ホームレスを経験し、過酷な生活環境にあった少年がとある家族との出会いをきっかけに自らの才能を開花させ、NFL選手になるまでを描いた映画『しあわせの隠れ場所』。実話に基づいたストーリーであることで世界的な感動を呼び、母親を演じたサンドラ・ブロックがアカデミー賞主演女優賞を受賞している作品でもある。

このモデルとなっている元NFL選手のマイケル・オアーが、彼を引き取った夫妻を訴えていることが明らかに。

興行収入3億ドル超えの大ヒット作に

映画『しあわせの隠れ場所』の作中では、雨の中を凍えそうな格好でひとり歩いているマイケルを家に泊め、そのまま面倒をみることに決める一家。その後もマイケルをサポートしつづけ、一家もマイケルの力によって変わっていく。

同作は当時だけでも興行収入3億ドル(約437億円)となり大ヒット。Netflixやプライムビデオなど、現在も多くのストリーミングサービスで配信されている。

しあわせの隠れ場所
Aflo

「養子として迎えた」は嘘だった

数々の里親の元を転々とし、不安定な生活を送っていたという子供時代のマイケルは、リー・アン・テューイと夫ショーン・テューイとの出会いにより、二人の実子を含めた家で共に暮らすように。

一家が「マイケルは養子として迎えた」と話してきた一方で、マイケルの訴えによれば事実は異なり、後見人制度(生活や財産を後見人が保護・管理する制度)だったことを告発している。また、映画による印税などの収益についてはマイケルに一切支払われていないことも訴えの一つとしている。

マイケルは今月テネシー州の裁判所に法的申立てを行い、後見人制度の解除を求めている。その書類には「養子になれると騙された」との内容が記されていると<CNBC>などの現地メディアが伝えている。

「養子縁組に関わる嘘が基となり、マイケルが犠牲になることで、共同後見人のリー・アン・テューイとショーン・テューイが金銭を得ることになりました」
mississippi state v mississippi
Matthew Sharpe//Getty Images
2008年に撮影された、マイケルとテューイ夫妻。

映画化による収入はマイケルには支払われず…

2004年に18歳だったマイケルは、当時サインした書類が養子縁組の手続きではなく、自身の法的権利を失う後見人制度の書類であったことを知らされておらず、その事実を今年2月に知ったという。テューイ夫妻は「養子になることと被後見人になることに“結果的な違いはない”」とマイケルに伝えたほか、彼の名前を利用してビジネスをする法的権限を手に入れたと、マイケルは訴えている。

また、申し立てには、テューイ夫妻は映画化により、22万5000ドル(約3300万円)とその後の収益から2.5%の印税を得るという契約を結んだこと、マイケルには一切の支払いがないことなどが書かれているという。

裏切られたという強い想いから提訴へ

スポーツ専門チャンネルの「ESPN」が報じたところによると、以前から映画を通して夫妻が“金儲け”をしていると感じていたというマイケル。疑惑に対し夫妻は真剣に話そうとしなかったほか、映画が公開された2009年はマイケルがNFL選手としてのキャリアをスタートさせた時期と重なり、自分でお金を稼ぐようになったことやアスリートとしての多忙さから、その実態を調べる時間がなかったという。

マイケルはこれまで一家とは親しい関係を続けてきたそうで、「テューイ家の息子に車をプレゼントしたり、娘のビジネス立ち上げも支援した」と弁護士が明かしている「救ってくれたことから一家への愛情があったが、裏切られたという強い想いから提訴を決意した」という。

nfl jan 03 ravens at raiders
Icon Sports Wire//Getty Images

テューイ夫妻もコメントを発表

現地メディア<Daily Memphian>の取材に応じたショーン・テューイは、今回の訴えについて一部を否定するコメントを出している。

「子どもを利用してお金を稼ぐなんて、考えるだけで悲しい。でも、16歳のマイケルを愛したように、37歳のマイケルも愛しますよ。(映画化にあたり)マイケルを含んだみんなが均等にお金を受け取りました。1人およそ1万4000ドル(約200万円)でした。我々から金銭を要求したことは一度もありません。すべて書類も揃っています」

養子縁組ではなく後見人制度を利用したことについてはこのように話している。

「マイケルとは長期間一緒に暮らしていたのですが、全米大学体育協会はそのことを問題にしました。マイケルがミシシッピ大学に入学するには、実際の家族の一員でなければならないと言われたのです。そのことについて話し合い、『この制度を利用すれば法的に家族になれる』と説明しました。弁護士に相談したところ、(当時は)18歳以上だと養子縁組はできないこと、後見人制度が唯一の方法であると言われましたので。我々自身も不安だったので、マイケルの実の母にも裁判所に来てもらいました」

後見人制度については、近年アメリカで度々物議を醸しており、2021年にはブリトニー・スピアーズが父親ジェイミー・スピアーズが後見人となったことから、10年以上にわたって資産や結婚、妊娠まで管理されていたことを告発し、解任を求めたことも記憶に新しい。