「がんを患うと、多くの人はセックスをしなくなる」と語るのは、自身も乳がんと診断されたことのあるローレン・マーンさん。闘病後の自信のもち方や「性」との関り方など、これまで多くが語られてこなかった事柄についての対話を増やそうと挑戦するマーンさんのストーリーを、<コスモポリタン アメリカ版>から紹介します。

「マスターベーションのおかげで見つけられた」

「マスターベーションのエクスタシーの中、私は自身の胸を触っていました。すると、しこりがあることに気づいたのです。バイブレーターのおかげで見つけたと言っても良いかもしれません」とローレン・マーンさん。アクティビスト兼ポッドキャスターとして活躍しながら、がん支援チャリティ「ガールvsキャンサー」の創業者でもあるマーンさんは、2016年に乳がんと診断されています。

発見時のがんの進行度はステージIIIで、抗がん剤の化学治療、放射線療法と何年にも及ぶホルモン阻害薬による治療と検査の日々が始まりました。もしあの時マスターベーションをしていなかったら、がんを見つけることはできていなかった、とも。

闘病後の「性」について発信

それから7年、マーンさんはがんの闘病をする人々を支援するため、自身のチャリティ団体や個人的に、またがんコミュニティに足を運んだり、ポッドキャストを通してオンラインで発信をしたり、さまざまな形で活動を続けています。その目的は、闘病後にアイデンティを再び構築する上で自身の体とのつながりを取り戻すこと、特に「性」との関わり方についての対話を開きたいからだと言います。

「がんの診断を受けたとき、まず最初にセックスについて考える人少ないでしょう。でも性生活を含め、がんは日常のすべての要素に変化をもたらします。しかもよく考えれば、セルフラブは私の命の恩人です」

今年10月の「乳がん啓発月間」では、性やセックスの大切さについて考えることや、そのための情報提供を支援するキャンペーンを実施。がんの治療中の自分の身体との関わりを考えることに焦点を置きました。

「がんは、生涯で2人に1人が経験するものだと言われています。つまりあなたとあなたの今横にいる人の、どちらかががんになる可能性があるということ。そう考えると、がんはすごく身近なものだと実感していくでしょう。だからこそがんの話をするときに、忘れられがちなところこそ、もっとオープンに話すことが大事だと思うのです」
a large billboard on a buildingpinterest
BBH London

マーンさんのいう「がんとセックス」に含まれるのは、治療中のセックスやリカバリー中のセックス、完治後のセックスまで、そのすべて。自分自身のことをセクシーだと感じるか、実際どうやってセックスをするのか、がんでどのような身体への変化があり、それがどうセックスに影響するのか、などを語っていきたいのだそう。

マーンさんは昔から、一般的には人が“嫌な顔”をするようなトピックだったとしても、恥ずかしがらずに話せるタイプだったと言います。マーンさんが運営していたポッドキャスト「You, Me and the Big C」では、共同司会者だった故デボラ・ジェイムズさん、故レイチェル・ブランドさんとともに、今まで話されてこなかったトピックをオープンに語り、多くの功績を残しました。

二人は惜しまれつつも他界されましたが、マーンさんは活動を続け、タブー視されたこのトピックについて会話を開いています。

a woman wearing a blue shirt and gold necklacepinterest
Lauren Mahon
「私自身も経験したし、周りからの話をきいていても思うけれど、多くの人はがんを経験するとセックスをしなくなります。体の変化を感じやすくなり、また自信がもちづらいということが原因でしょう。 パートナーから見て、魅力がなくなってしまったのではないかという心配もあります」

「治療によっては、人工肛門を使用するようになったり、麻痺する部位ができたり、身体に大きな変化が起きます。がんは、どんなセックスができるかということや、自信のもち方などに影響を及ぼすのです」

「もっと話題にしていくべき」

大きな病気を経験すると、人生のさまざまな場面に変化が起きます。しかし、性的欲求の有無から自己肯定感、マスターベーション、恋愛まで、性生活への影響はあまり話されてきませんでした。

