自分のジェンダーやセクシャリティを周囲に伝える「カミングアウト」。その有無は自由で、どちらも同じくらい尊重されるべき選択です。

周囲に伝えるという選択をしたLGBTQ+当事者のなかには、自分らしさを解放する手段として捉える人や、「誰かの既存の考えを見つめ直すきっかけにしたい」と思う人など、カミングアウトの理由は多岐にわたります。

そこで今回は、感度の高いZからミレニアル世代のLGBTQ+コミュニティの4名が語る「私のストーリー」を中心に、自分のジェンダーやセクシャリティを自覚したきっかけ、カミングアウトの必要性、印象的だった周囲の反応や、理想的な家族のカタチ、今後の目標などを伺いました。


参加者プロフィール

■Mimi

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mimi
都内で会社員として働く傍ら、クリエイティビティという縛りのない世界で、個性を活かすメイクを得意とするMimiさん。パンセクシャル当事者として、LGBTQ+をより多くの方に認識してもらえるような活動を目標に掲げています。

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■Edo

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世の中の当たり前に“違和感”を問いかける『IWAKAN』の編集部員であり、ジェンダーニュートラルな下着ブランドを出しているクリエイティブスタジオ「REING」のクリエイティブディレクターを務めています。その傍ら、フォトグラファーや、ドラァグクイーンとしてパフォーマンスをする一面も持つノンバイナリーのEdoさん。

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■Mayu

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代官山の美容院「OOOYY((オーオ シカシカ)」で働いているFtM(トランス男性)で、LGBTQ+当事者たちが安心して利用できる空間作りを心がけているMayuさん。

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■Asahi

 
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俳優やモデル活動をしている学生のAsahiさん。SNSには、趣味のイラストや、エッセイなどを投稿。性自認はクエスチョニングで、パートナーと一緒にラジオ番組も配信しています。

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自分のジェンダー、セクシャリティを自覚したきっかけはありましたか?

Edo「あらゆる場面で、周囲の反応から“違い”を自覚したという感じですね。たとえば、マクドナルドのハッピーセットのおもちゃは“女の子”用の物が欲しかったし、ファッションもズボンではなくてスカートを履きたかったけれど、それを口にすると“普通”じゃない反応をされてしまうんです。

男の子が好きだと気づいたのは、13~14歳の頃。きっかけは、当時大きな話題となった、歌手のアダム・ランバートが同性とキスをしていたというニュースでした。そのとき、『自分も男の子とキスをしてみたいかも…』と思ったのを覚えています」

Mimi「母の影響で小学生の頃から、主にアメリカ映画やドラマを見ることが多く、そのときにセクシャリティやジェンダーの違いを知りました。『もしかしたら自分も性的マイノリティに当てはまるのではないか』と頭をよぎったのですが、当時はそれを深堀りできるほどの情報量がなく、モヤモヤしていたんです。

それが確信に変わったのは、アメリカに留学をした高校生のときでした。直接的にLGBTQ+の当事者と関わる機会があり、話も合うし共感することも多くて、多様性にあふれるコミュニティに居心地の良さを感じたんです。留学を通して、自分が当事者であることを自覚しました」

Asahi「小学校4年生の頃に習い事で通っていたダンス教室で、年上の女の子を好きになったことがきっかけです。当時は、LGBTQ+などの呼称もまったく知らなかったですし、『好き』という純粋な気持ちで、よく周りの友達にも恋愛相談をしていました。

セクシャリティやジェンダーの種類と定義を知ったのは、中学生のときに観た、LGBTQ+の登場人物が出てくるブロードウェイ・ミュージカル『レント(RENT)』でした。とにかく登場人物たちに共感し、どこにカテゴライズされるのかということは差し置いて、きっと自分もこのコミュニティの当事者なんだと気づいたんです。

そこからは、自分の性表現(見た目や言動などで表す性)も大きく変わった気がします。性別に縛られることが嫌になり、自己表現としてある日ばっさりとショートカットにしたんです」

Mayu「僕は幼稚園からサッカーを習っていて、小学校の高学年になるまではみんなで遊んでいました。しかし徐々に、お昼休みの時間になると男子は外でスポーツ、女子は教室でお喋りをするという空気に変わり、女の子たちの会話についていけなくなってから、『ちょっと違うのかな?』という気持ちが芽生えました。

このモヤモヤに納得がついたのは、中学生の頃に再放送で観た『3年B組金八先生』で性同一性障害という言葉と定義を知ったとき。自分はまさにこれだと自覚したんです」

Edo自分のセクシャリティやジェンダーは“普通”だと思って生きていても、ある時期から社会によって特別なのだと自覚させられるんですよね。僕の場合は、小学生の頃に『オカマ』と言われたことがあり、その言葉を後から自分で調べて、自分が周りと“違う”と思ったことがあります」

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edo

自分のジェンダーやセクシャリティを模索中の読者にアドバイスはありますか?

