誰かが何かを「一生待っていた」と言ったら、たいていの場合は大袈裟に言っているけれど、ことチャールズ皇太子(現新国王)に関しては、その通りかもしれない。エリザベス女王が25歳で即位し、王位継承順位1位となったチャールズ皇太子はたったの3歳だった。それ以来、彼は70年以上にわたって後継者として待機し続け、史上最長の王位継承者となった。

親が亡くなって王位に就くというほろ苦い葛藤は、ケニア訪問中に父ジョージ6世の崩御を知らされたエリザベス女王が味わったものだ。チャールズ皇太子もまた、9月8日(現地時間)の女王の死を受け、国王としての役割を担うことになった。戴冠式は来年になる予定だが、セント・ジェームズ宮殿で開かれた王位継承評議会(即位式)では正式にチャールズ3世と宣言され、国民に向けた最初の演説で、君主として「生涯を通じて奉仕する」と誓った。

エリザベス女王は70年にわたって国家元首を務めてきたため、新しい君主の誕生は英国や英連邦諸国にとって大きな転換のように感じられる。しかし、チャールズ新国王はこれまで常に世間の注目を浴びてきたため、彼がどのような君主になるかを見極めるのに十分な時間があった。

チャールズ3世はどんな国王になる?
Getty Images

チャールズ新国王といえば、環境問題を中心に、自身が熱心に取り組んでいる問題について発言してきたことで知られている。しかし、国王となった彼は、政治的に中立な立場を保たなければならない。2018年の70歳の誕生日を記念するBBCのドキュメンタリー番組で彼はこのことについて言及し、(王位に就いた後)これまでと「全く同じように」発言を続けると言う考えは「完全にナンセンス」だと述べている。自身の公的なキャンペーンは続けるのかという問いに対し、彼は「いいえ。私はそこまで愚かではありません」と語っている。

即位後初の演説で、チャールズ新国王は新たな責任を引き継ぐことで自分の人生が変わることを認めた。彼は「私が深く関心を寄せている慈善事業や問題に、引き続き多くの時間とエネルギーを費やすことは、もはや不可能です」と述べた。

裏ではかなりの影響力とソフト・パワーを発揮している可能性があります

『Elizabeth: Queen and Crown』の著者であるサラ・グリストウッドは、UK版『COSMOPOLITAN』に対し、「皇太子時代の彼は、ときに物議を醸す意見を述べることで有名でした」と語り、彼の演説は、こうしたことから「身を引く」ことを示す合図だったと説明している。

グリストウッドは一方で、場合によっては国王の干渉は悪いことではないと指摘する。「国王の大きな関心事のひとつは環境問題ですので、このことについて国王が多少口に出したとしても、多くの国民は許容するでしょう。もし、国王が裏で政府の閣僚に環境問題について働きかけていたことが知れ渡ったら、国民はむしろ感謝するに違いありません」。

グリストウッドによると、新国王は毎週行われる首相との会談で、気候変動に対する行動を促す可能性があるという。「裏ではかなりの影響力とソフト・パワーを発揮している可能性があります」と彼女は説明する。

チャールズ3世はどんな国王になる?
Getty Images

『Crown & Sceptre』の著書であるトレイシー・ボーマンも、チャールズ新国王は自分が熱心に取り組んでいる問題の進展を推し進めようとするだろうと語り、彼は「故女王よりも率直」である一方で「憲法の範囲内に留まる」だろうと述べている。ボーマンは、「君主には大きな政治的権力はありませんし、そこに抗うことはないでしょう。しかし、自身が貢献できる問題については、意見を述べる機会を逃すことなく利用する思います」。

皇太子時代のチャールズ新国王は、野生動物の保護からホメオパシー(クラレンスハウスの牛や羊にこの代替療法が使われているらしい)まで、あらゆることに自分の意見を示してきた。特に、「黒いクモのメモ」の件では「おせっかい」と批判されることもしばしばだった。黒いクモのメモとは、チャールズ皇太子が農業、建築、教育など多岐にわたるテーマについて、英国政府の閣僚らに宛てた手紙のことで、クモのような彼の筆跡からこう呼ばれている。最近では難民をルワンダに移送する政府の方針を批判し、「ぞっとする」と発言したことが報じられた。

