体重と身長から肥満度を算出する「BMI値」だけでは健康状態を判断することは難しいと言われる一方で、欧米では医療現場における「体重バイアス」が議論の的になることも。

エディターとして活動し、ボディポジティブを提唱するZINE『The Fat Zine』の共同創刊者でもあるジーナ・トニックさん(イギリス在住)は、大学生のときに経験したピルの処方をめぐり、体重バイアスによる弊害を受けたことを告白した一人。

本記事では、ジーナさん自身が当時の体験について綴った寄稿文を<コスモポリタン イギリス版>からお届けします。

語り:ジーナ・トニックさん

医師からの「痩せなさい」という言葉

大学時代の私は、身長約152センチ、体重約95キロ、BMI(ボディマス指数)は33.89でした。

GP(日本でいう総合診療医やかかりつけ医にあたるイギリスの医師)にアポを入れたのは、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)による多毛・生理不順・体重増加などの症状があったから。症状を主治医に伝え、「体重増加や生理不順、ヒゲの発毛を抑えるために、ヤスミンという低用量ピルを定期的に処方してほしいのですが…」と頼みました。

すると主治医は、奇妙な返答をしてきたんです。

「そもそも、ピルは体重増加につながる薬じゃないです。多くの女性たちが誤解しているんですよね。ピルは単に食欲を増進させるだけ」

この反応に、2つ理由から私は憤りました。

そもそも、私の発言と医師の返答が噛み合っていないこと。私は医師に「体重増加を抑制するためにピルの処方をしてほしい」と伝えていました。これは、これまでに服用していた経験によるもので、私の体質ではピルによる体重増加はありませんでしたから。 私の話をちゃんと聞いてくれていたのかなと不信感を覚えました。

2つ目は「(私を含む)女性たちは、避妊に対する知識が欠落している」と決めつけ、どこか見下している言い方だったこと。主治医が私の声に耳を傾けなかったのは、私の外見から、彼が心の中で「この患者にはピルを処方するべきではない」と決めていたからでしょう。

ヤスミンは、プラスサイズの患者の血栓リスクを高めるだけでなく、他にも副作用があると言われています。そしてその主治医は、多嚢胞性卵巣症候群の症状を緩和する“唯一の選択肢”として、「痩せなさい」と私に告げたのです――。

BMIと健康状態の関連性

私は摂食障害の患者であり、病気の症状によって痩せにくいという困難な状況で生活しています。それにも関わらず、主治医から突き放すかのように「痩せなさい」と言われたことで、その日は家に帰って泣き崩れました。

減量をするために精神的に苦しむのか、自分の体重増加を受け入れてピルなしで生活するのか、どちらかしか選択肢がないと突きつけられたのです。

統計によるとイギリス在住の女性の60%が「体重過多または肥満である」とされ、内29%が「肥満」と分類されています。また、統計ではBMIと健康度が自動的に結びつけられていますが、昨今ではBMIと健康状態の関連性については疑問符がついてきています。

体重バイアス
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ある研究によると、BMIが正常値の人のほぼ3分の1が実際には代謝(メタボ)の観点から不健康であることが判明し、別の研究では「肥満(BMI 30-34.9)」とされた人の約3分の1が代謝的には健康であることが判明しました。これは、医療における体重バイアスが患者の治療に有害であるだけでなく、「体重過多=自動的に不健康であるとみなす」という前提に基づいていることを示しています。

また、このような偏見が定着すると、プラスサイズの患者への誤った対処だけでなく、誤診につながることも少なくありません。

コネチカット・カレッジの心理学教授であるジョーン・クリスラー博士は、『Weapons of Mass Distraction - Contronting Sizeism(大量破壊兵器― サイズ差別をコントロールすること/原題訳)』と題したプレゼンテーションの中で、こう説明しています。

「一部の医療現場では肥満患者には検査をする以前に減量を勧め、平均的な体重の患者にはCATスキャンや血液検査、理学療法を勧めていることが研究で明らかになっています。体重バイアスによって結論を急ぎすぎたり、適切な検査を行わない場合、誤診につながる可能性があります」

