異性愛とシスジェンダー(生まれたときに割り当てられた性別と性自認が一致している)が前提にされた今の社会では、それ以外にも存在する様々な性のあり方についての認知や性的マイノリティの権利を保障した制度設計が不十分な現状があります。

マッチングアプリのTinder(ティンダー)が発表した「Let's Talk Gender」は、そんな多様な性のあり方について学びを深めることができるサイトです。コスモポリタンでは、同ウェブサイトの制作にそれぞれコンテンツディレクター、ライターとして携わった中里虎鉄さん、大谷明日香さんの2人の対談を実施。

性のあり方を表す言葉が人々に認知されることや多様性を扱うコンテンツの制作に当事者が参加する意義、心地よいコミュニケーションなどをテーマに、お話していただきました。

Tinder「Let's Talk Gender」Webサイト

プロフィール

  • 中里虎鉄さん
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CEDRIC DIRADOURIAN
they/them|エディター、フォトグラファー、ライター。2020年10月に雑誌『IWAKAN』を創刊。2022年4月に独立し、フリーランスとして活動。ノンバイナリーであることをオープンにし、多様な性のあり方についての啓蒙や性的マイノリティの権利向上のためにコンテンツ発信をしている。
  • 大谷明日香さん
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CEDRIC DIRADOURIAN
she/her|Creative Studio koko 代表 / プロデューサー。新卒で広告代理店に入社、国内外の企業のブランディング、広告の戦略設計から制作に携わった後、2018年にREINGを創業。インクルーシブな表現・コミュニケーションのあり方を基軸にプロダクト、コンテンツ、プロジェクト開発を行う。その後、経営から制作現場までどんな心や体をもつ人も働きやすい環境と、多様な視点が尊重される場づくりを目指し(株)kokodear, Creative Studio kokoを設立。多数の企業やブランドのクリエイティブ制作に従事。

「自分を知る」ことに、言葉が果たす役割

――「Let's Talk Gender」では性に関する様々な言葉が紹介されています。言葉が人々に認知されていくことに、どんな意味があると思いますか?

中里虎鉄さん(以下中里さん):ジェンダーアイデンティティやセクシュアリティの名前って、自分自身のアイデンティティを探求するためのツールとして役に立つものだと、個人的には感じています。

自分の性のあり方についてモヤモヤした気持ちがあるときに、その原因を言語化することで向き合い方がわかってくる場合もあると思うんです。

シスジェンダー(生まれたときに割り当てられた性別と性自認が一致していること)とヘテロセクシュアル(異性に性的要求を感じるセクシュアリティ)であることが前提につくられている今の社会では、自分のアイデンティティをないものにされ、不安になる要素が日常にあふれていて。

性自認やセクシュアリティ、ロマンティックを表す多様な言葉は、そんな社会で自分の性のあり方に関する感覚と合致するものを見つけ、自分をよりよく理解するのに役立つものだと思います。

自分自身、ノンバイナリーという言葉を初めてインターネットで見つけたときに「自分はノンバイナリーなんだ」「そりゃ、男じゃないのに男として生きていたらしんどいよね」と、自分がそれまでどうして苦しんできたのか納得できたんです。

大谷明日香さん(以下大谷さん):私は、第一には自分の気持ちを大切にするため、第二に誰かと会話するために、言葉が必要なのかなと思っていて。

まだLGBTQ+という言葉も知らなかった学生のとき、とても惹かれた女性の先輩がいたんです。でも当時の私は、自分の感情が何なのかを明確にすることができずに戸惑っていて、周囲も自分も、恋ではなく単なる憧れとして扱っていたと思います。

もしあの頃に、自分のセクシュアリティに関して知る機会を得ていたとしたら、もっと違った思いや悩みをもっていた気がしています。感情だったり湧き出てくる考えだったり、その瞬間の自分の気持ちを理解して向き合うことができたのかなと思うんです。そう考えると、概念や言葉の存在はありのままの気持ちや感情を大切にしたりするうえで大事なのかなと。

