2022年、世界経済フォーラムが発表した「ジェンダー・ギャップ指数」の政治分野において、日本は146カ国中139位。国会議員の女性比率は低く、世間の意見を反映できる体制が整っているとは決して言いがたいのが現状です。

そんななか、能條桃子さんを中心に、ジェンダー平等の実現を掲げ、国会の多様化を目指している「FIFTYS PROJECT(フィフティーズ・プロジェクト)」が2023年4月の統一地方選挙に向けて昨年秋より始動。

今回は、能條桃子さんに日本の政治における現状の課題をインタビュー。フィフティーズ・プロジェクトの活動や今後の取り組みについても聞きました。

まずは地方の女性議員を増やすことから

――フィフティーズ・プロジェクトが掲げる目標について教えてください。

若者や女性たちも同じ社会で平等に権利を持っているはずです。課題や解決されていない問題が山積みなのに、シスジェンダーの男性や高齢男性が中心となっている政治の意思決定の場で、若者や女性たちが周辺化されてしまっていることに問題意識を持っています。

フィフティーズ・プロジェクトは、「ジェンダー平等」という視点で周辺化されている声を引き出し、現在の構造に変化をもたらす人たちをサポートする目的で立ち上げたプロジェクトです。

現在、20〜30代の地方議員の女性比率は18%。意思決定の場の多様性を目指す第一歩として、地方議員の女性比率を30%以上に増やすことを目標にしています。

different people voting hands are putting paper ballots to the election box democratic election
Jenny On The Moon//Getty Images

――女性議員を増やすことの重要性を教えてください。

どうしても政治の場は多数決になるので、選挙だけでは女性を含むマイノリティに対する政策が意思決定の場に反映されにくい側面があります。そもそも、議論の争点にすらならないのです。

そういった現状があるので、女性を含むマイノリティの声をきちんと聞いて、議会で進めてくれる候補者が政治に入っていくことが重要です。同時に有権者側も「選挙に行って終わり」ではなく、「こういうことが必要だ」という声を積極的に上げていかないと議会まで届きません。

フィフティーズ・プロジェクトは、わたしたちが掲げるジェンダー政策に合意し、コミットする議員を増やすために活動していますが、マイノリティは女性だけではありません。外国人や疾患を抱える人、LGBTQ+コミュニティなど、それぞれが直面している問題があります。さまざまな人がいるほど議題に挙げられやすくなるので、世襲や権力の差ではなく、意思決定の場にも多様性が必要だと考えています。

――なぜマイノリティに向けた政策が進まないのでしょうか?

実は「反対されるわけでもないけれど、推進力を持っている人もいない」という問題が多いんです。そういった政策は、問題意識を持つ人が国会の中に入っていくことで、変わっていくと思います。

一方で、進めたい政策があったとしても反対する人たちが実権を握っていると、すぐに変えられる問題ではなくなります。まずはマイノリティの声を吸い上げる候補者が国会に入っていくことが大事ですが、その先は国会のなかのパワーバランスをどう作っていくのか、という話に変わってくるのではないでしょうか。

protesters with large megaphone
Malte Mueller//Getty Images

――女性議員が増えた先には、女性総理大臣誕生の可能性があると思います。女性総理大臣が誕生したら、どのような変化が起こり得ると思いますか?

今までの歴代総理大臣が全員男性ってことを考えると、女性がいてもいいのでは、と思っているところです。その総理大臣になる人にもよりますが、正直、 “女性だから” と言って何かが大きく変わることはないかもしれません。ただ、ひとつのロールモデルとして可視化されるとは思います。

それよりも大切なのは、社会の実態にあったような意思決定層が国会や地方議会の中にも存在すること。そのためには、議員の多様性を増やす必要があります。

今は国会議員になる人の約4分の1がいわゆる世襲議員。そうではない人たちのうちの半分が地方議員出身であることを考慮しても、少しずつ女性の地方議員を増やしていくしかありません。見えないニーズや届いていない声を発掘し、政策課題として挙げていけば、解決も早くなると思います。

――現在の「男性的な政治」の要因はどういった部分にあるのでしょうか?

