インターネットやSNSに溢れるコンテンツから、情報やニュースを受け取っている人は多いはず。ただ、楽しく便利に利用できる一方で、行きすぎた承認欲求によるプライベートの悪ふざけや、他人を不快にさせてしまう投稿が拡散されてしまう場合もあります。
そして、そのようにしてインターネット上に一度出てしまった情報は「デジタルタトゥー」として残り続けてしまうことも。
今回は、デジタルタトゥーの危険性や、デジタルタトゥーを残さないために気をつけたいことを、モノリス法律事務所の代表弁護士、河瀬季さんにお聞きしました。日常生活にはどんな影響が?
【INDEX】
- デジタルタトゥーとは
- デジタルタトゥーの種類
- デジタルタトゥーの影響
- デジタルタトゥーを消したいとき
- インターネット上の情報を削除する方法
- 第三者の拡散による「被害者」と「加害者」の関係性
- 情報をインターネット上で公開するときの注意点
デジタルタトゥーとは
一般的に知られている「タトゥー」が、一度体に入れると消しにくいものであることになぞらえて、SNSやインターネット上に一度あげられた文章や画像、動画などの情報が残り続けることを「デジタルタトゥー」と呼びます。
これは、2000年代あたりから広まりはじめたネットスラングで、近年頻発しているSNSに投稿された悪ふざけ動画の拡散による炎上から、現在改めて注目されている言葉です。
河瀬先生は、情報がデジタルタトゥーとしてインターネット上に残ってしまう仕組みを次のように説明。
「インターネット上にアップされたものは、基本的に残ってしまいます。サイトの閉鎖や、サイトページ・SNS投稿の削除など、何かアクションを起こせば情報が消える場合もありますが、そうでもしない限り、何年経っても残り続けることになるのです」
また、ウェブサイトやブログのページ、SNSの投稿をサーバー上から削除できたとしても、個人のパソコンやクラウド、スマートフォンに保存されている可能性があるので、インターネット上から完全にコンテンツを削除するのは難しいとされています。
デジタルタトゥーの種類
実際のデジタルタトゥーの事例は、当事者が「自ら公開した情報」と「自分は望んでいないのに公開されてしまった情報」の2つに大きく分けられます。
ここからは、その分類に「自分に非があるか・ないか」という視点を加えて、4つに種類分けした事例をみていきましょう。
自ら公開して、自分に非がない事例
インターネット上で公開した文章や画像、動画の内容自体に問題はないものの、画像に付随する位置情報や個人情報を誤って載せてしまうケース。
このようなプライベートな情報も、デジタルタトゥーになりえます。
自ら公開して、自分に非がある事例
これには、自分で公開・投稿した悪口や誹謗中傷が拡散されてしまうケースが該当します。他者に拡散されることによって、自分の発信した意図とは違う、歪曲した解釈をされてしまうことも。
また、いわゆる世間で“バカッター”と呼ばれるような、バズることを狙った、いきすぎた迷惑行為や犯罪行為をインターネット上で自ら公開する人たちも、SNSにおける大きな問題となっています。
望まないのに公開された、自分に非がない事例
これには、個人への嫌がらせや復讐を目的に、勝手にネット上に情報が公開されてしまうケースが該当します。
たとえば、過去の交際相手や、性的な関係をもった相手などに撮影された動画や画像、音声などを公開されてしまう「リベンジポルノ」がこれに当たります。
第三者が「誰を撮影したものなのか」という特定ができるような方法で、世間に向けて画像や動画を公開した者には、「リベンジポルノ防止法」により、最大で3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性も。
望まないのに公開された、自分に非がある事例
ニュースで報道された容疑者や被告人の情報、または前科がネット上に出回るのは、デジタルタトゥーの問題の1つ。他にも、芸能人やインフルエンサーなどの過去の不祥事やプライベートな情報が出回ることで、その著名人の評判や仕事の存続に影響を及ぼすこともあります。
ただ、こういった事例のなかには、デジタルタトゥーの当事者に非があると言える明らかな犯罪行為や不祥事などではなく、メディアや個人の行き過ぎた情報の詮索によって、プライバシーに関わる情報がネットに晒されている場合も少なくないそう。
新たな問題になりそうな事例
最近は、上述した4種類のデジタルタトゥーとは別に、デジタルタトゥーにまつわる潜在的な問題も浮き彫りになってきています。
デジタルタトゥーの危険性がまだ自分で判断できない子どもの写真や動画などの情報を、両親がインターネットに投稿する行為などは、デジタルタトゥーの新たな問題になる可能性が高いとのこと。
「両親が子どものプライバシーを無視していいのか、という話は当然あります。Instagram映えのために、自分の子どもを道具のように扱っている人もいますよね」
「その両親を第三者が必要以上に叩くことは誹謗中傷に当たりますが、『両親が発信した情報がネット上に蓄積されて、子どもが成人して気づいたきには、かなりの情報がインターネット上に存在している』という状況は問題でしょう」