社会人になって初めてパンセクシュアル(どんな性のあり方の人に対しても性的欲求を感じる可能性があるセクシュアリティ)の友人に出会ったときに、同じ感覚の人がいることにビックリして。それまでは、恋愛をはじめとした周囲との関係性の築き方に対する自分のスタンスがおかしいと思っていました。

でも、その友人と出会い、人との関係を築くことに関する考え方は人それぞれなんだと気づいたことをきっかけに、自分について語れる言葉が増えたり話し方が変わったりして、出会える人も変わりました。最近やっと「自分として生きている」という感覚になれて、人生が楽しくなった気がします。

「自分を語る言葉」を見つけることって、誰かとの関係性においてもすごく大切だと感じるんです。

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Tinder

“多すぎる”と言うけれど
それでいい

中里さん:色々な性のあり方を表す言葉が社会に認知されるようになってきたなかで、よくある意見として「言葉が多すぎてわからない」という声があると思うんですけど、個人的には「多ければ多いだけいい」と考えていて。

まだ言葉になっていない性のあり方もあるし、その存在が可視化されたり、名前が一般に知られたりすることによって社会の前提が変わってくる。普段の会話でも「相手がヘテロセクシュアルでシスジェンダーだとは限らないことを前提に話そう」という意識が浸透するなど、人と人との関係やコミュニケーションにも影響があるはずだと思いますね。

大谷さん:誰も教えてくれないよね。「なんでアイデンティティを表す言葉がいっぱいあっちゃいけないんだろう」って思うんです。

確かに数はたくさんあるけれど、全部を完璧に理解していないといけないわけじゃない。目の前の人をよく知るために概念を共有できる言葉が1つでもあれば、理解の手助けになるかもしれない。

自分の“好き”やあり方について語る言葉が、みんなと同じでなければいけない、2~3つしかないカテゴリから選ばないといけないなんてことは本当はないはずです。

ジェンダーやセクシュアリティの話になると、よく「多すぎる」「難しすぎる」という話になる気がするのですが、わからなかったら少しずつ知っていけたらいいのかなって。

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CEDRIC DIRADOURIAN

「肯定」はしても
「断定」はしたくない

――ウェブサイトの内容や構成を考案するなかで大切にしたことはありますか?

中里さん:セクシュアリティやジェンダーアイデンティティの言葉をインターネットで検索する人は大体、知ろうとして調べると思うんですけど、情報が包括的に集約されているウェブサイトってなかなかなかったんですよね。

紙の辞書と同じように、調べたものの横にあった言葉が偶然目に入り、それが「もしかしたら自分はこっちかも」「あの人はもしかしたらこういう感じなのかな?」といった発見ができると思います。

「目の前の人とのコミュニケーションをもっと丁寧に」ということを伝えるのも、今回の内容や構成で重視した部分です。制作チームのメンバーは皆、それぞれ違うアイデンティティをもっています。意見を出しあいながら、誰のことも排除しないわかりやすいコンテンツを目指して、何度もブラッシュアップしながらコンテンツをつくりあげました。

大谷さん:このプロジェクトを、出会いをサポートするプラットフォームであるTinderさんがやることにも意味があると思うんですよね。見た人が自分が心地いい状態で誰かと出会い、関係を築いていけることにつながるはずで。

「セクシュアリティやジェンダーについて知るのは、本来すごく素敵で楽しいこと」というメッセージは、ウェブサイトの冒頭で伝えたかったです。人との出会いは楽しいし、自分を知ったり、そのうえで誰かを知ったりするのって本当はハッピーなことだから。もちろん今の社会だと大変なことやしんどいこともある。それでも、チームのみんなが伝えたかった想いでもあるんじゃないかなと思っています。

