性別に限らず、「女同士の戦いは怖い」という男社会の常套句を無邪気に信じている人たちっているもので、私は10代20代の女の子がそう言っているのを聞くと、「んなわけあるかいな、妬みと嫉みは男同士の方が100倍陰険でドロドロやんか」と言いたくなる気持ちをぐっと抑えます。年若く男社会の罠をまだ見抜けない女子をそんなふうにたしなめると、「ああこの人ってモテないんだ男嫌いなんだ、男に対する怨念渦巻いてるんだ」みたいに思われるだけだからです。

そもそも「妬み」「嫉み」(合わせて嫉妬)の両方に女偏がついているのが偏見を助長する一因だと思うなあ。まあこれは中国4000年の漢字文化ですから、今現在の男社会の刷り込みってわけじゃないけどさあ。でもまあちいと冷静に考えてみてください。ストーカー案件で相手殺すのほとんど男でしょ。大企業の社長にイケメンがいないのも、女にモテる男はある程度までしか出世できないからだし、自分よりデキるイケメンの部下を引き立ててやる上司なんて見たことありません。とってつけたようなわざとらしさで果てしなく自分を持ち上げてくれる部下が大好き、みたいな男ってホント多いですから。「女同士の戦いは怖い」と言っている若い女子たちも10年20年実社会の経験を積めばきっと気づくはず――とここまで書いて、ああこの人、男に対する怨念渦巻いてるな…と思われちゃった可能性大。

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(C)2018 Twentieth Century Fox
成り上がることを目指してギラつく貧乏貴族の娘、エマ・ストーン

とまあそんなわけなんですが、これは必ずしも「女同士は戦わない」という意味ではありません。かくいうこの私が!巻き込まれたことがあります。巻き込まれたっていうと、私が「おう、おまんが売ってきたケンカ、こうたるわ!(どこ弁?)」ってなったわけじゃないんですよ。ある映画関連の番組企画に関わっていた時、後から決まって入ってきた半分タレントみたいな女が、がんがんマウンティングしてくるわ、いちいちいちゃもん付けてくるわ、嘘つくわ悪口言いまくるわ、彼女の関係者が夜中に自宅に電話かけてきて恫喝してくるわ、挙句の果てにその企画をやってた会社に私を中傷する怪文書までファックスで送られてきて、そりゃもう大変でした。

その女のことは、例えば宇宙人がきて「あなたこそ選ばれし美女!」とか持ち上げてどっか別の星に連れて行ってくれちゃったらいいのになーとか思う程度に今も嫌いですが、時が過ぎて考えるのは、そいつがなんで私をやたら攻撃してきたかということです。とくだん美人でもなくチヤホヤされてもいず、映画業界に一番顔が効くってだけで面倒な仕事を全部やらされていた(ついでにギャラも安い)私は、でもだからこそその企画の中心にいたことは間違いありません。まあ私が彼女をチヤホヤしなかったからかも。毎週お招きするゲストと自分を同レベルに扱わないとキレるんですよこれがまた。何がしたいのか、何を勘違いしてんのか、あまりに面倒くさくて番組を下りた私には、最後までさっぱりわかりませんでした。

さてそんなわけで今月みなさんに見ていただきたいのは、オスカー9部門ノミネートの『女王陛下のお気に入り』。女王陛下の「お気に入り」の座を巡って、ふたりの女子が火花を散らすという映画なのですが、実のところ二人がそれぞれ求めているものはまったく別のもの。そして際立つのは、自分の孤独を紛らわせるために二人を利用して、結局のところすべてをダメにする女王陛下の存在です。ほんとなら張り合いどつき合う必要なんてひとつもないものを、一体何がしたいのか。もし「女同士の戦いは怖い」とすれば、そのあたりが、自分でもわかんなくなっちゃってるからかもしれません。

『女王陛下のお気に入り』

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