イギリスの与党・保守党は9月5日(現地時間)、ボリス・ジョンソン氏の後任となる新たな党首にリズ・トラス氏を選出した。これにより、イギリスでは史上3人目の女性首相が誕生することになる。そのトラス氏とは、一体どのような人なのだろう? 国会議員としての彼女はこれまで、どのような法案に賛成、または反対してきたのだろうか?

党員投票の結果が発表された後に行ったスピーチでトラス氏は、「友人」であるジョンソン氏に「感謝したい」として、「ブレグジット(欧州連合からの離脱)を成し遂げ」、「(ロシアの)ウラジミール・プーチン大統領に立ち向かった」と称賛。党首に決定するまでのプロセスについては、「最も長い採用面接」だったと述べている。

トラス氏はスピーチで、保守党は「地球上で最も素晴らしい政党」だと称えた。ただ、イギリスは現在、「生活費の危機」に直面している。食費が高騰するなか、フードバンクの利用者が急増し、公共交通から郵便まで幅広い業界でストライキが行われるなど、数々の問題に悩まされている。

liz trusspinterest
Ian Forsyth//Getty Images

トラス氏はどんな人?

会計士の資格を持つメアリー・エリザベス・トラス氏は、かなりの経歴の持ち主。2010年の総選挙で、サウス・ウェスト・ノーフォーク選挙区で立候補し、当選した。

2019年から女性・平等担当大臣(“副業”扱いしていると批判の声も多かったとか……)、2021年から外務・英連邦・開発大臣を務めている。また、デーヴィッド・キャメロン、テリーザ・メイ両首相のもとでも、閣僚を歴任している。

私生活では、会計士のヒュー・オリアリー氏と2010年に結婚。2人の子どもがいる(2004~2005年半ばまで、同じ保守党所属のマーク・フィールド議員と不倫関係にあったことが報じられている)。

重要な政策への姿勢は?

LGBT+の権利

トラス氏はこれまで一貫して、同性婚に賛成してきた。しかし、 トランスジェンダーのコミュニティと向き合う姿勢が問題視されている。今年8月に出演したテレビ番組で「トランス女性は女性?」と問われたトラス氏は、「違う」と答えている。

ブレグジット

当初は欧州連合(EU)残留を支持し、活動していたトラス氏だが、国民投票で離脱が決まると、積極的に離脱派に転向。「手のひらを返した」との批判も受けた。

国会での採決における各議員の投票などについて情報を提供するウェブサイト『They Work For You』によると、トラス氏はさらなるEUの統合については概して反対している。また、イギリス在住のEU圏の人たちがイギリスに残る権利を得ることにも反対している。

教育

大学の授業料の上限の引き上げについては、2010年には年間9000ポンド(約146万円)とすることに賛成したものの、このとき以外は反対票を投じている。

住宅

現在イギリスの、特に大都市では、家賃は場合によって天文学的な数字になる。ただ、トラス氏の過去の投票記録をみると、(この数字の上昇を助長している)仲介業者の手数料に上限を設けることについて、彼女はほぼ一貫して反対票を投じている。

生活保護

生活保護に頼る人への支援をより厚くすることには、賛成ではないもよう。物価が上昇すれば、少なくともそれに合わせて支給額を引き上げるという案にも、常に反対している。

気候変動

『They Work For You』によると、運輸部門の排出量を2030年までに大幅に削減するための計画の策定と実施を政府に求める法案に反対するなど、地球を守るための政策にも一貫して反対している。

その他の問題については?

中絶

北アイルランドでは人工妊娠中絶を再び禁止すべきとの議論があり、トラス氏はこれに反対している。ただ、アメリカで中絶の権利を認めた「ロー対ウェイド判決」が覆されたことについては沈黙を保っており、その態度には批判の声もある。

女性への暴力

トラス氏が女性平等担当大臣を務めていた間、レイプで有罪判決が下されるケースは史上最も少ない数に減少した(レイプ被害は増えた一方で、有罪判決は半分以下になったという報告も)。若い女性が殺害される事件が多数発生するなか、多くの人が恐怖を感じていた。

これについてトラス氏は、警官の訓練を強化し、法によって罰せられる行為を新たに定め、レイプ被害の届け出と家庭内暴力の加害者登録の手続きをより迅速に行うこと可能にすることで、「被害者を確実に保護し、犯罪を未然に防げるようにする」と述べている。

しかし、女性をサポートするチャリティ団体「Refuge」はトラス氏に対し、さらなる積極性を求めていた。

「生活費の危機」

トラス氏は党首選で、国民の生活を助けるため、300億ポンド(約4兆9000億円)規模の減税を行うことを公約に掲げた。ただ、寒さが増すににつれて光熱費がかさみ、さらに悪化していくとみられる状況にどのように対応していくのかについて、具体的な計画は明らかにしていない。

From COSMOPOLITAN UK