「将来子どもが欲しい」「パートナーがいても子どもは持たない」-- 考え方は人それぞれ自由だけれど、子どもを持つ・持たない選択肢はジェンダーやセクシャリティを問わず、誰にでも平等にあるべきもの。しかし、日本で暮らすLGBTQ+カップルが「子どもを持つ」ことは、そう簡単ではありません。

今回お話を伺った一般社団法人「こどまっぷ」代表の長村さと子さんは、同性パートナーとの長年にわたる「協力者を探す旅」を経て、子どもを授かった当事者の一人。

これまで、子どもを望む多くの性的マイノリティのカップルを支援してきた長村さんに、戸籍変更していないトランスジェンダーを含む戸籍上の同性カップル」(以下、同性カップル)で、「自分またはパートナーが子どもを産む」ケースに焦点を当て、当事者を取り巻く日本の精子提供の現状を伺いました。


【INDEX】


長村さと子さん

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1983年東京生まれ。レズビアンで現在第一子妊娠中。子育てをしている、またはしたいと思うLGBTQ+をサポートする一般社団法人「こどまっぷ」共同代表。違いについて考える絵本『あおいらくだ』作者で、足立区パートナーシップ宣誓第1号。

多様な街、新宿二丁目で子どもから大人まで誰でも来ることのできるお店「足湯cafe&barどん浴」等、複数店舗を経営。セクシャルマイノリティの人を中心とした居場所作りをしています。

--同性カップルが、日本で子どもを迎える方法を教えてください。

同性カップルが子どもを迎える方法は様々ですが、日本で公認されている代表的なものは下記の3つの方法。

養育里親

何らかの事情で生みの親が育てることができない子どもを、一時的に家庭内で預かって養育する制度。ただし「養子縁組」と違って、里親と子どもに法的な親子関係はなく、実親が親権者となります。

また、各自治体によって運用が異なり、東京都や大阪府、愛知県などの一部の都道府県では戸籍が同性のカップルも養育里親として認められています。

里親を希望する人のなかには、いずれ特別養子縁組をして、戸籍上本当の親子になることを前提にしているケースもあります。しかし、「法律上の夫婦が共同で縁組をすること」が特別養子縁組の条件の一つになっていることから、婚姻が認められていない同性カップルが子どもと特別養子縁組をすることは、現状認められていません。

友情結婚

恋愛関係にない者同士が、納得・合意した形で相互扶助する婚姻関係のこと。なかには、子どもが欲しいと願う当事者が異性と結婚をして、生殖補助医療などで自分の子どもを授かる人も。

ステップファミリー

子どもを連れた再婚や事実婚により、血縁関係のない親子関係などを含んだ家族形態のこと。

なお、海外で一部行われている「代理母出産」は日本産科婦人科学会により実施が認められていません。また、「提供精子を用いた人工授精」は日本産科婦人科学会のガイドラインによって、「特別養子縁組」は民法で、いずれも「婚姻関係」にある人たちに限られていて、当事者たちの願いは国の仕組みや社会の偏見に阻まれているのが現状です。

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Eva Blanco / EyeEm//Getty Images

    --女性の同性カップルで、自分やパートナーが妊娠して子どもを授かる手段を教えてください。

    ドナーから精子提供を受け、人工授精で妊娠を試みる方法を選ぶ人が多いです。知人や親兄弟にドナーになってもらうようお願いしたり、最近ではSNSで知り合った協力者から提供を受けたりすることも。

    現在、日本には法的に認められた精子バンクは存在しないため、海外の医療機関で精子提供を受ける人もいます。

    一方で、こういった精子提供を受けたとしても、日本では法的な婚姻関係がある夫婦の妻以外には、提供精子を用いた人工授精を行うことができません。これは違法行為には当たらないのですが、日本産婦人科学会のガイドラインでそう定められているため、病院側はその規則に則った対応を行なっています。

    ごくわずかですが、国内にもその“例外”を受け入れてくれる病院があって、「こどまっぷ」では、そのごくわずかな病院と当事者をつなぐお手伝いもしています。

    斡旋しているわけではなく、相談に来てくれたカップルにヒアリングを重ねて、子どもを迎えるのにふさわしい状況にあると判断できた場合は、精子バンクを利用できる病院を紹介しています。

    私たちに金銭的な利益は一切ありませんし、病院側もガイドライン違反などのリスクを負ってやっていることなので、お互いの信頼関係のもとで成り立っている活動です。

    --どういった基準でドナーを選ぶのでしょうか?

