人間にとって、衣食住は生活の基盤になるもの。安心できる住まいがあるかどうかは、ジェンダーやセクシュアリティに関わらず、誰にとっても大切なことです。ところが、残念なことに、セクシュアルマイノリティであるというだけで、住まいさがしで壁にぶつかることがあるのです。

どんなことがハードルになり得るのか、スタッフ全員が当事者というLGBTs不動産「IRIS」の代表取締役CEO、須藤啓光さんに聞きました。

希望に沿った物件を紹介してもらえないことも…

――住まいさがしに関して、どんな相談が寄せられますか?

私たちの事業内容は大きく2つあって、1つはライフプランの相談、もう1つが不動産の仲介業。後者の中に、賃貸の仲介、売買の仲介、シェアハウスの運営とサポートがあって、最も多いのが賃貸に関する問い合わせですね。

部屋を借りようと思ったときに最初から私たちに相談してこられる方もいますが、ほとんどの方は、まさか自分たちが部屋探しで壁にぶち当たるなんて思っていません。

他社に行かれて、そこで「なかなか部屋が決まらない」、「接客態度に不安がある」、または「実際にイヤな思いをした」など、いろいろな理由から私たちにお問い合わせをいただきます。

IRISでは、LGBTQ+の他にも、外国籍の方や障害のある方、生活保護を受けている方、シングルマザー&ファザー、起業家など、さまざまな理由から他社ではなかなか家が決まりづらい方からの相談もお受けしています。

――具体的にどういった壁にぶつかりがちなのでしょうか。

たとえば、部屋を借りようと不動産屋さんに行ったものの、良い物件を紹介してもらえないことがあります。

築50年ぐらいの古い物件や、自分たちが希望しているのと違う物件を紹介されたり、物件の選択肢がとても少なかったり。

また、同性カップルが借りても大丈夫かを確認しないまま、とりあえず物件を紹介をしている不動産屋さんだと、いざ内見に行って申し込みしたら審査でダメになることが続くケースもあるんです。

同性カップル=ルームシェア扱いに

――どうして希望に沿った物件を紹介してもらえないのでしょうか。

同性カップルに関して言うと、不動産のポータルサイトなどで「二人入居可」となっている物件の場合、男女カップルか、夫婦や親族など法的につながりのある人を指していることが多くて、同性カップルは住めないことがほとんどなんです。

男女間だったら「結婚する予定です」と、ひとこと言えば通ってしまうものが、同性カップルは結婚したくてもできないのに、ルームシェア扱いになってしまいます。だから、他社ではルームシェア可物件を紹介されることが多いです。

自分たちの知らないところで、二人の関係が「親族」として大家さんに伝わっていることもあるようです。逆に言えば、それだけで「あ、そうなのね」と通ってしまうのです。

――とはいえ、大家さんや管理会社としても、借りてもらえたほうがありがたい、とはならないのでしょうか?

人気のある物件は供給より需要のほうが多いので、特に首都圏は、不動産業界がお客様を選べることが多いですね。お客様が家賃を支払えるのは当たり前で、管理会社や大家さんは「どういう人が住むのか」や、「一緒に住む人の関係性」などをよく見ます。

逆に物件価値が低いものは早く決めたいので、礼金をゼロにしたり、ルームシェア可やペット可にしたりして、付加価値を高めることで埋めています。

ルームシェア可であれば、基本的には同性カップルでも問題ない。ただ、人気のあるようなしっかりした物件に住みたいと思っても、そういう物件を紹介してもらえないということになってしまうんです。

female friends celebrating in new home on moving day
monkeybusinessimages//Getty Images

LGBTQ+の情報が正しく浸透していない

――特に男性同士のカップルは決まりにくい印象があります。

その通りですね。男性は汚く使いそう、騒ぎそうという先入観があるようです。それに加えて、古い業界なので「同性愛の中でも女同士はきれいだけど、男同士はそうじゃない」といった勝手な偏見もあるようです。

――どの時点で引っかかるのでしょうか?