Mimi「正直、自分がカテゴライズされることをそこまで強く求めてはいなかったんです。私は私であって、ジェンダーやセクシャリティに左右されたくないと思っていました。無理して自分が“何”なのかを知る必要はないと思うし、違うからといって疎外感を抱く必要はないと思います」

Edo「Mimiさんの意見に共感します。一人ひとりが異なるように、それぞれ違うストーリーを持っていますよね。もし周りで悩んでいる人がいるのであれば、彼らの声に耳を傾けて、自分に何ができるのか考えたり、学んだりすることも素敵だと思います」

Asahi「私自身はクエスチョニングですし、今は自分が“何”であるのかをあえて決めないでいようと思ってます。たしかに、自分が何かのカテゴリーにぴったりと当てはまるとホッとする気持ちもすごく共感できますが、今後自分に何があっても、どんな人を好きになっても、『自分は自分だ』と受け入れられるほうが合っている気がするんです」

Mayu「僕は自分のジェンダーやセクシャリティを、『個性』としてポジティブに捉えています。それは女性として生活していた時期にも言えることですが、FtMの美容師として誰かのために働くようになってからは特に強く感じますね。

結局はどんなフェーズにいる自分も自分として受け入れて、誰よりも愛してあげることが大切だと思っています」

カミングアウトの必要性についてどう思いますか? ご自身の体験で印象的だった周囲の反応はありましたか?

Edo「カミングアウトの有無は自由だと思います。実は私の場合、家族へのカミングアウトは自分でコントロールすることができなかったんです。たとえば母に対しては、当時の恋人に強く促されて告白せざるを得ない状況でした。

そして何より衝撃的だったのは、祖父母へのカミングアウト。私のInstagramを密かに見ていたようで、自分から直接伝える前に、すでに知られていたんです(笑)。

いずれにせよ、カミングアウトを通してわかったのは、周囲の人の考え方を変えられるということ。最初は理解してもらえなくても、今では受け入れてくれるようになったんです。祖父母も同じで、今ではビデオ通話で私の恋人とも会っていますし、母は『息子が当事者ならば、自分もLGBTQ+コミュニティの一人だ』とサポートしてくれています」

Mimi「私がカミングアウトをしたのは1年半前。最初はTikTokで、その後InstagramやLINEを通して周囲にカミングアウトしました。

きっかけとなったのは、人種差別問題が激化し、肌の色の違いで命を落とすというジョージ・フロイドさんの事件でした。「無知」や「無自覚」によって、世間が決めた“普通”とは違う対象を傷つけてしまうという事実に憤りを覚えたんです。

自分を無理してカテゴライズすることも、それを周囲に伝える必要もないけれど、“違い”に耳を傾けて理解することの重要性を実感し、誰かの考えを見つめ直すきっかけになればいいなと思い、パンセクシャルであることをカミングアウトしました。

そもそもパンセクシャルを認知している人は少なかったので、それを説明する機会も増え、周囲からは『勉強になった』という声も。Edoさんの意見と同様に、周りの考え方は変えられるという発見がありました」

これはtiktokの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

Asahi「女性が好きなことを一番最初に打ち明けたのは、小学生のとき。先ほどもお伝えした通り、純粋な恋心から友達に恋愛相談をしているなかで自然と伝えていました。

改めて自分を見つめ直し、高校生のときに家族や親戚に、当時の性的指向であるパンセクシャルをカミングアウトしました。正直、同じ家族のなかでも、反応が人それぞれ異なることが印象的でしたね。『幸せならそれでいい』と受け入れてくれる声もあった一方で、女性との真剣交際を『友達の延長』として捉えられてしまったことも…。

カミングアウトの有無は自分次第ですし、するにしても、そのタイミングは人それぞれです。受け止める側も、『どうしてもっと早く言ってくれなかったの?』などの言い方は避けて、相手のペースを尊重することが大切だと思います」

Mayu「2年間、『彼女がいる』とLINEで伝えたのが親への最初のカミングアウトになります。自分の性自認や性的指向をすでに察しているだろうと思っていたのですが、そうではなかったので驚きました。

自分がFtMであることを打ち明けたのは、20歳のとき。当時は就職活動の真っ只中で、ありのままの自分の姿で入社したいと思っていた僕は、今の会社にも面接でカミングアウトをしていました。

自分にとって最適なタイミングだと感じたので、親にも手紙でFtMであることを正式に告白。彼女がいるということは伝えていたので、自然と受け入れてくれました。

友人にはSNSを通してカミングアウトしました。Instagramのストーリーで質問を募集したときに、『FtMなのですか?』という質問が来たんです。『これはカミングアウトをするチャンスだ!』と思い、『そうだよ~』と自然体で答えたら、知れ渡りましたね。

皆さんの意見と同様に、カミングアウトの必要性はないと思っています。ただ僕の場合は、美容師として当事者の役に立ちたいという夢があったので打ち明けたという流れです」

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SNSでオープンにすることで、ネット上ではどんな反応がありましたか?