チャールズ新国王が皇太子時代に注目されていた理由は、その率直なところだけではなく、彼の性格が女王とはかけ離れている点にもある。女王の国葬を前に北アイルランドを訪問していた新国王は、署名する際に万年筆からインクが漏れていたことに対し「これにはもううんざりだ! いつもこうだ!」と暴言を吐いた。

チャールズ新国王は、野生動物の保護からホメオパシーまで、あらゆることに自分の意見を示してきた。

万年筆に対するあからさまな怒りは、悲嘆に暮れている時期のプレッシャーによるものだと言う人もいるかもしれないが、エリザベス女王が公の場で同じように不満を露わにする姿は想像できない。そして、チャールズ新国王が冷静さを失っているところをカメラが捕らえたのは、これが初めてではない。2005年、BBCの王室特派員であるニコラス・ウィッチェルのインタビューを受けていたとき、彼は息子たちに「あの男には耐えられない。彼は本当にひどい」と言っていたのをマイクが拾った。

チャールズ3世はどんな国王になる?
Getty Images

しかし、73歳になるチャールズ新国王は、その個性を抑えることができるのだろうか。ボーマンは「もし抑制するとしたら、国民と新国王の最初の交流の段階でそれをみることになっていたはずです」「私たちは、史上初めてテレビ中継された王位継承評議会を見た後に、万年筆の事件も目の当たりにしたわけです。ある意味で、もしこの段階で抑制できなければ、おそらく在位中に完全に人格を抑制することはないだろうと思います。文句を言わず、説明しないことで有名な女王よりも、より個性が表に出てくるかもしれませんね」と語る。さらに、皇太子時代よりも「慎重で控えめ」にはなるだろうが、故女王ほどではないだろうと予測している。

しかし、この意見に誰もが賛成しているわけではない。王室専門家のリチャード・フィッツウィリアムズは、チャールズ皇太子が新国王になったいま、彼がその行動を変えることは非常に重要だという。フィッツウィリアムズは「チャールズには活動家としての側面もあるため、国王の座に就いたからといって、生涯の習慣として行ってきたことを180度変えるのは難しいでしょう」と語る。また、チャールズ新国王の演説は、状況に適応することを誓ったという点で「意義深い」という。「彼はそうしなければならない」とし、「彼は一つの仕事を見事にやり遂げましたが、これから行うのは全く別の仕事なのです」と語った。

チャールズ3世はどんな国王になる?
Getty Images

チャールズ新国王の気質についてはさておき、女王が亡くなった後の王室の行方について、いろいろな憶測が飛び交っている。グリストウッドは、「チャールズ新国王は女王が亡くなる前から、英王室は中心メンバーだけに縮小し、“スリム化”を図ろうとしていたことはよく知られています」「今バルコニーに登場するのは直系の王族だけとなっていて、好都合なことに(スキャンダルを起こした)アンドルー王子を除くことに成功しました」と語る。また、ボーマンはチャールズ皇太子が国王になってからもこの傾向は続くと説明する。「新しい皇太子夫妻はとても人気が高く、すでに非常に活動的な王室メンバーであるため、今後ますます目立つと思います。そのため、新国王は、夫妻をより前面に押し出すことになるでしょう」

チャールズ皇太子の王位継承が、エリザベス女王のときとは全く異なるものであることは確かだ。フィッツウィリアムズは、王室に若い世代の国民の関心を引くには、チャールズ新国王の年齢が不利に働くかもしれないという。「73歳という年齢がネックになるかもしれません」と彼は説明する。

「25歳で即位した当時のエリザベス女王は、ピエトロ・アンニゴーニがシルバーの背景のなかに描いたローブを纏う女王の肖像画そのもので、未来はどこか輝かしいものに見え、チャーチル首相やその他の人たちが経験したもうひとつのエリザベス女王時代を象徴しているようでした。しかし今回は全く違います。国難のときです。ブレグジット後、生活費の危機、EUとの問題、ウクライナでの戦争など、大きな困難が伴います」。

フィッツウィリアムズは、アラン・ベネットの戯曲『ジョージ3世の狂気』の一節「To be a Prince of Wales is not a position. It is a predicament(プリンス・オブ・ウェールズは、地位ではなく苦境である)」を引用。今、チャールズ新国王が立たされている苦境は、母エリザベス女王が受け継いだ国とは全く異なる国であり、そこでどんな国王になるかということなのだ。

Translation: Masayo Fukaya From COSMOPOLITAN UK