1989年、髪に黄色いリボンをつけ、メガネをかけたある少女がジェラルド・フォード元大統領にこう尋ねました。--「アメリカの大統領になりたい若い女性に、何かアドバイスはありますか?」

フォード元大統領はその質問に対し、一番の学校に行くことも、奉仕活動をすることも勧めなかった。少女の問いに対して明確な回答は避け、その代わりにこう述べたといいます。

「(女性大統領の誕生が)どうやって実現することになるか、私の考えをお教えしましょう。通常の形で(選挙プロセスに沿って)、実現されることはないでしょうからね」

こんな恐ろしいことを“予言”した、国民に不人気で、選挙で選ばれたわけでもなかった、そして再選を果たすこともなかった元大統領は、アイオワ州にあるハーバート・フーバー大統領図書館・博物館に集まっていた100人近くの子どもたちに向かい、さらにこう語っている。

「ウォーターゲート事件で辞任したリチャード・ニクソン大統領の後任となった自身と同じように、アメリカ初の女性大統領は、「(副大統領からの)昇格という形で」、誕生することになるだろう」
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1989 Ford Interview on a Female President | IPTV 50th Anniversary
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つまり、フォード元大統領の考えでは、女性は『HBO』のドラマ『Veep/ヴィープ』でジュリア・ルイス=ドレイファスが演じる「セリーナ・マイヤー大統領」のように、選挙で勝利した大統領から(選挙戦をともに戦う)「ランニングメイト」に選ばれなければ、大統領になれる可能性はないということ。

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ROBERTO SCHMIDT//Getty Images
ホワイトハウスでの晩餐会に招かれたジュリア・ルイス=ドレイファスと息子のチャールズ・ホール 、2022年12月1日撮影

また、このときフォード元大統領は、「大統領が死去し、そして女性が大統領になるだろう……この先4年から8年の間に」とも予言していました。

2023年のいま、これはあまりにも楽観的だったように思えます。しかし、1980年代には、現実味のある言葉だったのでしょう。

1984年、当時48歳だったニューヨーク市クイーンズ出身のジェラルディン・フェラーロ下院議員(民主党)が副大統領候補として、ウォルター・モンデール元副大統領とともに大統領選を戦った。敗北に終わったものの、これは女性が初めて副大統領候補になった、歴史的な選挙でした。

2008年には、ジョン・マケイン上院議員(共和党、故人)がサラ・ペイリン・アラスカ州知事(当時)をランニングメイトに選出しました。ただ、それでもアメリカの主要政党の大統領候補になった女性は、これまでのところ、ひとりしかいません。

それは、元ファーストレディでもあるヒラリー・クリントン元国務長官。(共和党のドナルド・トランプ候補と)戦ったクリントン候補は、一般投票の得票数では勝利したものの、大統領に選出されることはありませんでした(最終的な勝敗は、各州の選挙人の投票で決まるため)。

フォード元大統領の“予言”からおよそ30年がたったいまも、アメリカに女性大統領は誕生していません。ただ、現在58歳のカマラ・ハリス副大統領(民主党)が、史上最高齢で就任した現在80歳のジョー・バイデン大統領とともに選挙を戦い、勝利。そして女性として初めて、副大統領に就任しています。

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Anna Moneymaker//Getty Images
ジョー・バイデン大統領とカマラ・ハリス副大統領、2021年撮影

アメリカの初代大統領、ジョージ・ワシントンは、ハリス副大統領の誕生を予測していなかったとみられます。一方でハリウッドはかなり以前から、ストーリーのなかで女性大統領の登場を描いてきました。

1924年に公開された『女護島(にょごのしま、The Last Man on Earth)』では、すべての男たちが病で死に絶え、女性の大統領が誕生。また、『マーズ・アタック!(Mars Attacks!)』では、地球への火星人の襲来により、ナタリー・ポートマン演じる大統領の娘が父の代わりを務めることに。

そのほか、『プリズン・ブレイク(Prison Break)』『スキャンダル 託された秘密(Scandal)』『ハウス・オブ・カード 野望の階段(House of Cards)』『クワンティコ/FBIアカデミーの真実(Quantico)』といったドラマでも、女性大統領が登場しています。

ただし、1964年公開の『彼氏はトップレディ(Kisses for My President)』では、大統領は妊娠をきっかけに、家族のために生きたいとして辞任。ドラマ『24』では、女性大統領は退任後に収監されます。

映画やドラマで描かれる女性大統領はいずれも、「最後の手段」として選ばれる人や、代理を任された人たち。結局のところ、感情的になりすぎたり、家族によって気を散らされたりする女性として描かれています。

唯一の例外は、再選を目指すも別の女性に政権を明け渡し、その次の選挙で返り咲く『Veep/ヴィープ』のメイヤー大統領となっています(歴史上、実際に連続しない任期2期を務めた大統領は、第22代と24代のグロバー・クリーブランド大統領しかいない)。

来年の大統領選に向け、共和党の候補者指名争いには、すでに前サウスカロライナ州知事のニッキー・ヘイリー元国連大使が名乗りを上げています。ただ、彼女は性別ではなく、一部で資質を問題視されているため、現時点での評価は低め。

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Theo Wargo//Getty Images
出馬を表明したニッキー・ヘイリー元国連大使、2023年2月14日撮影

いまのところ、女性が大統領を目指すことは、ハリウッドの脚本家たちがまことしやかに作り上げるスリリングな冒険劇のように思えるかもしれません。一方で、お膳立てはすでにすっと以前からできているという見方も。

前出のフォード元大統領は“予言”に加えて、こう警告しています。

「男性たちは、気をつけたほうがいい」「女性大統領に何ができるのか、アメリカ人がそれを理解すれば、男性は(所属政党から)候補としての指名を獲得することさえ難しくなるだろう」

From TOWN&COUNTRY

From: ELLE JP