではないでしょうか」

      活動を通して伝えたいことは?

      日本でジェンダーに関する発言をすると叩かれやすいだけでなく、何年たっても何も変わっていかないような、閉鎖感を覚えることも多いでしょう。そんな現状を前に、しんどさや生きづらさを感じている人もいるかもれません。

      斎藤さんはW7を通して発信しながらエールを送ります。

      「それでも、諦めてしまったら社会を変えることはできません。自分が楽しく感じられなければ続けられないので、まずは自分自身が幸せであることが大切だと思っています」
      「子育てや親の介護で社会から退くときもありますが、誰かが継続して活動していればいつでも戻ってくることができます。活動のなかで見つけた幸せをポジティブに変換していけば、一過性ではなく、持続性のあるムーブメントにつながるはず。W7がその動きのひとつとして、誰かをエンパワメントするきっかけになればと思っています」

      斎藤文栄さん

      image
      FUMIE SAITO
      斎藤文栄(さいとう・ふみえ)/公益財団法人ジョイセフ グローバル・アドボカシー・ディレクター兼SDGs市民社会ネットワーク ジェンダーユニット共同幹事 /W7ジャパン共同代表
      国会議員政策担当秘書として配偶者暴力防止(DV)法や児童買春・ポルノ禁止法等の立法に携わった後、内閣府企画調整官、東日本大震災女性支援ネットワーク・コーディネーター、The Partnership for Maternal, Newborn & Child Health 初のアジア地域コーディネーターや、国連女性機関日本事務所の資金調達・パートナーシップ専門官を歴任。2019年から現職。2022 W7ドイツ・アドバイザー。最近の論文に 『Women and the 2011 East Japan Disaster』(2012)カナダにおけるLGBTQ+の就労をめぐる状況(2017)諸外国における女性活躍・雇用均等にかかる情報公開等について(カナダ)(2019)『Women’s Empowerment and Gender Equality in Japan』 (2019) 『ジェンダー平等への日本の取り組み。国際社会からの提言』(2023)