一つひとつのアイデンティティに関して「どう伝えたら読む人が自分や他者のアイデンティティについて知りたい、大切に考えたいと思えるか」、そして「もし今、まさに悩んでいる人がいたとしたら、何かサポートになるきっかけになれるか」と考えて、言葉を選びました。

これだけの内容をまとめることは、絶対に1人ではできない作業でした。アイデンティティやセクシュアリティ、ロマンティックについては「これが正解」と言うのがとても難しいからこそ、多様な視点や知識をもつチームメンバーでフィードバックしあいながら色々な側面を包括していく過程が大事なんだと、あらためて感じます。

中里さん:明日香さんが話してくれたように、「正解がないこと」は前提としておきたかったので、ウェブサイトの冒頭に「ここに書いてあるものは、1つのあり方であって“ここにない、あるいは違うからそうではない”というわけではない」という余白をつくりました。

「あなたが感じるものを尊重するけど、ヒントになればいいな」というスタンスです。読んだ人に「自分は違うんだ」と思わせないのが大事だと思っています。

大谷さん:肯定はしても、断定はしたくなかったよね。そこをチームのみんなが意識していた。みんながそれぞれ、受け取られ方や受け止め方を想像しながら考えていたことがすごく大切だったと思う。

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CEDRIC DIRADOURIAN

ロマンティックと
セクシュアリティを
分けた理由

――「これは良いブラッシュアップだった」と思うことはありますか?

大谷さん:ロマンティック(恋愛的指向)とセクシュアリティ(性的指向)を分けて紹介するかどうか議論したところですね。あるとき虎鉄さんが「今はこの2つがなかなか分けられていないよね」と言ってくれたんです。

中里さん:ロマンティックを分けることは、自分のなかでは「絶対に」と決めていたんです。

ロマンティックという概念は、今まで社会において“ないもの”とされてきました。アロマンティックやデミロマンティックといったものがありますが、当てはまる人のなかには、「恋愛ができない」「パートナーに対して愛がない」など、従来の“恋愛至上主義”に照らした見方を押し付けられたり、同様にして自己嫌悪したりしている人もいると思います。

今回、そんな人たちに対して「あなたは変じゃないよ。こういうロマンティックがあるんだよ」と知ってほしい気持ちから、ロマンティックとセクシュアリティを分けましたが、正直なところ今でも葛藤があります。

個人的に、LGBTQ+やクィアと表現される性的マイノリティのアイデンティティやコミュニティは、「あなたはクィアじゃない」というジャッジのない、誰しもを迎え入れるプラットフォームであるべきだと思っています。

今まで一般的にジェンダーアイデンティティとセクシュアリティに基づいて語られてきた「性的マイノリティ」にロマンティックの概念も加えることで、ウェブサイトを見て「自分はアロマンティックだ」とクィアのコミュニティに入ってきてくれる人がいるかもしれません。

そんな人たちを喜んで迎え入れたいと思ういっぽうで、性的マイノリティの権利や選択が守られていないこの社会でより“生きづらさ”を感じさせることになってしまうんじゃないかという不安があるんです。

大谷さん:正直に言うと、自分自身の経験も踏まえたときに虎鉄さんが言うように葛藤を生んでしまうんじゃないかと心配もしました。「知らなきゃよかった」と思われないような社会であることが、まず第一に大切なはずですよね。

中里さん:今でも難しいなと思うんですけど、「自分を探求するためのヒントにしてほしい」というスタンスであることには変わりありません。本来であれば自分を知っていくことって幸せな作業なので。

“選ぶ者”としての葛藤も

――制作過程で難しかったことは何ですか?

