“FOMO※”という感情は、長年にわたってファッショントレンドを牽引してきました。たとえば限定商品のドロップや、100人しか招待されないショー、気が遠くなるほど長いウェイトリストのItバッグなど、希少性をもたせることで人々の欲求を掻き立てる手法などがあります。
そしてバカンスシーズンが本格化した今、私たちは完全に“隣の芝生は青く見える”状態へ突入。エアコンなしでは生きられないこのシーズンにおいて、気持ちだけでも遠い国へ旅するため、アメリカ国内ではバカンス風の洋服を身につける人が増えているよう。
この記事では、最新トレンド「ヨーロッパコア」について考察します。
※“Fear Of Missing Out”の略で、取り残されてしまうことへの恐れという意味
ヨーロッパ風を求めて…
コロナ禍以前から、往時の魅力をもつリゾートウェアの魅力は揺るぎないものでした。しかし現在、旅は物価の高騰によって贅沢品となり、完璧なセットアップを着てInstagramで自慢するものへと変化しつつあります。それにともなって、多くのインフルエンサーがヨーロッパ大陸の洗練された雰囲気を求めて、独自のグランドツアーへ出掛けているのです。
“ヨーロッパコア”とは、TikTokが生み出した、私たちを付きまとう数多くの「#コア」のひとつ。“クワイエット・ラグジュアリー(静かなラグジュアリー)”や“コースタル・グランドマザー(海岸沿いに住むおばあちゃん)”ほどではないものの、一種の羨望の感情を抱かせるトレンドです。
アメリカの小売業大手「ターゲット」が「海外旅行をイメージさせる服装」と題して、スリップドレスやストラップサンダルなどのアイテムを紹介するほど、大きな存在になっています。
これまで、フレンチガールやデンマークのストリートスタイルに憧れてきた私たちは、いまやその想いをヨーロッパ大陸全体にまで膨らませています。
“ヨーロッパコア”とは
とはいえ、見た目という点において、ヨーロッパコアの定義は明確ではありません。サッカージャージを着たキム・カーダシアンかもしれないし、南仏を楽しむソフィア・リッチーを指しているかもしれません。
よりヴィンテージ感があるものでは、ここ数年で熱狂的なファンを増やした映画『太陽が知っている(1969)』の舞台となったコート・ダジュールのプールサイドでくつろぐロミー・シュナイダーやジェーン・バーキン、南フランスで日光浴をする『泥棒成金(1955)』のグレース・ケリーなどを思い浮かべる人もいるはず。
あるいは『ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾート』のなかで、オードリー・ヘプバーンやモニカ・ヴィッティにインスパイアされた50年代風のオーブリー・プラザのルックや、ジェニファー・クーリッジがモニカ・ヴィッティのように頭にスカーフを巻いているルックが当てはまるかもしれません。
ヨーロッパコアは、エリック・ロメール監督の『クレールの膝(1970)』のように、ゆったりとしていながらも視覚的に美しい映画に見られる“ロメールコア”の世界観に存在しています。そしてこれは、日常が忙しくて余暇を待ち望む人々にとってたまらないものだと言えそう。
“ヨーロッパコア”を取り入れるために
さらに、他の「#コア」トレンドと比較すると、ヨーロッパコアはより取り入れやすい存在。曖昧でミニマルなトレンドなので、自分のクローゼットやリサイクルショップで事足りるかもしれません。
そして、ヨーロッパコアを取り入れるためにヨーロッパに行く必要はありません。コットンやリネンのクラシックなワードローブを手に入れれば、簡単に再現できるはず。
ファッショントレンドが、地政学的な現実を反映していると誰もが思っているわけではありませんが、ヨーロッパコアはアメリカ人のヨーロッパ大陸に対するイメージを表しています。
ヨーロッパコアで参考にされている場所は、たとえば内陸部の工場地帯よりも、5つ星のホテルが建ち並ぶ高級リゾート地のほうが多いです。ただ現実では、このように称賛されるライフスタイルは、アッパーミドルクラス以上の人たちだけが享受できるもの。これは、アメリカを訪れた人が、アメリカ人はみな高級住宅地のハンプトンズに住んでいる、と思うようなものかもしれません。
そんななかでも、ファッションでバカンス気分を演出することが楽しみの一つとなるなら、是非このトレンドを取り入れてみて。