Edo「今までもSNSではオープンにしていたつもりだったので、特別な反応はありません。ただ、プロフィール欄に性自認を書くようになってからは、呼ばれたい代名詞を聞かれるようになったり、当事者同士のコミュニティも広がったりしました。

また最近では、ファッションブランドのモデルに起用されるなど、表舞台で活躍する当事者も増えてきましたし、逆に制作側として採用される動きもありますよね。SNSのプロフィール欄に性自認を書いてから、こういった機会が目立つようになった気がします」

Mimi「私はTikTokを通して初めてカミングアウトをしたのですが、アプリの利用者の多くが学生であることから、わからないことや気になることをたくさん質問してくれるようになりました。若い世代が多様な性の在り方に触れるきっかけになったら嬉しいです」

Mayu「そうだったんですね。僕も最近はTikTokでFtMであることを発信するようになりました。一度バズった動画は自分の興味外の内容でもおすすめフィードに出てくるのがTikTokの特徴なので、色々な人の目に留まる機会が増えましたね」

Asahi「私はSNSを開設した当初からずっとオープンにしていたので、劇的な変化はありません。でも、俳優活動中に受けたとあるオーディションで、『キャリアを優先するなら、自分のセクシャリティを隠した方がいい』と言われたことがあるんです。

しかし私は海外の著名人のように、自分の性自認や性的指向を活かせるお仕事を頂きたいと思っていたので、SNSでも隠すつもりはありません。

実は今、当事者やアライで構成されたチームの自主制作による短編映画で、主演である当事者の役のオファーを頂いたので、詳しくは私のTwitterを確認してもらえると嬉しいです!」

Edo「たしかに、自分を偽っていると、本当の自分が共感できる人には出会えない気がします。ジェンダーニュートラルな下着を提案している『REING』に入ったきっかけも、カラーネイルをしている私を見て、『当事者の一人なのではないか』と思った代表がオファーをくれたんです」

日本では法制度でも課題が残っていますが、「自分の家族を持つ」ということに対してどう考えていますか?

Asahi「同性婚は一刻も早く合法化してほしいですね。そもそも性自認や性的指向が“普通”と違うだけで、皆に平等に与えられるべき権利がないのには納得がいきません。いつか結婚したいと思ったときに、問題なくできる社会であってほしいです」

Mayu「僕の周りには、『同性婚さえ認められていれば、性的適合手術をしてまで戸籍を変更しなかった』という人もいます。肝心な本人たちの気持ちよりも先に性別が問われる社会が変わらない限り、多くの人が苦しむと思います」

Mimi「正しい愛のカタチはありません。友達、恋人、親、子どもなど、愛情の対象や大きさはそれぞれで、正解はないはずなのに、婚姻関係にある男女の家庭が『幸せ』の代表として語られる風潮にあることに違和感を覚えました」

Edo「性別や血縁、結婚の有無などを超えた、色々な家族のカタチがあっていいと思います。たとえばシングルペアレントや、縛りのないオープン・リレーションシップ、恋愛感情を超越した親友同士の結婚など、『幸せな家族像』のなかには、『男女が結婚して子どもを作る』以外のカタチがもっと含まれていいのではないでしょうか」

Z~ミレニアル世代のLGBTQ+コミュニティとして、ご自身の目標はありますか?

Edo「自分のジェンダーやセクシャリティを、楽しく、そして永遠に探究し続けていたいです。そして、そんな自分を受け入れてくれる社会であってほしいとも思います。

キャリア面では、クリエイティブディレクションをを通して、多様性をもっと反映したいですね。また、ドラァグクイーンとして自己表現をすることが好きなので、一人のアーティストとして活躍の幅を広げ、いつか曲を出したいです。私のような人間が存在するということを表舞台で示し、それが誰かの背中を押すきっかけになったら嬉しいです!」

Mimi「少しでも多くの人に、LGBTQ+コミュニティの存在を知ってもらいたいです。そのため、引き続きSNSでの配信を続けるつもりです。副業として行っているメイクアップアーティストの活動でも、縛りのないアートという世界で、多様性を促進したいと思います」

Mayu「人を綺麗にすることが美容師の務めなので、別の垣根を超えて、その人のなりたい姿を、期待以上の形で叶えてあげたいです。

特にFtM当事者のなかには、『美容院で好きな髪型をオーダーしにくい』『自分の見た目から女性誌を出された』など、あらゆる要因で美容院に行きずらさを感じている人が多いので、誰もが通いやすい空間を作っていきたいです!」

Asahi私だからできるような仕事を担えたら嬉しいです。先ほどもお伝えした通り、短編映画で主演である当事者の役のオファーを頂いたので、注目してもらえたらと思います。

あとは最近、パートナーとのカップルフォトの撮影をして頂く機会が増えたので、いずれはジェンダーニュートラルなファッションブランドなどのモデルとして起用してもらうことも夢です」


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