モデルやタレントとして活動する傍ら、オーストラリアで弁護士資格を取得した早坂シャーニィーさん。大学生のときにDVを受けた経験を経て、将来は「DV被害で苦しむ人の助けになれたら」と話します。
現在は日本の法律事務所でパラリーガルとして働き、日本の法律を勉強しながら芸能活動も両立させるシャーニィーさん。弁護士を目指したきっかけや、多様な選択肢のあるキャリアで実現していきたい展望を伺います。
※記事内には暴力的なシーンに関する記述が含まれています。
早坂シャー二ィー(モデル/弁護士)
声が届きにくい人たちの“盾”に...
ーー 弁護士を目指したきっかけを教えてください。
高校生のときに倫理を学ぶ授業があって、その授業ではトロッコ問題といった倫理観を問う質問に対して、グループにわかれてディベートしたりしました。
それぞれの考え方や理由づけも違っていて、答えがないからこその難しさもあって、学ぶのがすごく楽しかったんです。そこから「何をもって“正しい”と判断するのか」ということに興味をもったのが最初のきっかけです。
より具体的に「弁護士になりたい」という気持ちが生まれたのは、妹の存在が大きいです。わたしは自分を守るために声を上げることが苦手だったので、いつも声を上げてわたしを庇ってくれた妹は、とてもかっこいい存在でした。
たとえば子どものころ、ショッピングモールで知らない男性にスカートの中を盗撮されたことがあったんです。わたしは怖くて固まってしまいましたが、妹は走ってその男性の腕を掴んで「今すぐに写真を消して」と言ってくれて。男性は怖気づき、その場で写真を消しました。
そこから声が上げられない人や、声を上げても聞いてもらえない人の助けになれたらと思い、弁護士を目指すために大学へ進学しました。
ーー 芸能活動と勉強の両立はどのように?
芸能活動を本格的にはじめたのと同じ時期に大学にも通うようになりました。オーストラリアの大学では、授業を録画して自分のタイミングで勉強することができたので、乗り越えることができたと思います。
ただクラスのみんなが楽しそうに授業を受けている様子を見ながら1人で勉強していたので、少し寂しかったです。
ーー 法律を勉強する中でも、女性の権利やマイノリティに関連する分野を専門したいと思った理由は?
大学一年生のころ、当時付き合っていた交際相手からDV被害を受けていました。最初は私がオーストラリアにいて彼は日本にいて遠距離恋愛をしていたのですが、芸能活動もあって日本で一緒に暮らすようになってから被害が強まるように。
言葉の暴力や束縛のような関係性は最初からあったのですが、一緒に生活するようになってからは肉体的な暴力も受けるようになりました。
今では信じられませんが、当時は友達から何を言われても、「わたしが怒らせたから」「わたしがこんなことを言ってしまったから」と彼を庇っていたんですよね。はじめて東京に引っ越したときは家族も友達も周りにいなくて、「彼しかいない」と心の拠り所にしていたことが大きかったのかもしれません。
それを乗り越えながら、私がしたような思いを他の人にもしてほしくない。また、辛い思いをしている人がいたら助けになりたいと思い、DVに関連する法律を専門にすることにしました。
ーー 実際にDVに関する法律を学んで感じたことは?
今の法律は、被害者を守る内容が少なくて、DV被害があったと認められにくいんです。たとえば日本の法律では、“客観的な証拠”が必要とされているので、被害を受けている写真や動画などのデータが求められます。しかし被害に遭っているときにその様子を撮影したり、証拠を残すことはとても危険で現実的に難しくて...。
アザや傷が残っていても、「何が原因かわからない」と判断されて、DVの証拠としては不十分と扱われてしまう。訴えるにしても、警察や病院には行ったのかという記録がないといけなかったり、被害を掘り返して証拠を集めなければいけないので、被害者にとってとても辛い現状が待ち受けていると感じます。
ーー それらの経験を通して、今同じく辛い状況にいるかもしれない人に伝えたいことは?