中里さん:たくさんあるアイデンティティやセクシュアリティ、ロマンティックの名前を「どこまで掲載するか」という点については、すごく話し合いました。「Let's Talk Gender」の内容ですべてを網羅できているわけではなく、今の社会の状況や議論を見ながら“選定”した部分はあるので、“選ぶ側に立つ後ろめたさ”みたいなものをずっと感じています。

私たちがすべての人の思いを代弁をすることはできないし、一人ひとりのアイデンティティやストーリーを、その人の経験や人生として話してもらうということは重要なプロセスです。

大谷さん:存在を可視化することの大切さと難しさがあるなと思っていて。今までは「どんなアイデンティティの人も安心して制作に参加できる環境か」「その声を真っ直ぐに届けられるチームか」「制作過程で様々な視点がきちんと取り入れられているか」といったことが蔑ろにされやすいと感じる場面が多かったんですね。そういった意味で、表に出ていくコンテンツの内容はもちろん、「誰とどう考えられるか」がすごく大事だなと。

さっき虎鉄さんが言った「“選ぶ”という行為がとても難しい」ということは、私も思っていて。どの言葉を残し、どこまでを包括したコンテンツを届けるかと考えたとき、「ここではこれを伝えよう」「でも、何か意見が寄せられたらきちんと向き合って反映していこう」と、自分たちがまず意思をもつことが大切なのだと思っています。

自分と違うアイデンティティに言及することへの責任は、制作チームのみんなが感じていたんじゃないかな。

中里さん:そう感じていたのはきっと、自分の存在やストーリーが蔑ろにされてきたり、適当にあしらわれたりしてきた経験があるメンバーがいたからで。だからこそ言葉一つひとつに対して責任をもって向き合えたんだと思いますね。

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当事者コミュニティが
参加した意義

――制作を通して得た発見はありましたか?

中里さん:コンテンツ制作に多くの当事者が参加することで、当事者コミュニティにしっかりと還元できるものがつくれることを体現できたのが、発見というか収穫ですね。今までジェンダーやセクシュアリティ、ロマンティックをテーマにした表象は、当事者ではない人たちが描くことが多かった。制作陣に当事者がいたとしても1人とか、ごく少人数。

サイト公開後の反響を見ていて、当事者コミュニティや自分の性に悩んでいる人たちにしっかり届けられたと思えました。当事者の人たちに「救われた」と思ってもらえるコンテンツをつくってこそ「LGBTQ+コミュニティに還元した」と言えると思うのですが、それが実現できたのではないかなと感じています。

大谷さん:虎鉄さんと同じ思いです。広告業界で10年ほど働くなかで、どうしたら制作過程から変えていけるだろうかと、ずっと考えながらチームや環境づくりに関して問い直しながらトライしてきました。

なぜ当事者の視点が必要だと思うかというと、社会でマイノリティという立場に置かれてしまう人たちの意見があまりに取り入れられづらい構造になっているから。一方的に「きっとこうだろう」「こうかもしれない」という偏見や憶測に基づいて企画が進められてしまったとしても、誰も違和感すらもてないこと。そして違和感をもてたとしても、言えないこと。この両方に問題があると考えます。

今の社会では、何かを制作する際にチームに当事者がいたとしても、おかしいなと感じる点に言及すれば強制的なカミングアウトに繋がるのではないかという不安があるし、それゆえに言えないという人だってきっといるのでは、と。

「違和感をもてる力」って、経験からくる部分も大きいと思いますが、知識や想像力からも得られるものだから、本来すごく価値あることだと思うんです。だから“当事者に意見をもらえればそれでOK”という話でもない。

今回はサイトをつくることになった段階で、チームにどんな視点が必要か、議論しやすい環境をつくるにはどうしたらいいか、から考えられていたんだと思います。こういった制作チームによってつくられるコンテンツが、今後増えていってほしいという思いがあらためて強くなりました。

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Tinder

――動画コンテンツのテーマの1つに「心地よいコミュニケーション」があります。お2人がコミュニケーションで大切にしていることは?

