2023年3月13日以降、「マスクの着用は、個人の主体的な選択を尊重し、個人の判断が基本」となった日本。厚生労働省の公式サイトでは、「本人の意思に反してマスクの着脱を強いることがないよう、ご配慮をお願いします」と書かれています。

現在では、日本だけでなく多くの国で体調や状況によってマスクの着脱が許されていますが、パンデミックのピークにはマスク着用が基本とされていた時期も。中には、感覚過敏や精神疾患、障がいなど、理由があってマスクの着用が困難な人たちへの理解が進まずに、苦しんだという人も。

そこで本記事では、パンデミック下のイギリスで、性被害のトラウマからマスクを着けることが困難だった女性の体験談をお届けします。

※記事には、性暴力についての記述があります。心身への影響を懸念される方は、閲覧にご注意ください。
※2020年11月に取材された記事です。

口を塞がれることの苦痛

マスクを着けることが困難な人たちに対する批判に対し声を上げたのは、ジョージーナ・ファロウズさん(当時29歳)。事務弁護士で、公の場でマスクを着けられない人々に対する認識を高めるため、<ガーディアン紙>の取材に対し、あえて実名で自らの状況を語りました。

「私が性的暴行に遭ったとき、犯人は手で私の口を塞ぎました。その記憶から、たとえ命を守る酸素マスクであっても、口を塞がれることがフラッシュバックの引き金になります。凄まじい苦痛です。まるであの時に戻ったみたいに、犯人が私を襲い、死の苦しみを味わっていたときの感覚がよみがえってくるのです」

その後ジョージーナさんは、7つの慈善団体とともに、マスクの着用を免除されるべき人々について政府が啓発キャンペーンを行うよう、ジャスティン・トムリンソン障害者保健労働担当大臣に対して要望書を提出。

これまでに何度もマスクを着用していないことを咎められ、その度に辛い記憶が呼び起こされたというジョージーナさん。一時は、公共交通機関の利用を避けるようになったため、徒歩では行けない場所に住んでいる家族とも会えなくなっていたと言います。

「誰か知らない人を見たとき、その人が性的暴行の被害者だとは思わないかもしれません。でも実際に私は被害者であり、人生において大きな影響を与えています。日々の中で、できるだけ過去の苦しみを必死に思い出さないように努めているのに、マスクを着けるたびに思い出さざるを得ないのです」

チャリティ団体「Rape Crisis England & Wales」の広報担当であるケイティ・ラッセルさんが<コスモポリタン イギリス版>に語ったところによると、残念ながら、これは被害者たちにとって“稀なケース”ではないそう。

「児童を含む性的暴行を受けた被害者たちの多くが、顔を何かで覆うことへの深刻な困難を語っています。彼らが経験した虐待や暴力の一部に、口や鼻を塞がれたり、首を絞められたり、顔を押さえつけられるという場面があったからです。そのため、顔や鼻を覆うことは、フラッシュバック、パニック障害、深刻な不安を引き起こす引き金となるのです」
「様々な理由から誰もがマスクを着用できるわけではありませんし、必ずしも見た目では判断できなかったり、明らかではなかったりするものなのです」

「どうか、マスク着脱の状況だけを見て、その人を一方的に決めつけないようにしてください。あなたが知りえない事情があるかもしれない人を一方的に批判することは、正当化できるものではありません」と、ラッセルさんは付け加えています。

※この翻訳は、抄訳です。
Translation:mayuko akimoto
COSMOPOLITAN UK