体型に対する多様な価値観が広がる一方で、世間では肥満に対する恐怖や嫌悪感をもつ「ファットフォビア(肥満恐怖症)」も横行。そして、健康のためと称して太った人の体型を侮辱する「ファットシェイミング」が、実生活やSNSの世界でも未だ蔓延っています。

そんな露骨な嫌悪感だけでなく、実は「ウエストが細く見える」という売り文句などの何気ない仕草にも、「ファットフォビア」が潜んでいると言われています。今回は、そんなファットフォビアが与える悪影響を、<グッド・ハウスキーピング>より解説。

【INDEX】


ファットフォビアとは?

ファットフォビアとは、肥満体型への恐怖や嫌悪のこと。

「ファットフォビアは、『太った人は怠惰で知能も低く、周囲に嫌悪感を抱かせる』といった考えなど、太った人に対するあらゆる偏見やネガティブな思い込みを内包しています」と説明するのは、体重に対する偏見が健康に与える影響を研究している、ケント州立大学助教授のメアリー・ヒメルスタイン博士。

また作家であり、「ダイエットカルチャーとの決別」をテーマにしたポッドキャストを展開していたヴァージー・トーヴァーさんも、以下のように名言します。

「ファットフォビアは、体重の重い人は身体的、知的、道徳的、また、健康的にも劣っているとみなす一種の偏見であり、差別です。また、そうした一連の思い込みに基づく態度や行動もファットフォビアです」

ファットフォビアはなぜ生まれた?

ファットフォビアはさまざまな要因によって生じているため、由来は複雑。ですが歴史的に見て「体型と、富や階級との結びつきに関係がある」とヒメルスタイン博士。

食糧が不足していた時代には、ふくよかな体型は経済的余裕があることを表していると捉えられていました。近年は誰でも簡単に食べ物を入手できるようになったとはいえ、もっとも身近で手頃な選択肢は、どちらかというと高カロリーな加工食品に偏りがちです。一方で、高所得者は何を食べるか吟味して手料理を作ったり、運動する時間も十分にあります。

健康的な生鮮食品を買う経済的余裕もあるため、「今ではスリムな体が、富と階級の象徴となったのです」とヒメルスタイン博士は言うのです。

また、「これは社会の意識に関わる問題だ」とトーヴァーさん。

「体の大きさや太さは自己管理でどうにかなるものではないという考えも増えているのに、いまだに『体重の重い人は自己管理を怠っている』という間違った認識も根深い現状があります。体や健康を自分で管理せずに“向上”を拒むのは、実にネガティブな態度だとなぜかみなされます」
「アメリカでは個人主義的、自助努力的な価値観が根強く、『努力すれば不可能はない』と信じるように教わっています。だからこそ、体型管理に“失敗”し、健康への責任を放棄していると思い込んで、太っている人を攻撃します」

これは、「自分が教わってきたことのすべてに対する“裏切り”だと感じるため」なのだと説明します。

マイノリティに対してより強い偏見が…

体の大きな人は、絶えずファットフォビアの弊害を被っています。社会にあるさまざまな偏見と同じように、マイノリティであるほど、その弊害が大きくなることも。

たとえば「一般的に、メディアでは太った女性よりも太った男性の方がポジティブに扱われる」傾向があるという指摘も。それは、ほかのジェンダーの人と同じ体型をした女性がポジティブに扱われる例は、ほとんどないという実態も浮き彫りにします。

ほかにも、トーヴァーさんはこう説明します。

「『体重が重い』ことと、『有色人種』であることは、間違いなく交差する差別を生んでいます。賃金格差や医療差別だけでなく、体が大きいと警察から狙われやすいといった相関関係も増すと思われます。黒人やヒスパニックの男性・少年であれば、なおさらです」

黒人男性は体が大きいというイメージから、身長と体重が同じ白人男性よりも怖がられやすいという研究結果もでているのです。

体型を指摘するのは意図に限らずNG

「体型は健康状態の指標ではない」というのは大前提。しかし何気ない「ちょっと太った? 」とか「~は食べない方がいい」といった指摘さえも、健康に悪影響を与えていると言います。

