心の状態が性欲に与える影響は知られていますが、病気やその治療の影響によって性欲がなくなることも珍しくありません。

この記事で紹介するのは、大学4年生だった2022年2月に急性骨髄性白血病の診断を受け、性欲を感じられなくなってしまったというイギリスのケイティ・モーティマーさんによるエッセイ。

専門家の解説や自身に似た境遇の女性たちの話を交え、「闘病生活と性欲」という、あまり語られてこなかったテーマを掘り下げていきます。

語り:ケイティ・モーティマーさん

私が、急性骨髄性白血病(血液がんの一種で進行が早いことで知られている)の診断を受けたときの絶望感は忘れられません。でもその時には、白血病が性欲に与える影響についてまでは考えていませんでした。命がけで病と闘っているときには、セックスのことは二の次になってしまうもの。でも現実に戻った今、再び性欲を取り戻すことの難しさに直面しています。

がんは、人生観を変えます。当時の私は、少しの予告もなく急に“大学4年生”から“寝たきりのがん患者”となり、 家族や友人、パートナーとの身体的な接触も絶たれました。ホルモンの変化や倦怠感、抜け毛、体や外見の変化に向き合うこと、そして何よりも病の再発防止こそが私の生活のすべてになったのです。

そんな時に、医師や看護師に「自分の性欲について悩んでいる」なんて聞けるわけがありません。

若くして“がんと生きる”ことになった私にとっての最優先事項は、もちろん「健康な自分に戻ること」です。それと同時に、“普通の生活”がどんなものか忘れてしまいがちですが、性成熟期に差しかかりセクシュアリティの関心や探求が高まる年齢での病の影響は無視できないものでもあります。

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Portra Images//Getty Images

この悩みを抱えているのは、なにも私だけではりません。たとえば、 二次がんの一種である「移植後リンパ増殖性疾患」の診断を受けたソフィー・ヒンクスさん(24歳)は、「自分の体について学び直さなくてはいけなくなった」と語っています。

診断を受けた当時にシングルだったソフィーさんは、化学療法を受けている期間にはセックスをする機会がなかったものの「どちらにしても副作用の影響で無理だった」と言います。髪の毛を失いウィッグを着けるようになったことで自信を失ったほか、身体の一部に痛みがあったり、感覚が過敏になるなどの影響もあったそう。

「誰かが自分の体に触れることを考えただけでとても不安になり、性感染症に罹るのではという恐怖もありました。正直に言うと、現在でも自分のセクシュアリティについては模索中です」

性欲減退は薬の副作用としては珍しいことではありませんが、がん患者たちは薬の服用のほかにも化学療法や放射線治療など、性欲に影響する治療を受けています。また、24時間体制での看護を受けた人にとって、たとえ性的な行為を含まずとも、誰かと会うこと自体がとても非現実的な気がしてしまうのです。

心理学者のジェニファー・ローデス博士は、治療期間の様々な不安感や恐怖がトラウマになることが患者のセクシュアリティに影響を及ぼしている可能性を示唆。

「薬による副作用といった明らかな性欲減退の原因以外にも、愛情を感じる行為に対する意識を変化させる要因もあります。たとえば、悲しみや羞恥心、罪悪感も性生活に影響を与えるもの。前に進むには、そうった感情から解放される必要もあるのです」

感情を抑え込んだり恐怖に囚われているときの解決策の一つとしてローデス博士が勧めるのは、自分の体とのつながりを取り戻すこと。身体を癒すことと共に感情面への対処が伴うことが、愛情行為への復帰の手助けになるのだそう。

「がん患者たちは、治療による物理的な影響だけでなく、自尊心など多面的な影響に直面します」と語るのは、ケンブリッジでがんに冒された人々を支援する慈善団体「マギーズ」のセンター長であるリサ・パントさん。

パントさんは現在、治療の副作用として閉経を迎えた女性たちをサポートするワークショップを運営しています。そこで気づいたのは、多くの患者たちが「治療が体や性機能にどのような影響を与えるか」について教えられてないということ。

だからこそ、治療には“包括的なアプローチ”が必要だと言うのです。そしてその一つとして、「性に関する影響について教えたりアドバイスすること」も含まれると言います。

「医師や看護師にも、患者が抱えている性の悩みと向き合うためのアプローチ方法を教える必要もあります。治療中のサポートと同じくらい、治療後のサポートも重要です。その後の人生をより長く質の高いものにするためにも、第三者の支援が欠かせないのです」

(※ケイティさん)にとって、これらの影響への対処法として効果的だったのは「ヨガ」でした。ヨガ教室では偏見から自由でいられ、同時に身体を曲げたり動かしたりすることが健康面での回復にも良い影響があったと思います。

一方で、自己完結してしまいがちなヨガをしているだけでは「愛情行為の回復」には辿りつきづらく、未だにその方法を模索中です。そういう意味では、私はまだ治療の副作用の最中にいるとも考えられるでしょう。

これを読んでいて、同じように悩んでいるあなたへ。あなたは独りではありません。“闘病と性の健康”について話すことにまだ壁を感じる人は多いと思いますが、このプロセスであなたが経験したことや向き合った感情は紛れもなく本物であることを忘れないでください。

※本記事は、Hearst Magazinesが所有するメディアの記事を翻訳したものです。元記事に関連する文化的背景や文脈を踏まえたうえで、補足を含む編集や構成の変更等を行う場合があります。
Translation:mayuko akimoto
COSMOPOLITAN UK