主に手術という治療方法を用いて、患者の病気やケガの治療をする「外科医」。 長時間にわたるハードな施術や労働形態で、伝統的に男性が多い世界というイメージが根付いています。 イギリスでは、そんな外科医の世界でまん延するセクシャル・ハラスメント(以下、セクハラ)や性暴力の被害が報告されるように。

英<BBC>や<タイムズ>紙はそのきっかけとなった調査をもとに、実際に女性たちの声を報じています。医療現場での性加害の実態と、当事者の声などを紹介します。

※本記事には性暴力についての記述があります。心身への影響を懸念される方は、閲覧にご注意ください。

3人に1人がセクハラ被害に

イギリスの大手ニュース媒体が多く報道している、「外科医界の性暴力について」。その発端となったのは、 英医学ジャーナル<BJS>に掲載された、イギリスで働く1434人の外科医(半数が女性)への匿名調査でした。

その調査では、過去5年における外科医をとりまく現場の性暴力の実態を告白。以下のような結果がでたと共有しています。

  • 30%の女性が同僚からセクハラや性的暴力を受けた経験がある
  • その中には、レイプ被害も11件含まれている
  • 女性の40%は自身の体や体型に関する不快なコメントをされたことがあり、38%は性的な“冗談”を言われたことがある
  • 90%の女性および81%の男性が性的不正行為の現場を目撃したことがある

そして目撃をしていても、キャリアや将来への影響を危惧し、報告しない・できないケースも多いことがわかりました。

「“おおごと”にしたくなかった」

BBC>のインタビューに応じた、外科医のジュディスさん※ファーストネームのみを公表。同僚の目の前で、上司にセクハラをされたと語ります。

ジュディスさんの上司の男性外科医は、手術中に額の汗を拭くためと装い、彼女の手術衣でぬぐおうと顔を胸に埋めてきたと告白。同行為を何度もするので、男性外科医にタオルを使うように渡した際には、「いや、こっちの方が楽しいから」と言われたそう。

「彼は笑っていました。恥ずかしかったし、汚されたような気がしました」とジュディスさん。彼の上司に当たる人も現場にいたものの、特にそれを注意するそぶりは見られなかったと振り返ります。

法律上の理由で名前を明かすことができない別の女性は、研修生時代に尊敬していた顧問医師が性行為を迫ってきたことがあると明かしました。<BBC>のインタビューでは、「恐怖で体が動かすことができなかった」そう。そして被害者である彼女は、「レイプ」という言葉は使いたくないと言います。

「私はしたくなかった。したいと一度も思ったこともないし、そういう流れでもなく、本当にいきなりだった」けれど、“おおごと”にしたくなかったと言います。何年も経った今も、そのときの記憶が浮かび上がってくるのだと語っています。

外科分野の「#MeToo」運動のとき

外科分野で起こっている性暴力の実態を明かした同調査は、エクセター大学、サリー大学、外科における性的不正行為専門調査委員会(Working Party on Sexual Misconduct in Surgery)が共同で作成したもの。

同調査は「ジェンダーと立場のパワーバランスの掛け合わせによって、外科分野で性的暴力が頻発するだけでなく、見過ごされる傾向にある」と分析。実際執筆に関わったひとりによれば、「女性の研修医が上司の男性から性的暴力を受ける」パターンが一番多いのだそう。

そしてこのレポートは「労働環境としても安全でないほか、患者にも悪影響である
とまとめています。

顧問医師でイングランド王立外科医師会の女性外科医フォーラム委員長のタムジン・カミングさんは<タイムズ紙>に対して、「医療分野の組織文化の構造から変化が必要」であり、今は外科分野の「#MeToo」運動のときとコメント。

イギリスのNHS(国民保健サービス)や性的暴行と虐待のための全国臨床ネットワークの議長、ビンタ・サルタン医師は「どのような仕事場の性的暴行や虐待も許されるべきではない」と前置きしたうえで、英<コスモポリタン>に以下のように語っています。

「調査書は読みやすいものではありませんが、なぜ行動を起こさないといけないかを証明する、“証拠”になる重要なもの。私たちは、医療の現場がスタッフと患者にとって安全安心な環境になるように全力を尽くしていていきます。ハラスメントや不正行為を報告しやすい環境やシステムを整えるなど、すでに改善を始めています。実際に経験をした人々の協力があって実現したことです」

※本記事は、Hearst Magazinesが所有するメディアの記事を翻訳したものです。元記事に関連する文化的背景や文脈を踏まえたうえで、補足を含む編集や構成の変更等を行う場合があります。
Translation:佐立武士
COSMOPOLITAN UK