日本の衆議院議員の平均年齢は55.5歳。そのなかで20代の議員は、たった一人だということを知っていますか? 国会議員が“国民の代表”であるのなら、これはあまりにも少ない数字と言えます。

対して、世界では就任時(2019年)34歳だったフィンランドのサンナ・マリン首相のように、若い方がリーダーとして活躍しています。今の日本の政治は、果たしてどのくらい若者の声が反映されているのでしょうか――。

若者の声を政治に反映させることを目指す団体「日本若者協議会」の代表理事を務める室橋祐貴さんは、2016年から被選挙権年齢引き下げのための活動に携わっています。

「被選挙権年齢を引き下げることで、若者の意見がより政策に反映されるようになり、投票率の増加にもつながる」と話す室橋さんに、なぜ被選挙権年齢の引き下げが必要なのか、詳しくお話を伺いました。

今回お話を伺ったのは...

室橋祐貴さん

「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒、同大政策・メディア研究科中退。大学在学中にスタートアップを立ち上げた後、ウェブメディアで記者、大学院で研究等に従事。

被選挙権とは?

被選挙権とは「選挙に出馬する権利」のこと。また選挙権は「投票する権利」のことを指します。

日本の国政では、被選挙権の資格年齢は、衆議院が満25歳以上参議院が満30歳以上と定められています。

被選挙権の資格年齢が違う理由

「最も言われることが多いのは、『衆議院と参議院では役割の違いがある』という点です」と室橋さん。

「参議院は『良識の府』と呼ばれる通り、任期が6年で固定されており、任期途中での解散もない。衆議院よりも『落ち着いて議論する』役割が強いため、議員にもより多くの社会経験を求めている形です」

世界を見てみると、二院制のある国では上院(日本でいう参院)側の方が、被選挙権年齢の高い国が多いものの、上院・下院(日本の参院・衆院)で被選挙権の資格年齢が同じところもあると室橋さんは言います。

「国によって違いがあるため、年齢による合理的な理由があるかというとそうではないような気がしますね」

若年層の投票率が上がった国も!

ここからは、室橋さんに被選挙権の資格年齢引き下げのメリット、日本の現状などについて伺っていきます。

――被選挙権の資格年齢の引き下げが必要だと思う理由を教えてください。

一つは、若い世代の意見を政策の意思決定の場に反映させていくため。そしてもう一つは、投票率にいい影響を与える可能性があるためです。

若い世代を代表する国会議員を増やすためには、やはり出馬するときの条件である被選挙権年齢の引き下げが必須だと思います。

先日、参議院選挙がありましたが、候補者は最低でも30代でした。10~20代の人からすると、やはりどうしても“自分たちの代表”という感覚ではないと思うんです。今回の参院選に出馬した議員の平均年齢は55歳くらいで、若い世代からすると親世代にあたりますよね。

国会など政策の意思決定の場に、新しい価値観を持つ若い世代の意見を反映させるためには、やはり「若い世代が出馬できるようにする」ことが非常に重要だと思います。

travelers exploring tokyo
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もう一つ、私は被選挙権年齢を引き下げることが、そもそもの投票率にも影響を与えると思っています。若い世代の人や子どもを持つ女性の方などが出馬すると、周りのスタッフやボランティアも同じコミュニティの人たちが務めると思うんです。実際女性の候補者の議員事務所や選挙事務所に行くと、スタッフやボランティアにも女性が多い。

ですから、もし20代前半の人が出馬するとなれば、当然サポートする周りの人たちも同級生である大学生や高校時代の友人たちがメインになる。そしてその若者たちが「この人に投票してほしい」と呼びかけをすることによって、若い世代に投票を促す効果は、確実に広がると思うんです。

イギリスでは、2006年に被選挙権年齢を21歳から18歳に引き下げているのですが、それ以降18~24歳の投票率が一気に上がっており、その後もずっと右肩上がりに上がっています。全世代で投票率が上がっているかというとそうではなく、若い世代だけが10ポイント以上上がったというデータがあるんです。

そういった意味でも、やはり被選挙権年齢引き下げによる波及効果は絶対にあると思っていて。投票率上昇や若い世代の政治参加を促す意味で、非常に重要なことだと思います。

“若者の意見”を反映するために

――もしも被選挙権年齢の引き下げが実現できた場合、どんなメリットがあると思いますか?

若い世代を代弁する国会議員や政治家が議会に入っていくと、その周りの支援者たちも比較的若い人たちになります。若者たちが普段から政治の場で意見交換をすることによって、若い世代の声がダイレクトに国会で取り上げられやすくなるメリットがあると思います。

最近ですとたとえば、「学費の問題」「給料がなかなか上がらないこと」「子育ての大変さ」など、そういった課題の優先度が確実に政治の中で上がっていく。若い政治家が増えれば増えるほど、若い世代の課題に政治が目を向けるようになり、結果課題が解決されやすくなるというのが一番大きなところだと思います。

たとえば、今政党の重鎮にいるような60~70代の人たちの時代背景と、20代の人の時代背景って全く違いますよね。大学の授業料は、国立は約15倍、私立は4倍以上上がっていますし、奨学金の重みも肌感覚として全然違う。やはりダイレクトに今の世代の肌感覚を共有している人が国会で発言していくことはとても大切だと思うんです。

その発言がメディアに取り上げられることによって、多くの人に声が伝わり、世論喚起にもつながる。そういった意味でも大きく変わるんじゃないかなと思います。

parents and child walking on beach
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――逆にデメリットはあると思いますか?