中里さん:もちろん相手との関係性によりますが、初対面の人と話すときは相手のジェンダーやセクシュアリティ、ロマンティックを断定しないことを心がけています。

自分もノンバイナリーという言葉を知らなかったときには、“この世には男と女だけ”と思っていたし、その前提で人とコミュニケーションしていました。でも今は、それによって傷ついている人や存在しないことにされている人がいることを、自分の経験を通して知っているので、何に対しても断定して話さない。シスジェンダーでヘテロセクシュアルの人にしない質問は誰にもしません。

ルーツやアイデンティティに関する話って本人が話そうとする前に他人が聞くものではないと思うので「本人が話すまで聞かない」。もし聞きたければ、自分のことを話してから尋ねるように意識していますね。誰かに出会ったときに、いきなり「どこの国から来たの?」とは聞かないです。その質問をすることで、その人のアイデンティティを“外国人”だけに集約した状態をつくってしまうので。そういう話をしなくても仲良くなれるし。

大谷さん:私も、わからないことは本人に聞くようにしています。人との距離感や話したいトピックは、人によって様々ですよね。「何と呼んだらいいですか?」とか。相手の答えが“下の名前にさん付け”で距離が近く感じられることもあるし、上の名前で呼ばれるのが心地よい人もいるし。

会話中に恋愛の話題を振ろうと思ったときには「今、恋愛の話をしようと思っているんだけど、してもいいかな?」と聞きます。その人との関係によってそういう断りが不要なケースもあるけれど、まだ前提を共有していない相手とコミュニケーションをするときは、聞かれたくないことや話したくないことがあると思うんです。

なので私は「話したくなければ話さなくていいんだけど…」「嫌だったら言ってほしいんだけど…」みたいな感じで、会話のなかで“注釈をつける”みたいなことをよくやっています(笑)。

中里さん:明日香さんのように最初に呼び方を聞くことは自分もあります。双方が心地よいコミュニケーションができるよう、関係性がすでにできている相手に何か聞くときも「答えたくなければいいんだけど」と前置きする。これって相手に対する思いやりだと思うんです。

大谷さん:前提として「違って当たり前」と考えておくと、自分自身も楽でいられる気がします。そもそも人は皆一人ひとり違うし、どんなに仲良くなってもわからないことはあるから。

中里さん:「Let's Talk Gender」でも、相手の呼び方に関するコラムを掲載しているけど、そこでは日常の会話で使える具体的なフレーズを紹介していて。どれも制作メンバーの実体験に基づいたもの。自分自身も、人からの呼ばれ方やジェンダー代名詞の間違いによって傷ついた経験があるけど、「本当はこう言ってほしかったけど、こう思うのっておこがましいかな? わがままかな?」と思ってしまうこともあったんです。

でも、「自分が傷ついている時点で、コミュニケーションとして成り立ってないから!」と強い意思をもって「どう言ってもらえたら心地よかったかな?」と考えました。

大谷さん:「相手を傷つけたくない」という意識から「知識を得れば得るほど、自分の発言が怖くなる」「どうコミュニケーションをとればいいか不安になる」という声も聞きます。

私自身も何度も失敗したな、と思うことがあります。そのたびに相手からどう言えば良かったか教えてもらったり、学ぶことで少しずつでもより良いコミュニケーションの方法を探れたらと思っています。言いづらいじゃないですか、「傷ついた」と自分から言うのって。だからこそ、今回のコラムでしているような「こう言ってみたら良いかも」という提案は、多くの当事者が伝えたかったことでもあると思いますね。

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CEDRIC DIRADOURIAN

「教科書」のような存在に

――「Let's Talk Gender」のウェブサイトが、人々や社会にとってどんな存在であってほしいと思いますか?

