出生時に割り当てられた性が「女性」であるものの、「男性」として生きることを望むトランスジェンダーの「FTM(Female to Male)」。

今回は、そんなFTMコミュニティのオピニオンリーダーであるZ~ミレニアル世代の3人が語る「私のストーリー」を中心に、カミングアウトの必要性、性別適合手術の事情や課題、理想の家族の在り方について伺いました。


【INDEX】


参加者プロフィール

■Masaki

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Masaki
FTM美容師として、LGBTQ+フレンドリーなサロンを目指すMasakiさん。

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■Ui

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Ui
作品や言葉を通して、国籍や年齢、性別を超えて希望を届ける「HOPE WORLD」創業者代表のUiさん。

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■Haru

 
Haru
サロンモデルの活動やカフェを経営するHaruさん。

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自分のジェンダーを自覚したきっかけはありましたか?

Masaki「幼い頃からスカートを履くのが嫌で、制服にも抵抗があったり、女性であることから野球部に入れなかったことにモヤモヤしたり、『可愛い』よりも『かっこいい』と言われたほうが嬉しかったり…ずっと違和感は感じていたんです。

『このまま女性として生きていきたくない』と強く思ったきっかけは生理で、色々と調べていくなかで、中学3年生のときに『トランスジェンダー』という言葉と出会いました」

Ui「今思うと、保育園にいたときから女性の先生が好きでした。確信に変わったのは、中学生になって男性と交際したときです。自分のなかですごく違和感があり、すぐ別れることに。結局、『好き』という気持ちは恋愛感情ではなく、友情だったことに気づきました。

その後に女性と付き合う機会があり、『自分が思い描いていた好きという感情は、まさにこれだ!』としっくりきて、安心したんです。Masakiさんと同様に、中学生のときに自分で調べて、『トランスジェンダー』『性同一性障害』という言葉と出会い、自覚しました」

Haru「僕は中学3年生のときに彼女ができたのがきっかけです。Uiさんと同じで、男性と付き合っていたときと比べると、『好き』という感情を強く実感したんです。

『彼女にかっこいいと思われたい』という気持ちが芽生えたと同時に、自分の体に嫌悪感を抱くようになり、調べてみたら、トランスジェンダーに当てはまりました」

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カミングアウトの必要性についてどう思いますか?

Masaki「カミングアウトは絶対ではないし、個人の判断に委ねられると思います。僕もつい最近までは、男性として暮らしたいという想いが強くて、自ら積極的にカミングアウトをしてきませんでした。

初めてのカミングアウトは、手紙で母に伝えた高校2年生のとき。母の身近な人にもFTM当事者がいて、『なんとなくそうだと思っていた』『これから色々と話していきたい』という返事が来たのを覚えています。そこからは家族会議になりましたね。

高校を卒業したら男性として生きていくと決心し、鍼灸の学校に入学。先生や同級生には、『トランスジェンダーであり、男性として扱ってほしい』と告白しました。

しかし、後にホルモン注射や乳房切除術を受けて、見た目や声はすっかり“男性”らしく変化。卒業後、新しく出会う人にカミングアウトをする必要は、もはやなくなっていたんです。

再びカミングアウトをするにようになったのは最近で、美容師としてLGBTQ+当事者が来やすいサロンを目指すコミュニティに入ってからのことでした。『トランスジェンダーであることも含めて自分なんだ』と思えるようになり、自ら声をあげることが、誰かの役に立てるかもしれないと思い、積極的にオープンになったんです」

Haru「僕はカミングアウトをして良かったと思っています。後から気づかれて気を使われるよりも、自分の意思を先に伝えておきたかったんですよね。特に家族とは何度も会話を重ねて、性別適合手術をしたいことも伝えました。今では息子として受け入れられてます。

友人にも勇気を出して伝えると、『やっぱりな。でもHaruはHaruだから』と受け入れてくれたのが印象的でした」

Ui「カミングアウトはもちろん個人の自由です。ただ、たとえしたいと思っていたとしても、行動に移せるかどうかは周りの環境によって大きく左右してくる気がします。

自分は高校卒業後にアメリカへサッカー留学をして、ジェンダー・アイデンティティにオープンな人たちとたくさん出会いました。十人十色という考え方が浸透している空間だと、やはりカミングアウトはしやすいですね。

ちなみに、自分は20歳になって姉、母、父の順にカミングアウトをしました。今ではして良かったと思えることばかりです」

Masaki「環境作りって大切ですよね。LGBTQ+への知識があまりない人たちからしたら、もしかしたら僕は『トランスジェンダーの人』と一言で括られてしまうかもしれない。でも実際は一人の人間なので、もっと自分の人間性や活動をオープンに見せることで、『こういう人もいるんだ』と知ってもらえたら嬉しいです」

これまで治療の経験はありますか?課題はありますか?