こうした“助言”はその意図がどうであれ、正反対の結果をもたらすという研究結果もあるほど。

「体型批判を経験すると、不安やうつを引き起こしたり、ボディイメージ(自分の体に抱いている感覚や思い)や自尊心の低下させたりする症状が強くなる傾向にあります。体型を指摘することで、体型を変えさせるモチベーションになると勘違いしている人も多いのですが、これはまったくの誤りです」(トーヴァーさん)

実際は羞恥心によって運動意欲は低下するほか、体型批判によって過食やカロリー摂取量の増加と関連していることも明らかになっているそう。

ファットフォビアによる影響

女性は体重が増えると収入が減る

体重の増加が収入に与える影響を調べた2010年時点の研究によると、アメリカ人女性の場合、体重が増加すると給料が下がる可能性があるという結果が出ています。

ヴァンダービルト大学ロースクールが2016年に発表した論文によれば、「肥満」に分類される女性は、高齢者の介護や食品調理といった、低賃金で身体的負担が多い職に就いている傾向があるのだそう。

十分な医療ケアを受けられないことも

「太った女性が、ある病気と診断されたとします。その原因に肥満の“可能性がある”場合には、他の可能性は排除され、肥満が原因だと決めつけられることが多々あります」とヒメルスタイン博士。

つまり、体重バイアスによって適切な診断を下すために必要な検査や問診が省かれてしまう可能性があり、「体重を減らす努力をすれば病気が治るのではないか」と判断されやすいということ。

もちろん、医療現場におけるファットフォビアに抗おうとする医療従事者も存在します。ですが、外見や体重が大きな意味を持ってしまっていること社会で、偏見から完全に逃れるのは難しいこと。

研究によれば、太った女性の多くが、医師からの「ファットシェイミング(太っていることに関する誹謗中傷)」を受けて病院から完全に足が遠のいてしまうそう。具体的には、侮蔑的で横柄な診療や肥満に関する医師の知識不足、曖昧な判断、患者の体重と健康状態に関する思い込みなどがあるといいます。

これによって病気の発見が遅れ、治療が困難になるケースも多々あるのだとか。

さらなる健康被害を生む恐れ

ヒメルスタイン博士によれば、体重が同じであっても、体型批判を経験した女性とそうでない女性では、前者の方がより多くの慢性疾患を抱えやすいのだそう。

つまり、体脂肪の量ではなく「ファットフォビアそのものが、疾病負荷や死亡率の増加につながっているのです」と博士。その原因は、差別による弊害や侮辱の絶えない生活がもたらす、心理的なストレスだと考えられているそう。

「ストレスは段々と全身を蝕みます。体重が自分の“価値”を決めると思い込まされてしまっている人にとって、ファットフォビアの影響は特に危険です。“自分は体重が重いから価値がない”という考えをもってしまっては、健康を害する大きな懸念材料となり得ます」

ファットフォビアへの対処法

ファットフォビアと闘う方法はさまざま。攻撃を受けた人の中には言い返せる人もいれば、相手に直接気持ちをぶつけたくない(ぶつけられない)人もいるかもしれません。「それで構いません。自分を大事にするのに間違った方法はないんですから」と、トーヴァーさんは言います。

ここからは、世間にはびこるファットフォビアへの対抗法をいくつか紹介。

ダイエットの話をしない

日常会話では、食べ物や体型、そして流行りのダイエットが話題になりがちですが、これらはダイエット文化(痩せるためのダイエットを基本的にするべきだという価値観)を誘発するもの。

「まずは食べ物の話を控えてもらうことが重要」とトーヴァーさんは言い、職場は特にファットフォビアが蔓延していると警鐘を鳴らします。

「職場では、痩せたとかダイエットしたという話があちこちであがります。『ランチに何を食べよう』とか、『このチップスは太る』といった声も。ここであなたがどう感じるかは別ですが、そもそもそういった話は自分の胸にしまっておくべきなんです」