    基準は人それぞれですね。自分と子どもだけではなく、パートナーとも血が繋がっていてほしいという理由で親族に頼ったり、問題が発生するのを極力避けたいという方は、海外の精子バンクを利用したり。

    海外の精子バンクでも、日本語で対応してくれる窓口があったり、自宅配送をしてくれるところもあったりして、以前と比べると利用するハードルはだいぶ下がったと思います。

     
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    海外で多くのユーザーを持つ精子バンク「クリオス」の創業者との勉強会にて。

    --SNSでドナーを見つける上で、リスクはないのでしょうか?

    もちろん様々なリスクが考えられますし、「こどまっぷ」でもSNSを利用したドナー探しは勧めていません。

    本来なら、子どもの将来を見据えたきちんとした話し合いが不可欠であるはずなのに、提供する/しないの話だけが先行してしまったり、相手の素性どころか、これまで精子提供を行った人数や、どこにその“子ども”がいるのかわからなかったりする場合もあります。

    また、病歴は自己申告となるので正確性に不安があり、遺伝性疾患のリスクなどもあります。なかには提供に“直接的な性行為”を求めてくる人や、危険な思想を持つ人も。

    ただ、SNSでドナーを探す人たちは、他に選択肢がなく、追い詰められた状況にある場合が多いんですよ。なので、私たちもSNSでのやり取りを一概に「悪い」と言い切ることはできないというのが本音ですね。

    とはいえ、まずは一歩を踏み出して自ら情報収拾をすることは大切です。生まれる子どもの幸せを最優先に考えたうえで、パートナーと向き合いながら、誰に協力してもらうのかを話し合ってもらいたいですね。

     
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    台湾のLGBTQ+ファミリーの当事者団体と交流してる様子。

    --長村さんご自身はどのように協力者を探されたんですか?

    私は今妊娠4カ月なのですが、ここに至るまで10年ほど、「協力者を探す旅」を続けてました。

    協力を申し出てくれたドナーと出会ったのは5年前。パートナーとの共通の知人で、コミュニケーションを重ねるうちに、人として素敵な方だと感じて。私は男性に対して少し苦手意識があるのですが、その人とは一緒にいて居心地がいいし、隣にいても自然体でいられたんですよね。

    私のこだわりでもあったのですが、子どもが成長して、会いたいと思ったときに会わせられるようなドナーがいいなと思っていたので、彼の人となりを知り自分たちの望むことを伝えてみようという流れになりました。

    話をしてみると、彼の外国に住む家族にもLGBTQ+当事者の人がいたうえに、彼の父親もドナーになった経験があることを知りました。

    最終的に私たちは素敵なドナーと運良く巡り会い、妊娠することができましたが、過去にも複数人に協力をお願いした経験もあります。

    いずれの場合も、まずは自分が性的マイノリティであると相手にカミングアウトするところから始めて子どもが欲しいこと、相手にお願いしたいことを伝えました。これが、精神的にものすごくエネルギーを使うんです

    たとえばその相手が知人だと、関係性が一変してしまうことも。最初は「自分にそんな可能性があるんだ!」と驚かれ、話し合いが進んでも、後になって断られてしまったこともあります。

    「落ち着いて自分たちの気持ちを知って欲しい」「相手にきちんと理解して欲しい」という考えから、手紙で思いを伝えることもありました。

     
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    多様なかぞくのカタチを伝えるLoveMakesFamily

    --精子提供を行うにあたって、両者間で「契約書」などの取り交わしはあるのでしょうか?

    「こどまっぷ」でも、そういった相談を受けることが多いです。もちろん、専門家に依頼して書類を作成してもらうことはできます。

    しかし大前提として、子どもが生まれて成長する過程でドナーとの間に何らかのトラブルが起きた場合、そこに「親権」を持ち出されるとすべて覆されてしまうんですよ。

    なので、そういった書類は、誠実に約束したドナーとの間で“気持ち的なもの”として作成しておこうという感じに留まるのが実情です。

    --精子提供を受けて子どもを迎えるにあたり、具体的にどのような困難が想定されますか?

