魔法の世界を舞台に、愛や友情、勇気を描いた『ハリー・ポッター』シリーズ。その作者であるJ・K・ローリングは、2019年頃から度々トランスジェンダーの人々への差別的な発言を行い物議を醸している。

その影響から、同作品のファンであるLGBTQ+当事者やアライ(同盟や支援、味方などを意味する)の中では、作品と著者の思想を切り離して考えるべきかという点が議論されることも。

そんな中、シアトルにある有名な博物館が展示物から「J・K・ローリング」の記述を削除したことが明らかに。『ハリポタ』の熱狂的ファンだったというキュレーターが綴ったニュースレターでは、記述の削除に至った経緯が記されている。

トランス嫌悪ととられる言動を繰り返し…

2019年12月、とあるイギリス人女性が「トランスジェンダー女性のことを“男性”と表現しながら差別的な発言をSNSで繰り返したこと」が原因で職を失ったニュースが報じられると、これにJ・K・ローリングがSNSで反応。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

「どんな服装をしても、自分をどのように表現しようと、誰と寝てもいいし、人生を楽しんでほしい。でも、『生物学的性別は存在する』と発信した女性から職を奪うなんて信じられない」と投稿。この投稿が議論を呼び、中には「あなたがトランスジェンダー嫌悪だなんて知らなかった。子どもの頃から大ファンだったから、すごく辛いです」というコメントも寄せられていた。

ある時には、「トランスジェンダーの人々を愛しているし、サポートしている」と投稿したこともあるJ・K・ローリング。一方で、女装した男性がサイコキラーであるという小説『Troubled Blood』を別名義で出版したことや、「TERFの闘い(TERF:トランスジェンダーを排除するラディカルフェミニストを意味する)」という言葉と共に、自身のブログで“生物学的性別の存在”を支持することを綴ったことも。

こういった言動から、反トランスジェンダー思想の人々から持ち上げられることも増えており、実際に“感謝”のメッセージをもらうことも多いと本人も綴っている。一方で、『ハリー・ポッター』作品の出演者たちがJ・K・ローリングの発言を批判するなど、LGBTQ+当事者やトランスアライを表明している人々からは敬遠される存在になっている。

「問題なのは、“例のあの人”」

これらの経緯から、 シアトルに位置し、ポップカルチャーを扱う人気博物館である「ミュージアム・オブ・ポップカルチャー」は、J・K・ローリングに関する展示や記述を博物館から削除することを決断。

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View Pictures//Getty Images
シアトルにある「Museum of Pop Culture(ミュージアム・オブ・ポップカルチャー)」。

博物館の公式ブログに寄稿したのは従業員の一人で、「シアトル・トランスとノンバイナリー合唱アンサンブル」のボードメンバーである人物。そして、「元ハリーポッターの熱狂的ファン」だと綴っている。

この人物はキュレーターチームと協力し、ファンタジーコーナーにある『ハリー・ポッター』関連の展示からJ・K・ローリングの記述を削除することに決定したと報告。

「簡単に解決できる問題ではないため、どう対処するべきか悩みました。チーム内でも何度も話し合いの場を設けましたし、今後また新たな人物やコンテンツが問題となったときにどのような対応をするべきなのか、じっくりと話し合っています」
「我々は、俳優や小道具製作者、コスチュームデザイナーの仕事や作品は称賛したいと考えています。問題なのは、“例のあの人(J・K・ローリング)”であり、我々の博物館では、彼女の写真や名前を見ることはできなくなりました」
「(出演者である)ダニエル・ラドクリフやエマ・ワトソン、ルパート・グリントはLGBTQ+をサポートしていることをはっきりと発言しています。原作者がひどいからという理由で、彼らの仕事を無視するべきなのでしょうか。アートと人物を切り離して考える、ということでもありません。ただ、評価されるべき人を評価したいのです」

また、別の展示である「殿堂入りコーナー」には、J・K・ローリングや過去に問題を起こした人物も残っていることを明かしている。その理由は、「殿堂入り」は元々は他の団体が始めたものが2004年にこの博物館内に移動されたものであること、さらに一般投票で決まったものという、複雑な事情が絡んでいるからだとも明かしている。

そして「完璧な解決策ではない」としながらも、今後は「将来的にはギャラリー内にQRコードなどを設置して情報を追加していきたい」とも綴っている。