一生のうち、女性の約75%が経験するという性交痛。なかなか人に話しづらい悩みだからこそ、一人で悩んでしまっている人もいるかもしれません。

本記事では、性交痛を軽減するためのアイテム「Ohnut(オーナット)」を生み出し、ブランドを立ち上げたエミリー・ザウアーさんに、ブランドができるまでの道のりやブランドに込めた想いについてお聞きしました。

エミリー・ザウアーさん

エミリーさん
Emily Sauer
ずっと人と人とのつながりに刺激を与えるものを作ることに熱意を感じていた起業家のエミリーさん。「Ohnut」の開発中に、骨盤の健康問題に関心がある人々や専門家をつなげるため、「Lady Bits League」や「Pain Perception Project」、「Pelvic Gym」という団体を共同で立ち上げる。元々はカメラマンとして活動していたが、現在は誇り高き起業家、メーカー、コミュニティーリーダー、患者のサポーターとして活躍中。

性交痛に悩む自分を責めるように…

――「Ohnut」開発のきっかけを教えてください

「Ohnut」を作ったキッカケは「セックス中に痛みを感じるときがある」という、誰にも話せない秘密があったからです。

10年以上もの間に様々な産婦人科に行きましたが一向に解決策は見つからず、思い通りにセックスを楽しめない現実から、自分を責めてしまうようになりました。当時の私は、同じ悩みをもつ他の多くの人と同じように、「こんな経験をしているのは自分だけだ」と思い込んでいたんです。

だから、自宅で使える性器の挿入時の深さをコントロールできる器具を作れたときには、身体的な効果だけでなく、気持ちに大きな変化があったことを実感しました。そこから医学会に出席するようになり、メディカルアドバイザリーボード(医学の専門家から意見を収集する会議)も導入しました。

こうして「Ohnut」は、ベッドのお供でありながら、教育のためのツールにもなりました。「Ohnut」は、多くの人が抱える悩みを表すため、自分を大切にするため、人と人がより深く理解し合うための助けになるものです。

――性交痛についてパートナーに言えなかった当時の心境を教えてください。

痛みを感じてセックスを思うように楽しめないせいで、自己肯定感が下がってしまうことがありました。ただ、私が悩みを抱えているのに何も言わないでいることにパートナーは気づいていて、「いつどのように痛みを感じるのか教えてほしい」と懇願されたことを覚えています。

それでも、何年も話せなかったことを打ち明けることは、とても勇気のいることでしたね。今でも難しいことだと感じています。

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感情を無視した製品ばかりの現実

――「自己肯定感」と「セックス」にはどのような関係があるのでしょうか?

自己肯定感が高いと、パートナーと健全なコミュニケーションをとりやすく、バウンダリー(心の境界線)を設けて互いを尊重することができます。それによって、セックスの体験もポジティブなものになりやすいんです。

その一方で、自己肯定感が低いと、ネガティブなセックス体験に繋がりやすく、感情的にもかなり不安定になります。“羞恥心”や“罪悪感”をもってしまったり、“自信喪失”に陥ったりして、「セックスで喜びを感じる権利がないんだ」という気持ちになる場合もあります。

また、「自分に価値があると思いたい」「受け入れられたい」などの考えから、望ましくない決断をしてしまう人もいるかもしれません。これらの気持ちは自己肯定感や自分の身体、パートナーとの関係性へもネガティブな影響を及ぼします。こういった問題に対して「バイブレーターやピルの服用でセックスの悩みが全て解決する」と言う人がいますが、そんなことはありません。

世間には、「長く、深く、硬い男性器のほうがセックスには良い」という風潮があります。さらに多くの人が「深いオーガズムの方が良い」「これまで経験したことがないほどの快感を追い求めるべき」という考えをもっています。オーガズムに固執しているせいで、パフォーマンスに必要な居心地の良い雰囲気づくりが欠けてしまっていることも少なくありません。

また、セックスに関する商品の多くは身体的な部分にフォーカスしており、自己肯定感などの精神的な部分を無視しています。そして、そういった商品は従来、男性器へのアプローチを目的に考えられたものばかりです。

しかし、セックスは生物学的(ホルモン、身体的尊厳)、精神的(感情、ボディイメージ)、社会的(文化的価値、宗教的信念)な全ての要素が重要です。 これらの3つの要素を無視することは、私たちが複雑な感情を抱く人間であるということを無視しているのと同じです。

バイブレーター1つで、全ての問題が解決できるわけではありません。でも、セックスに対する不快感を解消する製品は、悩みを抱えている人が存在することの証明であり、身体の健康問題への意識を変えるでしょう。セックスの悩みを元に作られた製品を使ってはじめて、少しだけ問題の解決につながるんです。

セックスに悩む人たちの“目的地”

――セックスに関して悩みを抱えている人へ、アドバイスをお願いします。

寝室やお店、病院での会話のなかでさえ、性交痛について語られることは多くありません。そのせいで、性交痛は多くの人が抱えている悩みだということを知ることができないのです。

私が学んだところによれば、実際に75%の女性が、生涯で一度はセックス中に痛みを経験します。さらにそのなかの33%の女性は、直近のセックスで痛みがあったと回答しています。それでも半分以上の人がパートナーに話せていないのが現実です。

女性や、女性器をもつ人にとって「骨盤の健康」はとても大切なことなのに、今までずっと影に隠れていました。私たちは、痛みを“普通のこと”だと思わされ、そのことに早い時点で気づくための教育も欠けていて、適切なケアをすることすら身近ではありません。

そんななかで生まれた「Ohnut」は、問題に対する意識を変えるきっかけになると思います。私たちは、全ての人が自分の健康のために自分で選択できるような、包括的なコミュニケーションを促進しています。

セックスの痛みについて打ち明ける最も簡単な方法は、役立つ記事や動画、製品など、何かを介して話してみることです。「Ohnut」を使うことで、打ち明けるきっかけを作りやすいはず。

――「Ohnut」を通して伝えたい想いを教えてください。

多くの女性たちが、セックス中に痛みを感じている現実があり、「辛すぎる」と感じたときに私たちの製品を手に取ってくれることがあります。私たちは、同じ経験をを持つ女性が作った会社として、人々の声に耳を傾けているのです。

「Ohnut」を使っている人は、皆が“性交痛を経験したことがある仲間”です。痛みを伴うセックスは、恥ずかしいことではなく、受け入れられ、もっとたくさんの人に知られるべきものであると思っています。

「Ohnut」は女性の身体のために作られた、医学的に安全性が保証された製品です。私たちはこれを通して、同じ悩みをもつ人達とのつながりを感じ、自信を取り戻すことができます。そして「Ohnut」は、臨床医たちと共に、変化するセックスの悩みや不快感を解消するための新しいツールを作り続け、セックスの痛みに悩む人たちが行きつく“目的地”であり続けます。


Ohnut(オーナット)

創設者のエミリーさん自身の経験から生まれたアメリカ発のブランド。柔らかくて良く伸びる素材でできたリングは、装着するだけで挿入の深さを調節することができます。性交痛の悩みを解消するだけでなく、パートナーとのコミュニケーションをより良いものにする手助けをしてくれるアイテムでもあります。

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