中里さん:これからも社会の変化に合わせてアップデートしていきたいという思いが前提としてあるうえで、「教科書」のような存在になればいいなと思っています。見る人が、自分の性に悩んだり揺らぎを感じたりしたときに訪れることで、自分の性のあり方を考える“旅”に出る準備ができるような場所であってほしいなと。

大谷さん:誰かにとっての「最初の1歩」になる可能性があるものだと、私は思っています。SNSのコメントに「身近にいる(性のあり方の多様性について)知ってほしい人にリンクを送ろうかな」というものがあって。そういう使い方をしてもらえるってすごいことだなと思いました。「配布したい」と言ってくれた人も見かけて嬉しかったです。

「知りたい」「知ってほしい」という人にとっての第1歩になるツールとして役割を果たせるなら、それこそ私たち制作チームやTinderさんがやりたいことにつながってきます。もっと多様な性のあり方が受け入れられていけば、様々なバックグラウンドやルーツをもつ人との出会いやコミュニケーションが楽しくなるはずだし。会話のきっかけにしたりリンクを共有しあったり、そういうふうに活用してもらえるツールになればいいなと思いますね。

中里さん:SNSでの反響はすごかったよね。

大谷さん:こういうコンテンツをリリースするとき、いつも緊張してお腹が痛くなるんですけど、今回は気持ちがすごくヘルシーだった。みんなとできたからかな? しっかり議論したうえでリリースできたと感じられたこと、普段は飲み込んでしまうような点も尊重してもらえた実感があったからかもしれません。でも、すごく怖くもあった。

中里さん:全員が責任をもっていたということはあるね。自分一人で責任を感じるのは怖いけど、明日香さんが言ったとおり分散できていたのかも。でも、サイトが公開された日は翌日の朝まで寝られませんでした(笑)。

大谷さん:どれだけ考え抜いても、誰か特定の人たちを排除してしまっている可能性やその表現が何らかの偏見や固定観念を助長する可能性をはらんでいるのではないかという怖さは常にある。

中里さん:大切にしていたことやよく議論したところを、見てくれた人たちも理解して気がついてくれて。さっき話したロマンティックを分けたことも、「分けてくれて良かった」と言ってくれた人がいました。

大谷さん:知識面でサポートしてくれた一般社団法人fairの存在はとても心強かったし、プロデューサーの落葉えりかさんをはじめとするプロジェクトチームが、どうすれば届けたい人たちに届けられるか考えてくれていた。

「色んな視点が交わっているからこそ、届く」という経験を、あまりみんなしたことがないんじゃないかと思うんです。こういうコンテンツを世に送るとき、今はSNSがあるから声がダイレクトに届くし。

一部には「本当はこれも含めてほしかった」というウェブサイトを見た人からの意見もありました。実際にそこは、私たちもめちゃくちゃ悩んだ部分で。「入れたいけど、どこまでをこの場で包括できるのか」とか。本来は選ぶべきことじゃないのに、“選定”する側のもどかしさがありました。そういったところは、皆さんの声も聞きながらアップデートしていけたら嬉しいです。

中里さん:本当に関わってくれたみんなのおかげだなという気持ちです。サイトのデザインをつくり込めたことも良かった。文章だけだとお堅くなっていたと思います。イラストレーターのAdaちゃんやWEBデザインをしてくれたデザインスタジオYESをはじめとした、たくさんの人たちの力を借りて完成できました。

大谷さん:本当に多くの人が、各自の視点とスキルを持ちよってつくり上げられたことが、私自身もひとつ大きな経験になりました。


多様なジェンダーについて学び、
深めるためのオリジナルサイト
「Let's Talk Gender」とは

マッチングアプリのTinderによるオリジナルサイト「Let’s Talk Gender」では、ジェンダーやセクシュアリティ、ロマンティックについて、より深く理解するためのキーワードのほか、日常生活で起こりうる身近なシチュエーションを題材にしたQ&Aをまとめ、ジェンダーに関して戸惑いや疑問が生じて立ち止まってしまったとき、解決のヒントとなるような情報が盛りだくさん。

また、性のあり方が多彩な10名によるインタビュームービーも公開。「性のあり方を探求することってどんなこと?」「あなたのアイデンティティや身体についてどこまで聞いていいの?」などの質問に対する、十人十色の多様な考え方も紹介されています。