    まずは病院の問題ですね。日本では同性婚が認められておらず、LGBTQ+の人たちが子どもを持つことを想定されていません。先ほど説明しましたが、日本では生殖補助医療を受けられる対象が限られているため、自分のセクシャリティをオープンにして行ける病院はないに等しい状況です。

    それに加え、こんな事例もあります。あるトランスジェンダー男性と女性のカップルが法律婚をしているにも関わらず、病院で治療を断られたそうなんです。話を聞いたところ、「トランスジェンダーに子どもは育てられない」などと差別的な言葉まで投げかけられたようで…。

    たとえ法律婚をしていて、日本産科婦人科学会が治療を認めていても、行ける病院が限られている。この事実は病院側の知識不足であり、私は差別だとも感じます。

    精神的な面で言うと、性的マイノリティであることをカミングアウトすることでしょうか。その事実を周囲に伝えないまま、シングルマザーとして子どもを持った人もいますが、色々な「嘘」をつかなければならないんです。周囲には嘘をつき通せても、自分の子どもに対しては素直でいたい人が多いはず。

    法律上では“他人”なわけですから、なにかあった際にも理解を示してもらえる協力者は必要になると思います。そのため私たちは、事前に親や身近な人に頼れる環境作りや、カミングアウトできている状況であることを、生まれてくる子どものためにも勧めています。

    それと、法で親子関係が認められない以上、万が一に備えて、子どもの未成年後見人を誰にするかあらかじめ決めておくべきでしょう。

    これは、実際にあった私の友人のケースなのですが、レズビアンの彼女が知人のゲイカップルに精子提供を受け妊娠したものの、出産時に彼女が亡くなってしまったんです。

    彼女にはトランスジェンダー男性のパートナーがいたのですが、戸籍上は「女性」で、法律上では二人に婚姻関係はありませんでした。そのため、彼女の母親とゲイカップルの間で子どもを取り合うようなことが起きたんです。結果、彼女の母親がしばらく未成年後見人になった後、ゲイカップルに子どもを引き渡すことになりました。

    生きている以上、人間いつ死ぬかわからないと思って、あらゆる可能性を慎重に考えることも必要です。

     
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    --現在、生殖補助医療を受けられる対象は限られていますが、対象拡大の動きは今後あるのでしょうか?

    これは今まさに議論になっていること。私たちのような性的マイノリティやシングルの女性が生殖補助医療を受けられるようになるかどうかというのが、「生殖補助医療の在り方を考える議員連盟」を中心に、今後2年にわたり検討される予定です。

    そこでの主なテーマが、ドナーの協力により生まれた子ども「ドナーチルドレン(※1)」の福祉、そして「出自を知る権利」について。

    「こどまっぷ」も同連盟からヒアリングを受ける機会があり、実際に子どもを持ち、育てている同性カップルが存在していることをお伝えしました。同性カップルが子を持つことに対して否定的な見方をされてしまうことや、子どもの法的地位の安定性などが今後の議論の課題になっていくと思います。

    また、LGBTQ+カップルのドナーチルドレンはまだまだ少なく、「真実告知を受けて育った10歳を超えるドナーチルドレンたちが、心身とも健康に成長しているかどうか」を検証するデータが日本にはほぼないので、これから作っていくという段階です。

    ですが、パートナーシップ・ファミリーシップ制度を導入する自治体が増え、過去と比較して社会もだいぶ変わってきているので、その点を理解してもらいたいと議論では発言しました。

    日本産科婦人科学会が行う提供精子を用いた人工授精(AID)は70年以上も前から実施されており、これまでに1万人以上の子どもが生まれたとされています。大人になってこの事実を知り、大きなショックと憤りを感じた一部の当事者たちが、自分の「出自を知る権利」を訴えています。

     
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    「生殖補助医療の在り方を考える議員連盟」の幹事長・秋野公造さん(後列の左)と面談。

    --世界中で、少しずつ家族のあり方が多様になってきています。今後、どんな社会になっていってほしいですか?

    「違いをそのまま受け入れられる社会」になって欲しいなと思っています。

    よく「なぜ子どもが欲しいの?」って聞かれるんですけど、異性カップルだったらそんな質問されませんよね。私とパートナーが同性カップルであるが故に、高い倫理観を押し付けられ、足りないところばかり指摘されてしまう。

    「生まれてくる子どもがかわいそう」とジャッジするのではなくて、せめて見守って欲しいという思いがあります。かわいそうという概念は、周囲が作るものなんだと気づいてもらいたいです。

    あと、「子どもを持たない」という選択肢があることも知って欲しいですね。この活動をしていると、まるで子どもがいることが正義であるかのように、自分自身でかけたプレッシャーに押しつぶされそうになっている人にも出会います。人生には色々な選択肢があることや、自分を幸せにすることを忘れないでください。

     
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    東京の足立区で導入されたパートナーシップ・ファミリー制度で、パートナーの茂田まみこさん(40歳)さんとの関係が公認されました。


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