※この記事には、性暴力に関する記述が含まれます。

イギリスでは、レイプや性的暴行の加害者が有罪になる可能性が“恐ろしく”低い。その理由として挙げられるのは、こうした事件に関する数々の俗説と、警官や陪審員たちの理解の欠如だと指摘されている。

こうした事件の裁判には、法的な面でも文化的な面でも、多くの問題がある。レイプや性的暴行の被害者は、裁判で証言しても、その「信用度が低い」と判断されることが多い。これは、長年にわたって(主に)女性たちを不利にしてきた、ひどく有害な見方のひとつ。特に事件の発生前に被害者が飲酒していた場合には、なおさらそのような見方をされる。

女性 飲酒
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だが、イギリスのバーミンガム大学の研究チームが新たに発表した研究結果は、こうした「飲酒していた=証言は信頼性を欠く」という考えを打ち砕くものとなるかもしれない。

研究チームによると、飲酒は必ずしも、「特定の出来事を正確に思い出す能力を損なうわけではない」という。実験を主導したヘザー・フロウ教授(心理学)は、結果に関連して次のように述べている。

「多くの性的暴行(事件)は、被害者が飲酒し、酔った状態のときに起きています」「そのため多くの裁判で、被害者や目撃者の説明(の信頼性)が争われることになります。これが、加害者が有罪になるケースが非常に少ない理由のひとつです。変えなければなりません」

調査方法

調査は女性90人を対象に行われた。女性たちは、ある男性との出会いとその後の性被害について、文書と音声の両方で説明を受け、実際にそうした性被害に遭ったものとして、事件の詳細を記憶してもらった。また、実際にその被害に遭っていたら、自身はそれをどのように受け止めるかについて、想像してもらった。

なお、調査では女性たちの半数ずつに、アルコール飲料とトニックウォーターを提供。ただし、トニックウォーターを飲んだグループの一部には、「これはアルコールである」と伝え、ほかの一部の女性たちには「これはトニックウォーターである」と伝え、ウォッカ入りのトニックウォーターを飲んでもらった。

調査の結果、飲酒したと思っていた女性たちは、自分がいた場所や、関わった人に対する意識を高めていたことがわかった。実際に飲酒した女性たちも(車の運転に許容されるアルコール濃度の上限に達していた場合でも)、仮定のシナリオにおける性的暴行の被害について、自身が同意した行為とそうではなかった行為について、詳細に思い出すことができたという。

close up of woman hands holding glass with cocktail in bar
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調査結果からわかったこと

そして、実験の1週間後、女性たちには仮定のシナリオのなかで起きたことについて、アンケートに答えてもらった。その結果、飲酒した女性たちも、合意した行為とそうではなかった行為について、正確に記憶していたことがわかった。

研究チームによると、酔った女性が合意のうえでセックスをした後に、「合意のうえではなかった」と訴える可能性があるとの主張を裏付ける証拠は、得られなかったという。

そのほか実験では、実際にアルコールを摂取したかどうかに関わらず、「飲酒していたと思っている」女性たちは、レイプの被害に関する具体的な内容を、より正確に記憶していたことが明らかになったという。

こうした結果は、女性たちの証言が「信頼に足るものである」ということを示している。さらに、飲酒は記憶に影響を与えていないことを示唆している。実際にはそれどころか、自分がより弱い立場に置かれていると感じる状況において、女性たちは「大幅に警戒心を高めていた」ことが示唆されている。

こうした結果について、調査結果をまとめた論文の共著者は、次のように述べている。

「この研究は、レイプや性的暴行の被害者の記憶を否定する根拠とされてきた俗説に挑んだものです」「被害を受けたと主張する人の証言に対する裁判所や専門家証人の対応が、変わるきっかけになればと願っています」

研究チームは今後も、酩酊の程度を変えたり、仮定のシナリオの内容をより現実的に変えたりして、調査を継続する計画だという。

今回の実験では、対象とした女性は90人に過ぎない。だが、結果は被害者にとって有害な俗説を打ち砕くという点において、まさに正しい方向への一歩になったと考えられる。

From COSMOPOLITAN UK