“仕組み” と “文化” の両面に「男性的」な部分があると思います。

仕組みで言うと、日本は衆議院と参議院で構成されており、衆議院議員を決める選挙は、小選挙区制と比例代表制が採用されています。選挙では小選挙区選挙がかなり重要となりますが、1選挙区につき1人しか選出されません。

積み上げ方式で多数を取る必要があるため、「この人に投票しなければならない」という地域でのつながりや人脈があると、今権力を持っている人が有利になるのです。

そのため、衆議院の女性比率が9.7%である一方で、比例代表制を採用している参議院は20%を超えているほど、多様な人たちも入りやすい。ただし、現状は衆議院の方が権力を持っているので、現在のような状況を引き起こす要因となっています。

文化的なことだと、時間的なコミットが求められる選挙活動は体力勝負な面もあります。朝から晩まで駅前に立っている人が「頑張ってるね」と評価されやすく、夜になれば事務所の飲み会に顔を出して、24時間365日地元にいることが求められます。

育児や介護などの負担が大きい傾向にある女性にとって、そのような活動はなかなか難しいもの。仕組みや活動を見直し、よりオープンな政治になっていくのが大切だと思います。

politician speaking at microphones on podium
Malte Mueller//Getty Images

社会に必要な変化のために

――フィフティーズ・プロジェクトでは、候補者にどういったサポートを行なっているのでしょうか?

フィフティーズ・プロジェクトでは、20〜30代の立候補者に向けてトレーニングを行なっています。もともと自分の問題意識に基づいた活動を行なっていたものの、やはり政治を変える必要があると決意した候補者が約半数で、子どもがいる人や会社員など、さまざまなバックグラウンドを持つ人がいます。

先日も1日トレーニングキャンプを開催し、選挙における戦略や技術について学ぶ機会をつくりました。今後もボランティアとのマッチングなど、サポートできることを考えながら活動をしている最中です。

当選後は議員同士でコミュニケーションがとりやすいのですが、候補者の段階では党派を超えたつながりは作りにくいんです。1人で戦うのではなく、つながりができる点にポジティブな意見も多く、活動の意義を実感しています。

――誰もが参加したいと思えるような政治になるためには、何が必要でしょうか?

根底で必要なのは、自分の時間に余裕ができること。そもそも自分の生活に余裕がなければ、社会のことを考えようと思わないし、アクションをとる時間もありません。問題意識に対して前向きに捉え、アクションを起こしている人は、自身の状況に余裕があったり、自分の意見が反映される経験があったりしたから、というのが大きいと思います。

正社員の雇用や休みが増えたりしていますが、その恩恵を享受できるのは大企業で働いているごく一部の人たち。契約社員や非正規雇用の枠組みで働いている人も多いので、企業努力だけではなく、社会全体として変わっていく必要があると思います。

――能條さんが考える、理想の国会の形を教えてください。

現在は、“男性から好かれやすい女性”が議員として選ばれやすい印象です。立派な肩書きや高学歴、盾をつかない人や、今の制度のなかでうまくやっていける人が多いのではないでしょうか。

社会に必要な変化を考えたとき、今の政治にコミットしている人たちが望む人だけではなく、「こういう人が政治家にいたらいいのに」という候補者を自分たちの力で送り出していかない限りは変わらないと思っています。

フィフティーズ・プロジェクトの活動をするなかで、政治家は2種類いることを発見しました。1つ目のパターンは “政治家という枠組みになりたい人”、もう1つは、“構造を変えるための手段として政治家になる人”です。

今後は社会の中で痛みを感じ、痛みや問題を共有できる人が増えるのが理想ですし、1人で全てを背負うのは難しいので、いろんな視点を持つ人が必要です。違う景色を見ている人たちに政治の世界に入ってもらい、その支援ができるようなプロジェクトにしていきたいと考えています。


能條桃子さん

1998年生まれ。一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN代表理事。慶應義塾大学院経済学研究科修士2年。政治への関心をきっかけにデンマークに留学。留学中の2019年、同年参院選に向けNO YOUTH NO JAPANを創設。2022年9月より、政治分野のジェンダー不平等の解消を目指し、2023年4月統一地方選に向けて、20代・30代の女性(トランス女性も含む)、ノンバイナリー、Xジェンダーの地方議員を増やすことを目的とする「FIFTYS PROJECT」を発足。