20代前半で人工妊娠中絶した経験を持つ、コピーライターでイギリス在住のエミリー・アッシュ・パウウェルさん。先月、アメリカの最高裁が、中絶の権利を認める半世紀前の「ロー対ウェイド判決」を覆したことに危機感を抱き、男性もこの問題に対する意見を表明すべきだと考えたと言います。

本記事では、パウウェルさんが<コスモポリタン イギリス版>のエディターであるジェニファー・サヴィンとともに集めた、11人のイギリス在住男性の中絶に対する意見をお届け。

パートナーや家族、友人が中絶を経験したという男性たちが、感じることとは――。

※本記事は、<コスモポリタン イギリス版>の記事を抄訳したものです。
※名前は仮名です。

「ぼろぼろの状態だった」

2022年1月にパートナーが妊娠したとき、私たちは幸せの絶頂にいました。前年に流産を経験していたので、私たちにチャンスがもう一度訪れたと思ったんです。

安心したいと思い、妊娠6週目で早期の検査を行ったところ、鼓動を確認できました。しかし、1カ月後の検査では心臓が止まっていることがわかったのです。

病院を紹介され、パートナーが中絶薬か手術のどちらかを選ぶことになったとき、私たちはぼろぼろの状態でした。でもこうした治療をしなかったら、彼女の体、彼女の子宮、あるいは生殖機能にどんな影響があったか、わかりません。

私は、中絶反対派だったことはありませんが、この経験をするまでは「中絶は、予期せぬ妊娠のため」か「レイプ被害者のため」のものだとしか思っていませんでした。しかし今では、妊娠中にトラブルが起こった際に必要不可欠なことだと思っています。

--ジェイソン

「望まない妊娠は、まぎれもなく存在します」

私の恋人は、妊娠3カ月の頃に中絶しました。「今はまだ、子どもを持つタイミングではない」と、彼女自身の決断でした。

私は、必要ならいくらでも仕事を頑張って経済的に支援することを伝えましたが、産むか産まないかは彼女の選択です。この経験を通して、彼女とのお互いの理解や絆が深まったほか、子どもを持たない生活に対する自分の考えを再確認するきっかけにもなりました。

「望まない妊娠」は、まぎれもなく存在します。子どもを持ちたくない、あるいは育てられないということは、それだけで「産まない」正当な理由になるべきだと思います。

彼女の身体的な負担をすぐ近くで見ていたことは、本当につらい経験でした。でも私たちは、親にならないままで二人の関係を深めましたし、罪悪感や悔恨、喪失感、羞恥心は感じていません。

「中絶は男性が介入する問題じゃない」という言説については、理解できません。自分たちが実際に身体的に妊娠する側じゃないからといって、「女性が自身の身体について選択する権利」の支持を表明しない言い訳にはならないと思います。

――ベン

「娘の選択を誇りに思う」

これまでにも常に女性の選択権を支持してきましたが、実際に自分の娘が20代の頃に中絶を経験したことは、私の倫理的な立場を強化しました。

娘の選択は強さと勇気の顕れであり、その過程で、彼女自身も思いやりのあるケアを受けることができました。こうした選択をするための自立性を法的に保証されていること、きちんとした医療やサポートを受けられることは、正しい権利です。あらゆることを含めて、私は彼女を誇りに思います。

今アメリカで起きていることは、人々が立ち止まって考える機会になるべきです。それは、私のような父親たちの願い、そして社会がなんとしても我々の娘たちの権利を保障してほしいという願いを踏みにじるものでもあります。

今あるものをなくすことは、過去の、より不寛容で男性的だった時代への逆行でしかありません。

――マーク、エミリーさんの父親

20代前半で人工妊娠中絶した経験を持つ、コピーライターでイギリス在住のエミリー・アッシュ・パウウェルさん。今回は、パウウェルさんが<コスモポリタン イギリス版>のエディターであるジェニファー・サヴィンとともに集めた、11人のイギリス在住男性の中絶に対する意見をお届け。
MARINA PETTI//Getty Images