個人的にはあまりないと思っていて。被選挙権は「出馬する権利」であって、実際に政治家になるには「有権者の投票」というフィルターにかけられて、当選しなければならないですよね。

たとえば18歳の人が出馬しても、当選するためにはやはりマジョリティである高齢者の支持を得なければ、10~20代の支持だけではなかなか当選できないと思うんです。そういう意味では、“出馬するだけの被選挙権”については機会が与えられても良いんじゃないかなと思います。

「社会経験が不足している」という言説

――では、なぜ被選挙権の年齢が引き下げられないのでしょうか?

引き下げが行われていない背景には、「若い世代には社会経験が不足している」という考えに基づく部分が大きいようです。

子育て世代になると行政とのつながりが生まれ、政治の重要性が分かってきますが、10代の学生であれば保護者に育ててもらっていたり、あまり税金を払っていなかったりする。「そういった社会経験の乏しい人が政治家になるのはいかがなものか」という意見があるんです。

ですが、そういった10代の人たちも社会の一員なわけです。政治家が全員10代になったとしたらもちろん大変ですが、数人、あるいは一定の割合が入るだけであれば問題はないはずです。むしろ、その方が社会全体の構成がそのまま政治に反映されることになり、個人的にこれはメリットじゃないかと思うんです。ですが、そう考えない人もいるというのが現状です。

――現行の25歳・30歳という年齢に合理的な根拠がないことについては、どう思いますか?

「この年齢に達したら政治家としてやっていける」という合理的な理由や明確な根拠がないからこそ、何となくみんな「20歳になったらいいよね」とか「22歳なら大丈夫だろう」など、感覚でしか話せていないような気がします。正解がないからこそ、議論がまとまらないんです。

あとは「既得権益を守りたい」という思いと、若者・子どもを未熟者扱いするような年功序列の考え方とが、グラデーション的に混ざり合っている。合理的な理由があるとすれば、やはり成人年齢の18歳で投票も出馬もできるようになる「参政権」という形として与えるのが、標準的な考え方なのかなと思います。

実際、OECD諸国では、成人年齢と同じ18歳にしている国が最も多く、世界中でも過半数以上の国が21歳以下に定めています。

被選挙権年齢が引き下げられないのって、一言で言うと、若者がそれだけ信用されていないということなんですよ。個人的に若い人はもっと怒った方がいいんじゃないかなと思います。見下され、上の世代の人と上下関係が出来てしまっている部分を直していかないと、日本社会全体が新しい価値観に適応できなくなってしまうと思うんです。デジタル化の遅れもそういうところに関係すると思います。

また、選択的夫婦別姓制度の議論も近い部分があると思っていて、合理的な理由はあまりなく、昔ながらの考え方に固執していたり、現状のままでいいんじゃないかという反対派の意見があるからだと思いますね。

5年後10年後を考えると、結果的にはその停滞が日本社会の低下を招いているんです。その停滞状態が日本はもう20年30年と続いている。政治家には自分たちの世代のことだけでなく、もっと社会の未来を見据え、若い世代に権限を渡していく、という風に考えてもらいたいと強く願います。

被選挙権をめぐる日本の現状

韓国では2021年末、被選挙権年齢が満25歳以上から満18歳以上に引き下げられる公職選挙法改正案が可決され、2022年1月に公布、ただちに施行となりました。日本の現状についても、室橋さんにお伺いしました。

――被選挙権年齢の引き下げにおける、日本の現状はどういったものですか?

最初に議論が始まったのは、2016年。選挙権が与えられる年齢を、満18歳以上に引き下げた参院選のときです。当時の主要な政党は、すべて公約に「被選挙権年齢を引き下げる/引き下げる方向で検討する」と入れていました。

2016年に議論が始まり、2017年には私たち日本若者協議会も自民党の部会(党内での政策決定の議論の場のこと)に呼ばれて意見を述べました。

そういった形で検討は行われているんですが、未だ決まっていない現状がある。「引き下げる方向」に関しては、与党自民・公明党の中でも合意が取れているのですが、では何歳に引き下げるのか、資格年齢を衆参で分けるか否か、という具体的な内容に関してはまだ全然意見が一致していません。

野党であれば与党に勝つため、「若い世代を立候補させよう」という欲求を持ちやすいと思います。しかし与党からすると、「若い候補に自分たちの議席を奪われるのではないか」という懸念や心配がある。国会議員に当選するのはなかなか難しいことですが、地方議員であれば当選する可能性は大いにあります。現に、地方選では若い候補者や女性が得票数1位や2位になることも多いです。