Masaki「『生理を止めたい』『声や外見を変えたい』と思い、20歳くらいのときにホルモン注射を受け始めて、8年くらい投与し続けています。特に声による性別の判断はすごく大きいので、やっとなりたかった自分に近づけた気分でした。

その後、社会人になって迎えた初めての夏に、乳房切除術を受けました。日本で受けたのですが、医療費の自費負担はかなり高かったですね…。2018年から性別適合手術や乳房切除などの手術療法に対する健康保険の適用が開始したのですが、その条件は少し複雑なんです」

Haru「僕は去年の春にホルモン注射を始めて、同年の夏に乳房切除術を受けました。Masakiさんが言っていたように、ホルモン療法をしている場合は、乳房切除術への健康保険の適用は効かないということを後から知ったので、医療費はすべて自己負担。なりたい自分になるためには、ほかの人よりも高額なお金がかかるんです。

手術の身体的な副作用は多少なりともありますが、筋肉がつきやすくなったり、海で上半身裸になれるようになったり、ポジティブな面は多いです」

Ui「近々ホルモン注射などの治療を始める予定で、今は自分で調べたり、経験者に話を聞いたりしているところです。ただ、正直なところ、まだ事例が少なくて歴史が浅いのもあり、治療による副作用が少し不安です。

また、戸籍を変更するには子宮などを摘出する性別適合手術をする必要があるのですが、そこまでするべきなのか、色々と葛藤があるのが本音です」

自分の中にジェンダーバイアスがあると感じたことはありますか?

Haru「外見に関しては、自分の中にあるかっこいい男性像に寄せてしまっている部分はあります。とはいえ、自分の中身はある意味、中性的でいいのかなと思っていて。性別に固執しない一人の人間でありたいと思っています」

Ui「男性らしくありたいと思う部分もある一方で、女性として生まれた意味についても考えるようになりました。そこに特別な価値があると思うので、どちらの要素も兼ね備えた人でありたいです」

Masaki「Uiさんが言っていたように、日本はまだまだ“男らしさ”や“女らしさ”の固定概念が根付いていますし、僕も影響を受けていることは否めません。

とはいえ、自分の周りを見てみると、『男性だから』『女性だから』と性に固執している人は全然いなくて、むしろ捉われているのは自分なのではないかと気づいたんです。最近は、もっとそういうのを取っ払った、超越した人間になりたいと思うようになりました。

たとえば、メイクをしたい男性も、したくない女性もいるじゃないですか。一個人として追求したいことが、もっと多様化してもいいのかなと思うんです」

日本で婚姻関係を結ぶためには、性別適合手術を受け、戸籍上の性別を変える必要がありますが、それについてどう思いますか?

Haru「結婚が幸せの象徴ととらえている人も多いと思いますが、戸籍を変えなければ婚姻関係を結べない僕たちの存在をもっと知ってほしいし、不平等な条件は緩和されるべきだと思います。今のパートナーとはいずれ家族を作りたいと思っているので、将来のことを話し合うようになりました」

Ui「自分も家族を作ることに憧れはあります。ただ、もし同性婚が法的に認められるのであれば、戸籍を男性に変えることはないと思います。先ほども伝えた通り、女性として生まれたことに特別な意味があると思っているので、海外でFTMの方が出産した事例があるように、自分も子どもを産むことができるのであれば、すごく素敵なことだと思います」

Masaki「今のところは男性として認知されているので、日常的に生き辛さを感じることは少ないです。なので、FTMだからといって必ずしも戸籍を変える必要はないかもしれないと思うようになりました。

僕にとっては大切な人と一緒にいる空間が『家庭』ですし、今のパートナーも事実婚には肯定的です。そもそも、『婚姻関係を結んでいないと配偶者ではない』というルールが変わったらいいのではないかと思います」