また職場で注意しなければならないもう1つの理由は、どんな体型の人でも食べ物やダイエットの話題を気にする可能性があるから。

「そうとはわからなくても、その場に摂食障害を患っている人がいるかもしれません。あなたのなにげない話が、誰かを傷つけている可能性があるのです。また、痩せた人も太った人も同じように食事の問題を抱えているため、体重の話題はその悩みを刺激しかねません」
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肯定や否定に関係なく、体型には触れない

褒め言葉のつもりであっても、その言葉は「大きな体は悪いこと」という考えを助長し、体の大きな人を間接的に貶める可能性が。「痩せた? 」と「きれいになった」は、同意語ではないのです。

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“アドバイス”を押しつけない

気遣いのつもりでも、押しつけがましい「健康アドバイス」は失礼にあたります。その人にとってよいことよりも、害となることの方が多いうえに、まったくの的外れである場合も。

「その人の体重やサイズを知っているからといって、健康状態が分かるわけではありません。体重が重いのは不健康だと思われていますが、この考えは誤りです。痩せ型でコレステロール値や血圧が高い人はいますし、太めで体調が良好な人もいるのです。このことを、繰り返し自分に言い聞かせる必要があります」(ヒメルスタイン博士)

さらに、「体の大きな人にアドバイスをしても、相手はそんなことは百も承知です。体重が多い人はたいてい慢性的にダイエットを繰り返し、食べることを怖がり、体重を減らそうとしているんですから」とトーヴァーさん。

「その人がどのような状況かはわかりません。以前からストレスを感じているかもしれないし、差別を克服しようとしているところかもしれません」

大抵の場合、健康状態の良し悪しについては、本人から口にしない限りは話題に出すべきではないとのこと。

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嫌なことはできるだけはっきりと伝える

ファットフォビアの直接の被害者であっても、ただ居合わせただけでも、状況に応じて被害を受けている人に声をかけたり、何かサポートできないかを考えてみてください。

また、加害者が「ただアドバイスしようとしただけ」と反論してきても、心のパーソナルスペースは人によって異なるもの。「あなたのアドバイスは役に立たない。二度と体重の話はしないでほしい」と遠慮なく伝えてよいのだと、ヒメルスタイン博士は指摘します。

周囲のモノや人を見直す

ファットフォビアの思考が染みつき、不快な思いをしている人は、情報を得る環境を見直してみて。「毎日、あるいは毎週のように関わったり影響を受けているモノや人について考えてみましょう」と、トーヴァーさん。

「人やソーシャルメディア、その他の媒体を見直し、そこから得る情報は何か、感情にどのように影響するか、それによって自分は自分をどう考えるようになったかを自問しましょう。自分の体型に嫌悪感を抱かせるモノや人に気づいたら、メモしておくのも有効です。それらと距離を置いたり関わらないようにして、気分を高めてくれるものに目を向けましょう」

なりたい自分をイメージして自分を励ます

「自分の体型に嫌悪を感じると言われ続けてきた女性が、考え方や感じ方を変えようとするのはかなり大変です」とヒメルスタイン博士。

もし自分に対して辛辣になっていることに気づいたら、初めは半信半疑でも、「私の体は尊重に値する」など、そうありたいと思うことを自分に言い聞かせるのがおすすめ。エクササイズをするなら、体重ではなく、別の目標やエクササイズ中の感覚にフォーカスして。

「痩せられなかった」という考えを捨てる

「あなたの体型は、あるべきままの自然な体型です。太っているのはけっして、自然で“正常”な体型から逸脱しているわけではありません。太った人はこれまでもいましたし、これからもいるんですから」とトーヴァーさんは語ります。

※本記事は、Hearst Magazinesが所有するメディアの記事を翻訳したものです。元記事に関連する文化的背景や文脈を踏まえたうえで、補足を含む編集や構成の変更等を行う場合があります。
Translation: Mari Watanabe(Office Miyazaki Inc.)
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