今年10月の衆議院議員総選挙やコロナ禍での様々な政策をめぐり、若い世代の中でも話題に上がることが多かった政治の話。でも、まだまだ身近に感じられないという人も少なくないのでは?

今回お話しを伺ったのは、スノーリゾートとしても知られる長野県白馬村で、カフェの運営に携わりながら、28歳で地方議会議員になった加藤ソフィーさん。議員になったきっかけや、若年層の政治参加に対する意見をお聞きしました。

 
加藤ソフィー

加藤ソフィー

白馬村議会議員。フランス生まれ、白馬育ちの28歳。オーストラリア留学をきっかけに、多様な食文化や環境問題に興味を持つ。ベジタリアン&オーガニックフードを提供する「自然派喫茶Sol」を経営する傍ら、白馬周辺の農産物や加工品を扱うするオーガニックマーケットにも携わる。

今年5月より白馬村議会議員として活動を開始し、オーガニック給食の導入と有機農法の推進を公約に掲げる。

カフェ経営から議員になることを決意

――はじめに、議員になろうと決意したきっかけを教えてください。

私が当選した選挙の一期前、4年前の選挙のときに30代前半で当選した女性がいて、その方から誘われたのが一番のきっかけです。

白馬村に来る前、留学先のオーストラリアやニュージーランドでの経験を通して、環境や食に関する社会問題について身近に考えるようになりました。白馬村に戻ってきてからは特に“食”に興味を持って、ベジタリアンカフェを経営したり、オーガニックマーケットの開催に携わりながら、この社会がどうあるべきかということについてはよく考えていたんです。

そんななか、先輩女性から誘われたこともあって、実際に出馬して社会を変える側に立ってみようと思いました。

 
加藤ソフィー

議員になって見えた“世代の壁”

    ――実際当選して議員になった今、難しいと感じる場面はありますか?

    まずは議員になる前、選挙活動をする際に知らなかった暗黙のルールなどがあり、大変でした。選挙期間になると、普段は感じないような大きなエネルギーが動くというか、異様な雰囲気になるんですよね。

    私は大声を出して行う街宣に抵抗がありましたし、カフェの経営もしながらだったこともあり、選挙期間とはいえ特別な街頭演説は行わず、選挙カーも出しませんでした。時間ができたときに自転車でちょっと地域を回ったり、YouTubeで動画配信をしたりする“マイスタイルな選挙活動”を行っていたんです。

    他にも一般的には地区の推薦を得て選挙に出るのが通例ですが、地区の推薦なしに選挙に出ていることや、選挙事務所にいつ誰が挨拶に来ても対応できるようにするべきところ、少人数の身内で運営していた私たちは常に事務所が無人のときもありました。

    規則ではないので、私は自分のスタイルを変える必要はないと思っていたんです。でも、昔から選挙に携わっている方々に理解を得られなかったのが、難しいと感じた点でした。

     
    加藤ソフィー

    ――議員になった現在はどうでしょうか?

    議員になってからは、他の議員との“世代間のギャップ”を感じることもありますね。

    たとえば議会にYouTubeを入れるのは、他にも実施している地方議会はたくさんありますし、私たち世代にとってはすごく簡単なこと。けれど新しいことに対しての抵抗が強くて、なかなか議論が進まないというときもあります。それぞれが持っている信念が違うために起きていることなので、今後は歩み寄っていけたらと思います。

    有権者が7000人の自治体で300以上の票を頂いた重みも感じていますし、そしてなにより私を選んでもらった以上は、期待に応えなければいけないという責任も感じています。地方議会議員は、自由に使える時間も多い。議員としての活動はいくらでもできるので、掲げた公約を実現するためにも必要なことをひとつずつやっていこうと思っています。

    声を届けることが未来につながる

    ――議員になったからこそ、伝えていきたいことはありますか?