クリスラー博士によると、この状況を証明しているのが「検死報告書」なんだそう。

「300以上の検死報告書を調査したある研究によると、肥満患者はそうでない人と比較し、未診断の疾患(心内膜炎、虚血性腸炎、肺ガンなど)を抱えている可能性が1.65倍あるとのこと。これは誤診だけでなく、(肥満患者が適切な)治療へ十分にアクセスできていないことを示唆しています」

こうしたプラスサイズの患者の訴えや症状が見過ごされているケースが多いことは、私自身の経験からも明らかです。

実際に前述の医師からもピルを処方してもらえなかっただけでなく、10代の頃、多嚢胞性卵巣症候群と診断される前にも、なかなか検査を受けさせてもらえなかったのです。

体重過多を“自己責任”と片付けられる場合も…

その頃の私は今よりずっと痩せていましたが(とはいえBMIは27.11だったのでやや肥満気味)、「痩せることが症状を緩和するベストの方法」と医師に言われました。

私は痩せるために1日300キロカロリーしか摂取しないような生活を続け、心身ともにひどい状況に陥ってしまったのです。この経験から、医師が「症状を解決する唯一の方法」として減量のみを提示するのは間違いだと学びました。

“反・体重バイアス”を提唱しているジョシュア・ウールリッチ医師は、「イギリスの医療自体が体重を健康指標として重要視したものなっている」と、解説。

「かかりつけ医は、診察のたびに必ず問診すべき点が決まっており、その中の1つが体重です。イギリスの国民健康サービス(NHS)の方針として決まっていることに関しては、個人ごとの状況に合わせることなく、機械的に進められてしまいがちです。こうしたことが丁寧な診察や症状の理解を阻んでしまうことにもなりかねません」

また、体重過多を偏見の対象にする問題点について、「体重過多を自己責任として処理し、2型糖尿病などの生活習慣病を“本人のせい”として片づけてしまうこともある」と、ウールリッチ医師は指摘。

「生活を改善することで、多くの病気のリスクを減らすことができることは確かです。一方で、体重と体重に関連する病気についての議論は、『健康管理ができない本人が悪い』と個人を非難することにつながっています」

「肥満=害とする体重への偏見を押しつけることは、心だけではなく体へも悪影響を与えます。このことは多くの研究からも明らかです。医師は思いやりをもって患者個人の話を聞き、助けたいという態度を示すべき。患者が病院に行っても『話を聞いてもらえない』と感じるようであれば、それは医療者・医療機関としてのあるべき姿ではありません」

誤診や不当な扱いで苦しむ人がいるのが現状

コールセンターに勤務するロイシンさんも、過剰運動症候群および線維筋痛症と診断される前、体重過多だったために正しい診断を受けられなかった一人。

「私は10代の頃から捻挫や慢性的な疲労感に悩まされ、ずっと病院に通っていました。10年以上症状に悩まされていましたが、『痩せれば動きやすくなるはず。痩せなさい』と医師に言われつづけてきました」
「私の病気は遺伝性疾患だったにも関わらず、主治医が『太っているから活動的になれない』『うつっぽい、ただの怠け者』と判断したために、正しい診断につながらなかったのです。痛みや過剰運動症候群による怪我は何度も見過ごされました。もし私が痩せていたら、もっと早く診断がついていたと思います」

また、バーレスク・パフォーマーであるシンディさんは、診断が遅れただけでなく治療を何度も拒否され、長い間苦しんできたと言います。彼女は、自閉症、エーラス・ダンロス症候群、線維筋痛症、習慣性脱臼などの疾患を持つだけでなく、私と同じように多嚢胞性卵巣症候群に苦しんでいます。

彼女の場合は、超音波検査では診断できるほどの結果が得られなかったため、抗酸菌検査が必要でした。

「それなのに医師は、検査を嫌がったのです。理由は抗酸菌検査用のツールが診察室になかったから。 用意するのが面倒だったのでしょう。本来ならもっと早く病名が分かったはずですし、症状の悪化や合併症を防ぐこともできたはずです」