デジタルタトゥーの影響
デジタルタトゥーの危険性として多く語られるのが、私生活にマイナスな影響を及ぼす可能性が高いこと。河瀬先生は、「就職・転職活動において、インターネット上で実名を検索して出てきた情報をもとに、不採用につながるケースもある」と話します。
「求職者のバックグラウンドチェックや、SNSのアカウント調査サービスを取り入れている企業もあります。内定が出たあとに取り消しになるケースはかなりレアですが、選考の段階で理由を明かされずに不採用になるケースも考えられるでしょう」
他にも、家を借りるときの入居審査が通らない可能性もあるそう。また、結婚するときにインターネット情報を調べられ、デジタルタトゥーが原因で破綻になってしまう可能性も。
デジタルタトゥーを消したいとき
ネット上に自分の情報がデジタルタトゥーとして残り続けることを考えると、情報の削除を考える人が多いはず。ただ河瀬先生は、情報の削除を希望する前に一度、「自分に削除を求める権利があるのかどうか(自分に非はなかったか)」を考えることが大切だと言います。
「たとえば、殺人事件を犯した人の公的に記録されている犯罪歴や情報を、本人が求めたからといって全て消すことは可能でしょうか。『そもそも削除を求める権利があるのかどうか』というのは、とても曖昧な問題です」
ただ、自分が望んでいないのに公開された、自分に非がない情報もあるはず。そういった情報の削除を求めるときは、弁護士に相談すれば適切な対処ができます。まずは、「そもそも削除を求める権利があるのか」ということを今一度考えたうえで相談してみましょう。
インターネット上の情報を削除する方法
デジタルタトゥーは、特に検索エンジンで実名を検索して辿りついた情報が、日常生活に影響を及ぼすものになります。つまり、「インターネット上から自分の情報を消す」というのは、実名で検索してヒットした情報を消すことが重要になってきます。
たとえばリベンジポルノが世に出回った場合、コンテンツが拡散され、1時間のうちに1〜2人程度に向けて発信されているような状況であれば、完全に削除できる可能性が高いです。しかし、個人単位で自分に関する不利な情報を発見し、すぐに弁護士に相談できる人は少ないのが現実だそう。
河瀬先生は、「時間が経ってしまったら情報を完全に削除するのは難しい」とし、次のように話します。
「動画がアップロードされた直後と、公開されてから数年後とでは、アプローチがまったく異なります。アップロードされた直後は、まずは『情報の拡散を食い止める』ための対策をとることが重要になります」
「一方、公開されてから時間が経過している場合は、インターネットという“広い海”のなかで、『情報をすべて消す』というよりも、名前を検索したときに情報にヒットさせないように考えます。」
第三者の拡散による「被害者」と「加害者」の関係性
昨今問題視されている、公共の場での迷惑行為。これに伴って、SNSでは第三者が迷惑行為を収めた動画を拡散し、迷惑行為をした張本人の個人情報も一緒に晒されてしまうことが珍しくなく、誰が「被害者」で誰が「加害者」なのかがわかりづらい構図になっています。
河瀬先生によると、このようなケースでは、一つひとつの状況を分けて「加害者」と「被害者」を考える必要があるそう。
「ネット上の“炎上”を1つの出来事として捉えようとすると、被害者と加害者の関係性が見えにくくなりますが、一つひとつの状況を個別に見ることで、その関係性がわかりやすくなります」
「たとえば、お店への迷惑行為や犯罪行為をした人は、店との関係性では加害者となり、被害者から損害賠償を受ける可能性があります。だとしても、第三者が事実に尾ヒレをつけてその人を誹謗中傷した場合、その部分については、炎上した人が被害者となり、誹謗中傷をした第三者が加害者になります」
情報をインターネット上で公開するときの注意点
将来振り返ったときに、自分にとって不利益となるような情報を残さないために、インターネットは、「世界中の誰が見るかわからない」ということを念頭において利用しましょう。
インターネットには、いろんな価値観や考え方、背景を抱えた人がアクセスできるため、コンテンツを見たときに自分の意図とは反する捉え方をされてしまうこともあります。ネガティブな目線で見られる可能性も想定して、よく気をつけてインターネットと向き合う意識が大切です。
また、最近のインターネットでの“炎上”には、新たな変化が見られるそう。
「2022年あたりから、“炎上させていい”と世間が認識している有名人のラインが、より一層低くなっていると感じています」
「これまではある一定数の知名度がある芸能人や、100万人以上の登録者数がいるYouTuber、上場企業の経営者のような著名人などが不適切な行為をしたら炎上していました。一方で現在は、SNSで数百人、数千人単位のフォロワーを抱えるような比較的小規模なアカウントでも、炎上する可能性が高まっています」
「自分も炎上の的になるリスクがあることを心に留めて、今一度『この情報を公開しても問題ないかどうか』を考えてから、インターネットを利用するようにしましょう」