自身も選挙戦を戦っている政治家からすると、新しい候補者が立候補できる権利を与える=ライバルが増える」ことになる被選挙権年齢引き下げの議論は、優先度がどうしても上がってこないのかなと思います。

busy commuters crossing street during office rush hour
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また近年は、コロナ禍で他の政策の課題が増え、さらに今年に入ってからロシア・ウクライナ問題や安全保障の話がどんどん優先度が上がっていっています。ですから2019年以降くらいから、被選挙権年齢引き下げの議論は停滞しているというのが正直なところです。

そこを動かしていくには、世論の「若い政治家が増えるべきだ」という声がもっと大きくなる必要があります。そうでなければ、現任の政治家たちが自身のリスクを背負ってまで引き下げを行うのは、なかなか難しいんじゃないかなと感じています。

政治参加の機会を広げるために

――被選挙権年齢引き下げに関する世論はどうでしょうか?

私たち日本若者協議会は、2016年からこの問題に関して動いているのですが、「若い世代の人みんなが被選挙権年齢の引き下げに賛成しているわけではない」というのは感じています。また、上の世代の人には「若い人は未熟」という考えを持つ人もいる。ですから、まだ社会全体として引き下げへの声が高まっていないのかなと感じています。

日本の「主権者教育」は18歳の選挙権以後、徐々に広がってはいるのですが、主権者教育というよりは「有権者教育」になっている気がしていて。テーマが「より多くの人が投票するには」であったり、「どうやって投票先を決めるか」など、“投票”の話しかしていないんです。

「政治家になるにはどうするか」「政治家になったら何ができるか」「選挙以外ではどういった形で政治参加できるのか」など、他にも教えるべきことはあります。本当は政治参加って、投票以外にもいろいろな形でできるんです。今は日本社会が、“政治参加=投票”という風に捉えすぎていると思います。

そんななかでは、「自分が出馬しよう」という発想はなかなか出てこないと思いますし、「より多くの人が出馬できるようにするため、その権利年齢を引き下げよう」という機運はもっと出てこない。

やはり「政治家を自分たちの代表として、国会・議会に送り出していくこと」の重要性や、そういった認識が社会にもっと浸透していかないといけないのかなと思いますね。

――被選挙権年齢の引き下げには、何が必要か教えてください。

一番はやはり世論として「もっと若い政治家が増えたらいいよね」という声や、若い人たちが「自分たちの代表を議会に送り込みたい」という声を上げていくことに尽きるかなと思います。

どうすればこういった世論が高まっていくかというと、たとえば先日国会で「こども基本法」が成立しました。これは「子どもの権利を尊重する」という法律で、逆に言うと、これまでは子どもの権利が重視されてこなかったことを意味します。

こども基本法の中には、「意見表明権」という「子どもの意見を大事にしよう。尊重しよう」という権利が重要な要素として入っています。それはつまり今はまだ子どもの意見を大事にしようという価値観が、日本社会に浸透していないんだと思います。

同様に「若者の意見を大事にしよう」という価値観も浸透しておらず、基本的に若者や子どもは、“大人が決めたことに従う”という価値観が非常に強い。やはりそこを変えていかなければならないので、正直すぐに社会が変わるかというと難しいとも思っています。

大人が決めたことに従うという価値観は、18~24歳の若者が「“選挙権のみ”与えられている」という現状にもつながると私は思います。

group of students studying on campus
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誰が立候補するか、どういった公約を掲げるか、どんな政策を実現するかは大人が決め、決められた範囲内だけで若者は参加する。若者に明確に権限が与えられておらず、若者が最終決定を下す立場に入れていない現状があると思います。

「若者に対し対等性をもって、独自の意見や価値観を社会として重視していく」という考えが、企業内でも学校でも家庭でも広がっていくこと。それが結果的に「政治家に若い世代を」という発想につながっていくと思います。そういった意味では、こども基本法の成立は良い方向に一歩近づいたのかなと。

“政治=投票”だけではない

――より多くの人に政治に興味を持ってもらうため、より成熟した社会にするために、私たちにできることはありますか?

まず「政治とは投票だけではない」という認識を持ってもらうのが、非常に重要だと思っています。数年に一度、少し調べて投票して…で終わりだと全然分からないし、何が変わったのか気づけないと思います。政治以外の話題でも、普段から勉強していることと、数年に一度ゼロから勉強し直すものとでは、大変さも理解度も違いますよね。

常日頃から何となく政治を気にすること。たとえば、SNSで政党や候補者のアカウントをフォローして、どういった活動をしているのかを見てみる。身近な解決したい問題があったら、SNSでつぶやいたり、政治家にリプライやメールで意見を送ってみる。オンラインで署名をしてみるなど、今オンラインで出来る政治参加の形はどんどん広がっています。

色々な形で継続的に携わってもらえると、民主主義としては非常に成熟していくので、そういう寄与をしてもらえると嬉しいなと思います。