こうした話をSNSで発信しているのは、肥満症専門の看護師のトニ・ジェンキンスさん。彼女は私のメール取材に応じ、このように話してくれました。

「とある患者さんは、『痩せるまでは抗酸菌検査の再検査はしない』と言われていました。肥満の人の子宮頸部を検査するのは、看護師にとって難しいからです」

体重バイアスをなくすために

もちろん、イギリスのすべての医療現場がこのような体重バイアスを抱えているわけではありません。

それでも、一部の医療現場で誤診されたり、不当な扱いを受けたり、話をきちんと聞いてもらえないなどの経験をすることで、「また同じようなことが起こるかもしれない」という恐怖と困惑のサイクルに陥ってしまうのです。

こういった診療は公平なものではなく、れっきとした“体型差別”と言えます。「人は差別を受けることでストレスを感じ、これらが代謝系疾患に直結することもわかっています」と、ウールリッチ医師も解説しています。

肥満に対する偏見は、社会問題なのではないでしょうか。ぴったりの服を見つけられない、飛行機でシートベルトアダプターが必要だったりする――といったことよりもずっと根深い問題です。

誤解や誤診、そして間違った方法で処置されるなど、プラスサイズの人々に対する医療差別は個人を苦しめ、時には命にかかわることもあるのです。

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診察を受けても何も利点がなく、そればかりか絶望的な気分にさいなまれる―― そんな経験をプラスサイズの人たちはたくさんしていますが、より公平な医療を受けるためのヒントをジョルジーナ・グローガンさんがブログで公開しています。

これは、診察を受ける際、「体重についてできるだけ話したくない」気持ちをいかに医師や看護師に伝えることができるかのテクニックをまとめたもの。

私は彼女の意見に100%同意します。実際に私の経験だけでも、プラスサイズの人へのバイアスと否定的な意見を押し付ける医師は多く、適切な治療を受けるためには闘うしかありませんでした。しかし本来なら闘う必要などないはずないはず。この点が最大の問題なのです。

male doctor writes notes on the clipboard in medical clinic
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4人の女性が語る「診断の際の心得」

ここからは、4人の女性に「診断の際の対処法」について語ってもらいました。

ハンナさん(28歳)/15歳のとき、 慢性疲労症候群と診断される

できるだけ粘り強く、率直な気持ちで臨みましょう。勇気がいることですが、自分の体のことは誰よりも自分がよく知っています。体に痛みや症状がある場合、それがすべて体重に関係していると思いこむのはやめるべきです。

症状が日常生活にどう影響しているのかを明確に理解することが大切。医療現場で体型差別を経験した場合、病院や医療サービスにクレームを言い、セカンドオピニオンを求める権利があります。

誰もが尊厳と共感を持って対処されるべきであり、診察室や病院というどこか恐怖を感じる環境の中ではなおさら大切に扱われるべきなのです。

シャーロットさん(26歳)/うつ病、不安感、ADHD(注意欠如・多動症)、および慢性的な喘息に苦しんでいる

診察を受ける前に、症状や疑われる病気についてできる限り調べてください。症状についての見解をしっかり示すことが、自分自身への“援護射撃”となるから。

「ちょっとやりすぎなのでは?」と思うかもしれませんが、体重バイアスと闘うためには武器が必要なのです。すべてを体重のせいにされないためにも、自身の症状について具体的な証拠や見解を用意しておきましょう。

ローナさん(38歳)/ステージ4の子宮内膜症を患っている

私が考え出した最善の方法は、「医学的な理由(たとえば麻酔量を測るため)で体重を測る必要があることは理解していますが、私に何キロだったのかを知らせないでください」と言いつづけること。

私が摂食障害患者であること、そして体重に関することは何も話したくないと医療側にもしっかり認識してもらうのが大切なのです。そして「私の意見を尊重してください」伝えます。これまでのところ、この方法はとても効果的でした。

ティアさん(22歳)/鎌状赤血球症

強気で交渉してみてください。医師が治療を延期するために、いわゆる健康な人や健康体重の人と比較しようとするかもしれません。そういった意見は無視していいのです。あなたの体重について何か否定的な意見を言った場合も、惑わされずに無視しましょう。

そして、彼らの意見に傷ついていることを悟られないようにするのが大切です。医師だって誤診する可能性があるのですから。あなたが感じている症状や違和感をストレートに伝えてください。

    この翻訳は、抄訳です。

    Translation: 宮田華子

    COSMOPOLITAN UK