センシティブなんで、記事にする時はいろいろ気を付けて

ジェンダーとかセクシャリティをテーマにしたある映画で、プレスシート(マスコミ関係者に配られる資料)に、「記事にするとき気を付けて」的なすごーく長い注意書きが書いてあったことがあります。

全部を明確には覚えていないのですが、主人公は男性として生まれたけれど心は女性で、その人が受けた身体的な手術は「性別適合手術」だから「性転換手術」という言葉の使用はNG、トランスセクシャルもNG、主人公の恋愛対象は男性ですがゲイという言葉も違う(…間違ってたらすみません)――的なことが、それはもう入念に神妙に書かれていました。原稿を書く前にこれを読んだ私は、なるほど、これはすごくセンシティブな問題なのだなということは理解したのですが、その一方で、主人公の三人称を「彼」と書いていいのか「彼女」と書いていいのかさえ分からなくなってしまい、完全に途方に暮れました。

それ以来、この手の映画に合うたびにいろんなことが気になり「むむむ」となってしまう私ですが、そんなわけで先週に引き続き今週もお贈りする『ダイ・ビューティフル』。「ミスコンとイケメンにささげたトランスジェンダーの華麗なる人生」というコピーがついているんだけども、彼女(彼?)が作品中で参加していたミスコンは「ミス・ゲイ・フィリピーナ」(ちなみに映画のチラシや公式サイトでの表記は「ミスコン」)であることに、え、これは正しいの?と思い始め、いろいろとググってるうちに、「トランスジェンダーは必ずしも性同一性障害ってわけじゃないんだぜ!」みたいな記事まで見つけてしまい、うあああああと更なる混乱のるつぼに陥ったのでした。

パオロ・バレステロスさんはフィリピンの人気司会者。インスタで発表するセレブそっくりメイクが人気。pinterest

バカだけど「バカに何言っても仕方ない」って言わないで

こういった混乱の経験は、ある「女装タレント」を取材した時にも訪れました。

この方、ゲイとかオネエとかトランスジェンダーとか、そういう風に書かれるのが大嫌い。もちろん取材はその手のことを聞くものではなかったのですが、何の言葉も交わす前から超絶不機嫌、取材ののっけから「近くに座らないでくれる?」とカウンターパンチを食らい(ほんとに)、別になんてことない質問にも「あなた、"ゲイ"とか"トランスジェンダー"とかに対してどうせこんな風に思ってて、こういう話を期待してるんでしょうけど、おあいにく様、そんな話はありませんから」みたいな言葉が返ってきて、そのたびに私は「いえいえ、べつに"いかにも"なお話なんて求めていませんよ」と伝え――どうにかこうにか乗り切った取材の後、私はふたつのことを思いました。

ひとつはこの人はこれまで、取材で何度も不愉快な経験をしてきたんだろうな、ということ。そしてもうひとつは、この調子だとこの人を理解したいと思ってる人も、なかなかそこまでたどり着けないだろうな、ということです。

生れも女子、自己認識も女子の人ですら、ジェンダー(社会が規定する性別なりの役割)に苛立ったりすることが多いのに、それをはるかに超えるややこしさを抱えながら生きる人たちの苛立ちは、それはもう大変なものなんでしょう。あくまで想像、ご本人たちに「わかるはずない」と言われれば、「いやわかる!」とは言い難い。

でも誰かを無神経に傷付けてしまう理由は、悪意ではなく無知だったりする場合が多いものです。そしてそういう「無知」相手に「お前はバカか?バカに何言ってもわかるわけねえな!」みたいに言えば、「無知」は「意固地な無知」というより始末に負えないものになるだけです。

と、こんなことを経験し、「触らぬ神に祟りなし」的にLGBTQネタには触れないと決めている編集者やライターって、実はすごく多いものです。それもまたよくない気がして、私はバンバン触れていっちゃうのですが――もし間違ってたり、傷ついた人がいたら、あんまり感情的でなく教えていただきたいなー。勉強します。そういう方法でしか、人間ってアップデートしないしね。

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