「話し合うのが怖かった」

当時の私たちは家をリノベーションしたばかりで、ストレスが多く、貯金も使い果たしてしまっていました。そんな状況の中で、パートナーの妊娠が明らかになりました。

私はずっと子どもが欲しかったし、パートナーなら素晴らしい母親になるだろうし、私も父親としての人生を楽しめると思っていました。一方で、経済的に不安を抱えている状況で子どもを持つことに懸念はありました。だからこそ、中絶について話し合うことがとても怖かったのを覚えています。

中絶を進める過程は、辛い経験の連続でした。コロナ禍だったため、パートナーに付き添いができず、診察はパートナーが一人で行かなくてはなりませんでした。中絶薬の副作用で彼女の体調は悪く、数日間にわたって起き上がれないこともありました。命の危険があるのでは…と怖くなりました。

中絶を検討している女性は、とても困難な選択を迫られます。中絶についての倫理性について考えることや、自分の体に対する選択について他人と話すのは、とても辛いことです。私は、パートナーがあれほどの痛みを経験する姿は二度と見たくありません。

育児にはお金がかかるし、愛や時間を必要とします。“親”の中には、それらを与えることができない人もいて、頼みの綱である「支援システム」が崩壊している地域も少なくありません。今の世の中で子供を持つことに前向きになれない人の気持ちが、私はよく分かるんです。

--ピート

「ケアの必要性を感じた」

中絶を経験したパートナーと私は、私たちがイギリスにいることがどれほど幸運なことかと気づきました。なぜなら、必要なケアを適切に受けることができるから。

ところが、残念ながら今や誰もが持っている権利ではありません。もし私たちが、中絶が違法の社会でその手段を考えなければいけなかったとしたら、深刻な結果になっていたでしょうし、人生も破綻していたでしょう。難しい環境でもう一人の子どもを育てるということによって、家族や個人の問題が増え、メンタルヘルスにも経済的にも苦しんでいたかもしれません。

「ロー対ウェイド判決」を覆した件に関しては、意思決定層の男性たちが中絶のプロセスを少しでも知っているのだろうかと疑問に思います。そしてその決断が「人々の生命を脅かすこと」だと気づいているのか、ということも疑問です。

中絶の権利が奪われた日は、私たちにとっても悲しくて不安な日でした。この流れが拡大し、多くの人々の人生に悲劇的な影響を与えないことを祈るばかりです。

――トム

「今生きている人の命を優先して」

パートナーが避妊法を変えたとき、その移行期間に妊娠しました。彼女はすぐに中絶を希望しましたし、私もすぐに子どもを欲しいとは思っていませんでした。何よりも、出産については彼女が決めることだと感じていたので、ただ中絶の過程をサポートするだけでした。

実際、薬とその副作用以外は、スムーズにいきました。あれから8年になりますが、どちらも良心の呵責に苦しんではいません。

これは私の意見ですが、胎児になる前の初期の中絶と、誕生後の乳児の命を奪うことは同等には比べられないと思います。実際に今生きている人命よりも、後に人として形成されていく存在の権利が優先されることには疑問を持ちます。

「ロー対ウェイド判決」が覆されたのは、現実とは思えません。私たちは時が経つにつれて自然に、より平等で権利が保証されるようになると思ってきましたが、今はそれが打ち消されているのです。

――アンガス

「恋人の決断にたすけられた」

エミリーが中絶の経験を話してくれたとき、私たちはただの友人でした。仕事の後に飲みに行ったときに、どれだけ自分が羞恥心を抱えていたか、そしてどれだけ孤独だったか語りながら大泣きする姿を見て、身体的にも精神的にも辛い経験だったのだと感じました。

中絶は、女性が一人で受けるべき試練であってはなりません。エミリーの場合も、当時のパートナーが一緒に困難を経験してくれたと思いたいです。もしエミリーが出産していたら、彼女と私の間には一人の子どもがいたでしょう。だからといって彼女への気持ちは変わりませんが、子どもを持つかどうか、産むとしたらいつにするかを自分たちで決められるのは、ありがたいことだと思います。

「ロー対ウェイド判決」は誰にでも関係のあることですが、以前は僕もそれほどその意義を理解していませんでした。でもだからこそ男性も、自分たちに影響のあることだと反省し、声を上げるべきです。

エミリーから、そして他のあらゆる女性からこの権利が奪われると思うと、胸がつぶれる思いです。倫理的な議論に賛成するにせよ、反対するにせよ、多くの女性がこの世に生を送り出すかどうかの選択肢を奪われていることは悲しいこと。特に、レイプの場合には決して許されません。