「もっと話題にしていくべきトピックでもあるし、今までにない革新的な声であるということから、大規模のチャリティが支援してくださっているのだと感じています。こんなに赤裸々に話す人はいないので、今までリーチできなかった層にも声が届いているのではないでしょうか」
「今年のキャンペーンを通して、デートやマスターベーション、ヘルシーな性生活をサポートするリソースをみなさんに届けられます。このようなトピックに焦点を当てた取り組みはこれまでなかったのではないでしょうか。ほかの誰かとはじめるまえに、まずは自分の体や心、マインド、そしてプレジャーを自分の軸に据えることを大切にしています」

闘病中の人や自分のボディ・イメージに苦しんでいる人、孤独を感じている人、性生活や恋愛で悩んでいる人などを支援したいというマーンさんのパッションは、自身の経験と苦しみからきていると言います。

「病気になる前、私は自分自身が魅力的とか、セクシーだとか思ったことはありませんでした。いつも友達は誘われているのに、自分には誰に声がかかることなかったのです。世間知らずのまま誰かと付き合い、雑に扱われ傷つけられてばかりで、うぶだったんです。誰かに魅力的と思われたい、認められたいという気持ちでセックスをツールのように使っていました。そんな中がんになり、色々学びました」

抗がん剤治療をしている間も、マーンさんはマッチングアプリを使っていたそう。友達や家族からは同情の目を向けられたけれど、マーンさんにとっては闘病生活の中で“普通”を見つける方法であり、自信につながることもあったのです。

「がん治療中は身体的にもかなり負担が強く、なかなか自分がセクシーだと思える瞬間がありません。なので、ちょっとオンライン上でいちゃいちゃした会話をしたり、ただ自分らしく存在しているのがうれしかったです」とマーンさんは思い返します。

a woman wearing a blue shirt and gold necklacepinterest
BBH London

しかしいざ「会おう」という会話になり、場所や時間を決める場面になると、"言い訳”をして避けていたと言います。デートに行ってみたものの、「介護師に外出に付き添ってもらったような気分」で余計に悲しい気持ちになったため、治療を終えるまでアプリは消すことにしたそうです。

性生活に変化

5年間再発なしという自身のマイルストーンを達成したマーンさんは、性生活に大きな変化を感じています。

「一夜限りの関係は、昔と違い、なぜかモノ扱いされたような気持ちになります。色々なことをがんを通して経験したからだと思います。そのような扱いを受けるとどこか感情的になってしまいます。自分が何をほしていて、どう扱ってほしいのかなど自分のことをもっと知れたように感じて、それはうれしく思います」

一方、マスターベーションはマーンさんの日常生活にとって、なくてはならないものになったとも。

「眠りにつきやすくなるし、自分の身体とのつながりを感じることができます。誰かとセックスをしなくても自分の性的な一面を活性化させられるのが、自分にとってはすごく大切です」
「そしてもう一度、性を楽しむために何が必要なのか、自分自身に問うきっかけにも。それがローションや保湿剤、拡張器、それともカウンセリングなのか。周りの人からの承認ではなく、自分が自分にできることで、何を欲しているのかを考えてみてください」

徐々に変化を受け入れる気持ちが大切

マーンさんが1番声を大きくして言いたいことは、「がん治療の真っただ中でも、自分を大事にしてほしい」ということ。そして日常生活に馴染むための努力をしている間、自分ががんを経験したということをみんなに言わないといけないと思わないようにしてほしいとも考えます。

「アプリで見つけた人とお出かけしたり、デートでお茶をしたり、真剣な交際を求めていない人と散歩に出かけたり、色々挑戦してみてください。しばらく使ってこなかった“筋肉”を使ってみて、自分の心の声に耳を傾けてみましょう」

マーンさんは、がんを経験している、またはした人にこのようにアドバイスしています。

「泳ぎに慣れていないのに、いきなり海の深いところにジャンプをすると溺れてしまいますよね。セックスについていきなり考え始める前に、まず人間関係だったり、自分との関わり方だったりを考えるべきだと私は思います。そしてそれと並行して、セルフプレジャーをすることも助けになると思います」

※本記事は、Hearst Magazinesが所有するメディアの記事を翻訳したものです。元記事に関連する文化的背景や文脈を踏まえたうえで、補足を含む編集や構成の変更等を行う場合があります。
Translation:佐立武士

COSMOPOLITAN UK