イギリスのNHS(国民保健サービス:税金で運営されている医療サービス)の医師として働く、ベッキー・コックスさん。

本記事では、医療現場で同僚の男性から不当な扱いを受けていると気が付くまでに数年かかったと話すベッキーさんが、自身の体験を振り返ります。ベッキーさんが目の当たりにした、病院内での性被害の現状とは――。

※本記事は、<コスモポリタン イギリス版>の記事を抄訳したものです。

語り:ベッキー・コックスさん

多忙な病院での日々

医学部を卒業した私は、2年間さまざまな病院で異なる科を経験し、病院での生活に慣れようと一生懸命でした。献身的に働く周囲の人々を尊敬しましたし、長いシフトや困難な状況など大変な毎日でしたが、患者さんを助けるというやりがいから、なんとか続けられていました。

家族にとっても私が医者になったということは一大事でしたし、他人をケアしながら変化を起こせるという仕事に就けたことに、私自身もワクワクしていました。

ところが、研修期間が終わった後に私が配属された外科のチームは、思っていたような場所とは別物でした――。

常態化していた「セクハラ」

まず、私が所属したチーム内では、外見に対する見下すような会話が多く、女性を辱めるような発言も常態化していました。不要なボディタッチさえも、受け入れることが当たり前になっていました。

廊下ですれ違うと、同僚の女性スタッフからは「あの人とは部屋で二人きりになっちゃダメだよ」や、「あの医師とはロッカールームで一緒にならないように」と、気をつけるべきスタッフについて警告されるほどでした。

当時は、こうした状況を誰も止めようとしていなかったし、こうした行動を明るみに出す安全な場所もありませんでした。私たちはただ黙って、我慢するしかないと思っていたし、患者さんの診療にいっぱいいっぱいで、じっくり考える余裕もありませんでした。

doctor walking through hospital corridor
Johner Images//Getty Images

被害者側のキャリアに影響が

あるとき、私はとある会議の場でコンサルタントに体を触られ、別の医師によって深刻な性的被害を受けました。一日中、そして毎日、自分が被害を受けたのと同じ環境に身を置かなければならないのは苦痛でしかありませんでした。

この性被害は、私が口を開こうと開くまいと、キャリアに影響を与えました。何かあった場合に私たちが相談すべき上司がいるのですが、ほとんどの場合は男性のコンサルタント。医療業界は狭いうえに横のつながりも深く、大きな病院はさらにその傾向が強く、医療分野は男性支配の強い集団なのです。

NHSの統計によると、コンサルタントの66%が男性で、NHSのチーフエグゼクティブや重役の54%は男性。もし一人のコンサルタントに相談しても、その人は加害者の味方をする可能性も低くなく、また最悪のケースでは、彼ら自身が加害者だということもあります。

結局、なんとか事態を収拾するため、私は外科でのトレーニングから離れ、一般診療に移ることにしました。自分が虐待された場を物理的に離れることにはある程度の効果がありましたが、精神的な苦しみは続きました。数カ月ほど仕事を休み、気持ちの整理をするためにセラピーを受けました。

声を上げるために

この経験から私は同僚のチェルシー・ジューイット医師とともに、医療関係の女性たちが性被害を受けないようにするためにキャンペーンを始めることにしました。病院の中で生き残るには、患者さんのために働いている多くの人々が苦しんでいる性差別を明らかにするしかありません。

キャンペーンの一環として、私たちはこの分野で働くあらゆる女性やノンバイナリーの人々に呼びかけたところ、95人の被害者から声が上がりました。私たちは、被害者のキャリアが危険にさらされることなく、安全に報告できる、独立したプログラムをNHSの内部につくるよう求めています。

私たちは一般医療評議会(GMC)と話し合いをして、医師のためのガイダンスを改訂し、女性蔑視は許されないということを明確に盛り込んでもらうよう提言するつもりです。

現在、医師のためのガイダンスには「モラルを持った行動を」としか書かれておらず、その意味についてははっきりしません。国立大学でも医学部の改革を行い、職場での虐待や性差別について教育するべきです。徹底的にやらなければ変化は起こりません。

2021年に発表された調査によると、実に90%の女性医師が職場で性差別に遭い、31%が望まぬ身体接触を受け、47%が自らのジェンダーを理由に好ましくない扱いを受けたと報告しています。

一方で、女性たちはこれまでに被害を訴える場もなかったし、聞いてもらう機会もありませんでした。性差別や虐待は社会的な問題ですが、それは同時にNHSの構造的な問題でもあります。私たちはそれが撲滅されないかぎり、声を上げ続けるつもりです。

group of doctor chatting on the ward
Tom Werner//Getty Images

<コスモポリタン イギリス版>の取材に対し、GMCのメディカル・ディレクターで教育や基準に関するディレクターでもあるコリン・メルヴィル教授は以下のようにコメントしています。

「医療現場で性被害に遭ったサバイバーたちの報告を聞くことは、痛ましく、衝撃的であり、我々はすべてのそのような行動を強く非難します。医療の世界では、女性蔑視、性差別、いかなるかたちのセクシャルハラスメントも、あってはなりません」
「だからこそ、現在の医師のガイダンスのための評議会では、セクシャルハラスメントに対する断固とした措置に着手しているところで、そこには医師に求められる二つの明確な義務が含まれています。それは、いかなるかたちの虐待や性差別も容認されないし、もしハラスメントやいじめ、差別を目撃した場合は、被害者に手を差し伸べることを要求する、というものです」
「我々の提案は、いくつもの女性団体や他の専門家たちによる最近の報告から証言を得ています。実際にセクシュアルハラスメントを経験したことがある人は、評議会に参加し、その洞察を語ってください」

※この翻訳は、抄訳です。
Translation:mayuko akimoto
COSMOPOLITAN UK