この問題を改善するためには、女性だけに声を上げさせるべきではないと思います。

--ジョニー、エミリーさんのパートナー

20代前半で人工妊娠中絶した経験を持つ、コピーライターでイギリス在住のエミリー・アッシュ・パウウェルさん。今回は、パウウェルさんが<コスモポリタン イギリス版>のエディターであるジェニファー・サヴィンとともに集めた、11人のイギリス在住男性の中絶に対する意見をお届け。
MARINA PETTI//Getty Images


「信仰を押しつけないで」

恋人と私の間には、お互いに子どもを持つ気がないという共通点がありました。でも、彼女が予期せぬ妊娠をしたときに、すぐに中絶の決断を下さなかったのは驚きでした。

私はいずれにせよ彼女の選択をサポートすると言いましたが、以前子どもについて話し合ったことについて確認し、結局、中絶薬を使用することにしました。

中絶の過程をサポートし、彼女の身体的な苦痛を見ると「自分は傍観者で、もし望むなら、逃げることもできたんだ」と思いました。もちろん、そんなことはしなかったけど、そうすることもできましたし、実際に多くの男性が逃げています。そして「これはとんでもなく不公平だ。体の面でもホルモンの面でも、これほどひどいことはない」と感じたのです。

先日アメリカで起こったことを見ていると、ものすごく強い怒りがわきました。女性が唯一この不公平を是正する足がかりとなる存在なのに、今だにハンデがなくならないのです。

信仰によって、胎児になる前の胎芽を「生命」だと個人的に思うのはかまいません。でも、そういう見方を他人にも押し付けないでほしいです。

――ジェームズ

「中絶は女性が自らの体に負う、出産に次いで最も困難なこと」

パートナーが予期しない妊娠をしたとき、私は当時の彼女を100パーセントサポートしていましたし、子どもを産むならそれでいいと思っていました。最終的には、彼女がキャリアや将来の計画を優先する決断をしました。

クリニックのスタッフはとても慎重で、彼女が中絶を無理強いされていないか、自分で決めたかを確認していたのを覚えています。中絶の過程は大変なもので、彼女がこれまで受けた身体的な苦痛の中で一番つらかったことがわかりました。

冷たいバスルームのタイルの上で、気を失いそうになる彼女と何時間も座ったことを思い出します。お互いにとってトラウマになるような経験でしたが、彼女の苦しみとは比べ物になりません。

中絶は重要なことで、女性が自らの体に負う、出産に次いで最も困難なことの一つだと思います。

――サム

「女性はコントロールされるべきではない」

友人が中絶するので、クリニックまで車で送ってほしいと言われました。ちょっとしたサポートはできたかもしれないけれど、これが立派だとは思わなかったし、倫理的なジレンマも感じませんでした。

彼女をコントロールしようとは思わないし、どんな人でも女性をコントロールしようと思うべきではない。友人として彼女にプレッシャーを与えたり、問題を投げかけたりするのは私の役割ではありません。

中絶は女性の選択であるべきで、なぜ反対の議論があるのか理解に苦しみます。「ロー対ウェイド判決」が覆されたことは、誰にとっても利益にはなりません。

――アイザック

「姉が中絶手術を受けたことを誇りに思います」

姉が、5年前に中絶したことを初めて聞きました。それを知っていろいろな感情がわいてきましたが、一日中ずっと残っていたのは、誇らしい気持ちでした。姉が自分自身の体に対しての権利を持っているということと、中絶の権利を合法的に与えるイギリスのシステムに対してそう思ったのです。

アメリカがこうした権利を無効にしようとすることは、人類全体に影響を与えます。アメリカは「自由の地」として自らを立てているだけに、世界に対して「自由は男性器を持っている場合にのみ適用される」という模範を示すことになるのです。

他の男性たちが期待を裏切り、他者への権力を保持しようとし、人間であることを忘れていることに対して、世界中の男性は怒るべき。「ロー対ウェイド判決」を覆すのは、人間的であることからほど遠いのです。

――リース、エミリーさんの兄


※この翻訳は、抄訳です。
Translation:mayuko akimoto
COSMOPOLITAN UK