賃貸物件の場合、上から大家さん、管理会社、仲介業という3層のピラミッド構造になっていて。仲介で紹介してもらって申し込みをするときは、まず管理会社に連絡をするのですが、この時点で弾かれることが多いです。

――実際に、同性カップルが入居するとトラブルが起こるという事例があるのでしょうか?

その多くは、ただの先入観や偏見だと思います。なぜなら、弊社では「二人入居可」の物件に関して、管理会社と交渉することで同性カップルでも借りられるようにして、ご紹介することが多いからです。

つまり、しっかり対話をすればクリアできる課題なんです。LGBTQ+に関する情報が正しく浸透していないというところが問題です。

実際、同性カップルに貸したときに嫌な思いをしたという大家さんもいらっしゃいますが、それはLGBTQ+に限らず起こりえることだと思います。

homosexual couple unpacking boxes in a new home
zoranm//Getty Images

間取りや契約書、細かい相談もストレスに

――不動産屋さんで嫌な思いをするとは、具体的にどういうことですか?

自分たちの関係性を正確に伝えられないために、希望する条件を言いづらいことがありますよね。

たとえば、カップルだから本当はベッドルーム1つで、1LDKでもいいと思っているんだけど、“ルームシェア”かと思っている不動産屋さんにしたら、2LDK以上がいいのかな、と考える。そういう踏み込んだ話をされるのは、業務上必要なので仕方ないんですが、お客様からするとストレスですよね。

カミングアウトしていないゲイカップルに多いのは、賃貸契約の審査で、保証会社や管理会社から会社に連絡がいったときに、「男性2人で住む予定のようなんですけど」などとアウティングされてしまう可能性もある。

住宅手当を受けるために会社に契約書類を提出するときに、2人の名前が載ってしまうのを避けたいといった相談をする必要も出てきます。そういう細かい課題もありますね。

レズビアンカップルに関しては、もう単純にセクハラ的な発言をされたとか。たとえば、「夜の営みは…?」とか信じられないようなことを聞かれたという話も、1件や2件ではありません。そこまででなくても、踏み込んでほしくない領域にズカズカと踏み込まれてしまうことはあるようです。

見た目と戸籍の性別が違うトランスジェンダーの方だと、最初は女性として接してもらっていて、いざ申し込みで身分証明書を提出して「あれ、あなた男性なんですか?」となると、態度がコロッと変わったとか。それで差別的な発言を受けたり、「男性なら○○ですよね」と、“あるべき男性像・女性像”を押し付けられて、物件提案の幅が限定されてしまうことはよくあるようです。

不動産業界に訪れはじめている変化

――IRISでは、大手不動産会社と提携をしたり、企業向けのセミナーを行ったりしているんですよね。なにか変化は感じますか?

まだまだ古い慣習や価値観による課題が残っている一方で、実際に不動産業界も少しずつ変化してきています。たとえば、契約書の続柄のところを「パートナー」「親族」と表記してくださる管理会社さんが出てきていたり。

株式会社iris
株式会社IRIS

IRISは設立から8年目ですが、最近はメディアからのお問い合わせをいただくことも増えています。可視化されていない差別は、誰かが関心を持たない限り、解決には至りませんよね。不動産業界も少しずつ前進していますが、まだまだたくさんの取り組みが必要だと感じています。


今回、お話を伺ったのは…

株式会社IRIS 代表取締役CEO・須藤啓光さん

株式会社iris
株式会社IRIS
2014年創業、2016年に法人化されたLGBTs のライフプランニングや住まい探しをサポートする不動産会社「IRIS」の代表取締役CEO。IRISは、LGBTs 当事者により運営されており、利用者は延べ1000組を超える。住まい探しにおける当事者の課題を解決し、社会的少数者と日本社会が垣根なく受け入れられる「誰もが自分らしく生きられる社会」の橋渡しとなることをを目指して活動中。

株式会社IRIS


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