DVは身体的な暴力だけでなく、精神的、経済的、子どもに対する暴力など、さまざまな被害があるということ。たとえ目に見える傷がなかったとしても、あらゆる形で相手を傷つけるものだともっと知られてほしいなと思います。
もうひとつは、DVを受けた自分を責めないでほしいということ。わたしも「自分がこうすればよかった」「大学で法律を学んでいたのにも関わらず、この人を選んだ自分が悪い」と自分を責めていました。
どんな形であっても、暴力は人の尊厳を傷つける行為。無理やり相手を従わせる構造をつくり出しているので、DVを受けている自分を責めないであげてほしいです。
心の支えは“ばあちゃん”や詩
ーー DVを受けていたときの自分の気持ちをまとめて、本を出版する予定なんですよね。書籍のインスピレーションや内容について教えてください。
DVを受けてたとき、自分の感情を整理するために日記を書いたり、気持ちを書き出してジャーナリングしてまとめていました。詩を書いていたりもしていたので、その当時のものが一冊の本になります。
今振り返って時系列に並べると、どん底の暗いところからだんだん明るさを取り戻す流れが、ストーリーのように感じ取れます。もともと本にするために書いていたわけでないのですが、イギリスの出版社から英語版としてでることになりました。
実はもう一冊だすことになっていて。それは仙台にいるばあちゃん(シャーニィーさんの祖母。日ごろから“ばあちゃん”と呼んでいるそう)がインスピレーションの本です。
わたしのばあちゃんは戦争や東北大震災を経験していたり、おじいちゃんがガンで亡くなったり、はたから見ていると悲しい出来事をたくさん経験したのにも関わらず、すごく明るいんです。でもそれが明るいだけじゃなくて、感情を素直にだしていて。
わたしにはもっていない魅力で、すごくかっこいい。そんなばあちゃんの考え方や人生の助言を書いています。
ーー 詩を書くことは、乗り越えるために自身にとって大事なことだったのでしょうか?
書いているときの気持ちは、暗くて自分に自信のない感じでいっぱいでした。でも多分、自分でも何がなんだかわからなかった感情を分かろうとしていたのかな。
今振り返ると、あのとき日記をつけたりしてがんばってよかったなと思います。もし誰かがこれを手に取ったとき、その人はもしかしたらまだ辛さの“はじまり”にいるかもしれないけど、いつかは終わりに向かっていけるからって思ってもらえたらうれしいです。
連帯することが社会を変えるきっかけに
ーー 3月8日の「国際女性デー」に開催された、ウィメンズマーチに参加していましたね。これは、どのような思いであの場に?
“仲間”を探したくて、今年は友人を誘って東京の街をマーチしました。同じような考えを持っている人と会ったり、話してみたかったんです。
マーチの参加ははじめてで、「本当に誰かいるのかな」「ちょっと恥ずかしいかもしれない」と行く前までは緊張していました。でもその場に集まったたくさんの人を見て、パワーをもらいました。
ーー 日頃から、友人と社会に対してのことはよく話しますか?
今周りにいる友人とは、普段からしますね。そういった会話ができないと、深い関係になれない気がします。自分とあまりに違う価値観をもっているとしたら、正直「仲良くなれないな」と思ってしまうかもしれません...。そうすると話すこともなくなってしまいます。
知らないだけなら、「教えたい」という気持ちもあるのですが、自分で気づかないと学びにならないので、自然と距離をとるようになってしまいます。
ーー シャーニィーさんのTikTokでは、パートナーとの日常や仙台で暮らすおばあちゃんもよく登場していますね。コミュニケーションを大切にする印象があるシャーニィーさんですが、家族とはどのように関係性を築いていますか?
家族とは昔からオープンで、なんでも話し合える関係です。家族のグループLINEで常にやり取りしていて、お母さんとは毎日電話してるんじゃないかな。電話を切る前は必ず「I love you」と伝え合っていますね。
最近は、町中にあるハート型のものを見つけたら、写真に撮ってシェアするのが家族のなかでのブームです。
TikTokに投稿する動画のほとんどは、「ばあちゃんがおにぎりを作っているから撮ってみよう~! 」みたいにして、日常を映しているのがほとんど。
もともとオーストラリアに住んでいる家族におばあちゃんの姿を届けようとはじめてみたのがきっかけではじまったのですが、ばあちゃんの動画を撮っているうちにおもしろくなって、TikTokにものせています。
ーー 最後に、これからどのような活動を日本でしていきたいですか?
法律の勉強と、芸能の仕事をどちらも続けていきたいです。演技の世界にも興味があります。
今は法律事務所でパラリーガルをしながら、日本の法律を学んでいるところ。離婚や財産に関する仕事がメインなのですが、いつかはDVの被害を専門とした仕事をすることが目標です。
今の法律では、被害者が自分にされたことを証明しなければならないという、アンフェアな状況です。被害者が「されたこと」を証明するのではなく、私は加害者が「やっていない」と証明する責任をもつべきだと思っていて。DVの被害を証明するのに苦しい思いをして、我慢している人は多くいます。
SNSで発信をすると、叩かれることもあればフォロワーも減ることもあります。たしかに発信しにくいというのもわかるのですが、SNSをうまく使って、少しでもいろんな人の視野を広げることができたら、と思って発信しています。
DVひとつをとっても、被害の辛さに“大小”はありません。ただ、数は影響力になると思っています。みんなが声を上げていくことで、この社会が変わるきっかけになるはず。
衣装協力:Top of the Hill
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Photo_Cedric Diradourian / Styling_Shingo Mochino / Hair&Make Up_Miyu Shimizu / Model_Sharnie Hayasaka / Text_Nana Suzuki
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