優秀な女子ほど、ミジメな自分を許容できない

のっけから映画にいきたいと思いますが、今回のネタは数年前に公開された『フランシス・ハ』。主人公フランシスの「人生探し」は映画業界を中心にマスコミではかなり話題になり、試写は毎回満席、多くの女性誌が取り上げた作品です。

フランシスはあるダンスカンパニーの実習生で、金銭的にはいつもカツカツ、子供じみたおふざけが好きで、部屋の整頓が苦手で、ロマンチックな恋愛を「ま、そんなのないんだろうけど」と思いながらも夢見ているというキャラクターです。そんな彼女が、じゃれ合うように一緒に暮らしていた親友から「同居を解消したい」と切り出されたことをきっかけに、周囲の同世代が着々と「人生設計」を進めていることに気付き、何もない自分に焦り大迷走を始めます。

ここまで書いて皆さんもお気づきと思いますが、フランシスは本当にダメダメなタイプで、それこそが映画の魅力です。彼女同様に「非サラリーマン」にありがちな「年齢なり」という感覚が欠如している私なんて、映画の中にいるフランシスに共感しまくり。同世代の大人なタイプに交じると完全に悪目立ちするあたり、もうほとんど他人とは思えません。まあ私ほど同一化してはいなくとも、私の周囲の友人たちもおむね似たような反応だったと記憶しています。

ところが。ある時この映画が「大嫌い」という女子に出会ったのです。ええええ、どうしてどうして。私は30代前半の彼女に尋ねました。そして帰って来たのがこの答え。

27歳のフランシスですらミジメに見えるのに、同じようジタバタしてミジメな自分は彼女よりずっと年上だから」

ちなみに彼女は優秀な大学を卒業し、有名企業の花形部署に勤め、年下のイケメンの彼氏がいる、さらに映画の話をすればちゃんと自分の趣味もわかっているしっかりしたお嬢さんで、他人から見たら「ミジメ」とは程遠い人です。私は思いました。もし彼女が「ミジメ」を感じているとするならば、それは彼女がそもそも優秀だからじゃないかなあと。つまり彼女は「完璧女子(もしくはそれに近いもの)」を目指しているので、私が共感しちゃうフランシスのミジメさを、許容できないのではないかと思ったわけです。

「辛いから」と逃げたら、なんて言われるかわからない

日本国内に限って言えば、例えば「あなたはどう思う?」と意見を求められた時に、率先して発言する女子は、帰国子女でもない限りそうはいません。でもそういう人でも「ホントはどうなの?どう思ってるの?」と繰り返し尋ねると、意外と意見は持っているもの。「なんで最初に言わないの?」と聞けば、返ってくる答えはだいたいこの2パターンです。

「間違っていたらイヤだから」「****と思われたくないから」

(「****」には「バカ」「出しゃばり」「生意気」「変な人」などが入ります)

そもそも「意見」とは個人的なものですから、正しいも間違いもありませんし、周囲が「すごい」と思わなくても納得しなくてもいいものです。でも周囲から常に「きちんとした人」「頭のいい人」「しっかりした人」と認識され慣れている優秀な女子は、周囲の反応を想像する力があるからこそ、これが苦手です。ある統計によれば、優秀な女子ほど「自分の実力で可能なことにしかチャレンジしない」といいます。私の友人にも、すごく優秀なライターなのに、やったことのないジャンルの仕事は断ってしまうという人がいます。

彼女たちの多くはおそらく、「女の子なんだからきちんとしなさい」と言われて育てられているのでしょう――「男の子は少しくらいやんちゃなほうが」と育つ男がいる一方で。それが実践できることは素晴らしいことでしょうが、時に辛くなってしまうこともあるに違いありません。だって忙しく働きはじめれば、「きちんと」なんてしていられないこともあるからです。

このところ、私の頭にはずーっと「彼女」が引っかかっています。東大を卒業し大手広告代理店に勤めた1年目の冬に、自殺してしまった「彼女」です。ツイッターで辛い状況を吐き出していた彼女が、そこまで追い詰められてどうして逃げなかったのか。世の中にあふれる「死ぬくらいなら逃げていいんだよ」なんて理屈は――本当のところはわかりませんが――きっと優秀な彼女のこと、わかっていたはずです。

それよりももっと単純に、毎朝会社に行くときに「行かないと何と言われるかわからない」「辛いと言えば、使えないヤツと言われる」という感じで毎日無理をするうち、「逃げる」発想が浮かばないほどに疲弊してしまったんじゃないかなあ。優秀だからこそ。

かつて会社における女子は「お茶くみ」要員で、30歳すぎれは退社が当然、結婚しないで一生を終える人は数えるほどでした。なぜそれが今みたいに変わったかといえば、社会が女子にはめたがるそうした「型」に、上の世代の女子たちが「なんで女子だけ?」と言い続け、「型」を破り続けたからです。ひどい会社環境を変えるために、できることはそれしかありません。

だから女子は「型」を破ることを恐れず。常にきちんととしていなくとも、自分を肯定してしまう図々しさを。ダメ人間と言われても涼しい顔で、いけしゃあしゃあと生きるしぶとさを。「仕事」も「女であること」も適当にサボるズルさを。偉そうに難癖つけてくるアホ上司に、「こいつは私より先に会社を去るし、先に死ぬ人間」と心の中で唱えながら。

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