セクハラ男を叩きのめし、拍手喝采を浴びたエイミー・シューマー

エイミー・シューマーって日本ではまだまだ知名度が低いかなーと思うのですが、アメリカではめちゃめちゃ売れているコメディエンヌです。女優として映画にも次々出ていますが、それ以上にコントや舞台での笑いが痛烈でキレッキレ。定番は女子の年齢や見た目を巡るあるあるネタで、男の「君の素顔が好き」って言葉信じてすっぴん見せたら、「ちょっと化粧した方がいい」と言われるとか、笑いつつ首がもげるほどうなずきます。

この人がすごーくカッコいいのは、そういう「自虐ネタ」をやっているのに「どうせ私なんて」みたいな感じが全然ないところ。日本とかだと「ブスで笑いをとるなら、ブス扱いされて当然」みたいな空気がありますが、彼女はたとえ「ブス」「エロ」「デブ」で笑いをとっても、それに便乗して侮辱してくる人間は絶対に許しません。日本だと「そういう扱いされたくないならネタにするな」とかいう言う人がいそうですが、これを「黒人」に置き換えれば、「笑いにしていいのは本人だけ」というエイミーの態度は納得できると思います。いつかの舞台では不快なセクハラ野次を飛ばしてきた男性観客を、舞台上から舌鋒鋭く痛烈に叩きのめし、会場からつまみ出したなんてことも。(ちなみに。「ここで怒ったら場の空気が壊れる」とそうしたセクハラに笑顔で付き合ってしまう人に付け加えて言うなら、会場は男の退場に拍手喝采でした)

そしてもうひとつ、私が「すげー」と思うところは、身長170cmでかなりのプラスサイズ、腕も足も決して細いとは言えないド迫力ボディの彼女が、常に大胆かつド派手なファッションであること。ある時はピッチピチの黒レザーのオールインワン。またある時は胸元ザックリ&太もも丸見えスリットのドレス。またある時はパンツ見えちゃうんじゃないの?ってくらいの超ミニスカ。脚が太いからミニスカは……とか、二の腕ダプタプだからノースリは……とかいうような日本人女子的な悶々とは無縁、すがすがしいほどの「堂々とやったもん勝ち」。もしかしたら当初は、そういう彼女に戸惑ったり、「うわ何この人」と思う人もいたかもしれませんが、しばらくすると見慣れてくるし、あまりに堂々としているから「これもアリではないか」と思い始めちゃうんですね。これこそ「堂々とやったもん勝ち」の力です。

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「どうでもいい人」に何を言われようと「どうでもいい」と思えるか否か

さてそんなわけで今回ご紹介するのは、彼女の新作『アイ・フィール・プリティ』。エイミーが演じるヒロイン、レネーは、太めで地味めでダサめ、ビジュアルに全然自信がなく、美人になることを夢見ている女子。ある時スポーツクラブで倒れて頭を打ち昏倒した彼女、目覚めて鏡を見たらすごいナイスバディの美人に――なっていると思い込んでしまうんですね、頭打っちゃって。実際は何ひとつ変わらない、変わったのは前向きに自信満々になったことだけなんですが、彼女の人生がどんどん好転してゆきます。

この映画がある種のリアルなのは、自分を「そりゃたしかに私はすごい美人だけど」と、周囲からしたら冗談かと思うようなことを陽気に言い放つ彼女を、「何この勘違い女」「怖すぎる」という反応をする人がちゃーんといることです。世の中は無責任に「自信を持てば美しくなれる」と言いますが、誤解を恐れずに言えば、たとえ自信を持っても美人じゃない人は美人じゃない。この映画が「アイ・フィール・ビューティフル」でないのはそういうことだと思うのですが、彼女はそういう人たちにまったく頓着しません。これまで着なかったオシャレな服を着て、他人がどう思おうと「私はイケてる」と笑顔で言い、人生を楽しみ続ける。人々を引き付け、彼女を「プリティ」と思わせるのは、その堂々とした前向きさ。この役は演じるエイミーそのものなんですね。

そりゃあ「勘違い女扱い」は確かにつらい。でも彼女を「勘違い女扱い」する人と、「美人」になる以前の彼女を「地味でデブなブス扱い」していた人が、ほぼイコールであることを忘れてはいけません。どこまでいっても外見――もっと言えば、会社名とか職業とか肩書とか有名性とか金持ちかどうかとか――でしか判断しない人、結局のところ自分と人間的な関係を築く気のない「どうでもいい人」の言葉を、さて、あなたは「どうでもいい」と思えるか。それはある意味、あなたが「プリティ」になれるかどうかの分かれ道、ともいえるかもしれません。

『アイ・フィール・プリティ』

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