    そもそも地方議会と国会の違い、議会が何をするところなのかがよくわからない人も少なくないと思います。まずは白馬村の若い世代や遊びに来てくれた人に、議会を身近に感じてもらえるようしていきたいと思います。

    そのうえで伝えたいのは、議員ひとりでは何もできないけれど、議会としてまとまると、条例をつくれる力を持っているということ。

    たとえば環境を守りたいとか、自分が今不安に思っていることも、もしかしたら議会の力で解決できるかもしれない。政治のそういう部分は見えづらいので、「選挙に行っても何も変わらない」と思ってしまう気持ちもわかります。でも、議会をちゃんと“監視”したり、要望を伝えたりして積極的に関わっていくことで、自分たちの生活に直接跳ね返ってくると実感してもらいたいです。

     
    加藤ソフィー


    私は議員になってまだ日が浅いですが、それでも「こんな簡単に決まってしまうんだ」と驚くことがあります。要望の出し方、いわゆる“陳情”というのも、ハードルが高そうに見えて、一度書き方を知ってしまえば難しくありません。要望がないと、住民がどういうことを考えているのかわからず、議会もどの方向に進んでいけばいいのかわからなくなってしまうんです。

    議員もひとりの人間なので、結局生活している範囲内でしか想像できない部分もあり、若い世代が求めていることなんて全くわからない状態である場合も。「こうなってほしい」「こういう生活をしたい」という要望を、もっと議会に提出してみてもらえたらと思います。

    私も議員になる前に、一度陳情を出したことがあります。期限やフォーマットが決まっていて少し面倒だけれど、そこをクリアするだけで「議会にその話題が挙がる」というのはとても価値があることだと思います。可決されるかどうかはまた別の話ですが、まずは議題に上がるのが大事ですよね。それはみなさんの権利でもあるので、ぜひ広まってほしいなと思っています。

    まずは身近な人に自分の想いを伝えて

    ――若い世代がより政治に関心を持つためには、どのようなことが必要だと思いますか?

    個人的には、まず教育を変えていくべきだと思いますね。私は母がフランス人で、家庭ではフランスの文化の影響を受けて育ってきました。日本では、「どうしたいか」「どうして欲しいか」など、自分の考えを持たせるような教育が受けられていないと感じます。自分の考えを持っていなければ、どれだけ影響力のある有名人が「選挙へ行こう」と発信したとしても響かないはずです。

    今の20代や30代の若い世代に、どう政治に興味を持ってもらうのかということについては、まずは地道に一人ひとりが身の回りの人たちに「選挙へ行こう」という話を普通にするのが大事なのかなと感じています。

    ある人に言われても響かないけど、別のある人に言われたら響くこともあるかもしれない。私たちのように問題意識を持っている人たちが、身近にいる人に伝えていくのが一番大事じゃないかと思います。

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    加藤ソフィー

    白馬村は冬のリゾート地として、スキー場関連の観光で生計を立てている人が多いので、スキー場の雪不足はここ数年でとても深刻な問題になっています。温暖化や気候変動に関して他の地域よりも肌で実感している人がたくさんいるので、若い人でも積極的に政治に参加して気候変動対策を求める人はかなり多いと感じています。

    “自分軸”で生きてほしい

    ――最後に読者へのメッセージをお願いします。

    私が議員になったのは、「社会を変えてやろう!」とかそういう目的ではなくて、どうしたら自分が気分良く幸せに生きていけるかと考えた結果。気候変動などの問題を次世代に残さないために何も行動を起こしていない自分が嫌で、まずは自分が変わってみたんです。私が議員になったことで、少しでも白馬村が良い方向に進めば良いなと思っています。

    私がベジタリアンやヴィーガンを選択して生きているのも、自分が気持ちいいと感じるから。最近は、環境保全に興味を持っている方も増えていますが、あくまでも“自分が気持ちいいからやっている”ということは忘れてはいけないと思います。

    何事も「こうしなきゃダメ」みたいな強要する言い方ではなくて、まずは自分に何ができるかを考えてやってみることが大切。それを見ている周りの人は、きっと何かしら感じるはずですし、広まっていくというのはそういうこと。自分が何か発信したい、広めたいと思ったときには、共感してもらえる人を集めて広めていくというアプローチを心がけてみてもらえたらなと思います。