定期接種を受けなかった17~26歳の女性を対象に、厚生労働省は子宮頸がんワクチンの「キャッチアップ接種」を展開中です。

“キャッチアップ”という名の通り、 今回の目的は本来無料で受けられる期間に十分な情報が行き届かず受けていない世代に向けての「救済措置」として開始。子宮の入り口にできるがんである、子宮頸がんの原因とされるHPVウイルスの感染を防ぐ効果をもつワクチンを提供します。

大阪大学産婦人科医師である上田豊先生の監修のもと、ワクチンの安全性や受け方まで、改めてしっかり知りたい17の疑問に回答。

あわせて読みたい!マンガで解説

 

「キャッチアップ接種」ってなに?

Q1:誰が受けられるの?

厚生労働省は、2つの条件を満たす人を対象としています。

  • 誕生日が1997年4月2日~2007年4月1日の女性(現在17~26歳頃)
  • 過去にHPVワクチンの接種を合計3回受けていない

Q2:いつまで無料で受けられる?

対象の人が無料で受けられるのは、2025年3月まで。

ただ、間隔をあけて三回打つことで免疫が作られて完了となるので、接種を希望の人は早めに動きはじめることをおすすめします。

Q3:受けるために何をしたらいい?

住んでいる市町村から案内が届くので、そこから接種の具体的な方法は確認するのがベスト。市によっては、対象者に予診票や予防接種券を送付しているそう。

Q4:どこで受けられる?

定期接種・キャッチアップ接種ともに市町村と契約のある医療機関ならどこでも接種でが可能です。注射を腕に打つワクチンとなっていて、産婦人科以外にも、内科や小児科でもできます。

vaccination campaign concept vector flat person illustration pediatrician medicine woman doctor shot injection by syringe to girl design element for health care medical banner, poster, infographic
Anastasia Usenko

ワクチンは安全なもの?

Q5:HPVワクチンの安全性はどこで確認できる?

厚労省の調査では、これまで「ワクチンによる副反応」だと考えられていた多様な症状が、HPVワクチンを接種していない女子にも見られたと報告しています。名古屋市が行った接種者と非接種者の多様な症状の起こりやすさの調査でも、接種者だけに起こりやすいとされる症状はありませんでした。

副反応を含むHPVワクチンの情報は、厚労省のホームページに掲載されています。

厚生労働省のホームページを確認する

Q6:気をつけるべき副反応や打った後の体調の変化は?

接種箇所の痛みや赤みなどは50%以上で認められ、また全身性の反応としての発熱や接種時に失神を起こすことがあることも知られています。

HPVワクチンを接種したあとに気になる症状が出たときは、まずは接種医療機関など、地域の医療機関に相談するよう厚生労働省は推奨しています。

Q7:HPVワクチンにはどんな種類があるの?

HPVワクチンには、カバーできるウイルスの“型”(タイプのようなもの)の数が異なる3種類があります。 最も多くのタイプを予防する効果をもつのは、2021年に導入された9価HPVワクチン(シルガード9)。

HPVウイルスそのものは、200種類以上存在しています。9価のワクチンはそのなかから子宮頸がんの原因の80~90%を占める、9種類のHPV(6,11,16, 18, 31, 33, 45,52, 58型)の感染を予防できるそう。

※がんに関わるものとしては7種類のHPV(16, 18, 31, 33, 45, 52, 58型)

ワクチンの取りそろえは病院によって異なるので、定期接種・キャッチアップ接種ともに、事前に病院に聞くこともできます。また現状として男性が受けられるのは、4価(カーダシル)のみ。日本では、9価はまだ男性への接種が承認されていません。

Q8:HPVウイルスの予防率は?

国内外の多くの臨床試験で、HPV感染の予防効果では100%近い有効性が示されています

季節性のインフルエンザや新型コロナウイルスのワクチンなどは、打つことで“症状を軽減”する効果もありますが、HPVワクチンはカバーする型については、試験によって100%の結果であったものが。ただし、一部は防げなかった感染もあります。

Q9:ワクチンで防げないタイプのHPVウイルスに対しての対処方は?

子宮頸がん検診によって、細胞の異常を早く検出することが大切です。前がん病変のうちに(がんになる前に)診断されると、子宮全摘出術や放射線療法は避けられます。

男性や子宮のない人にも大切なこと

Q10:性交の経験があっても打ってもいい?

HPVは基本的には性交渉で感染しますので、最初に性交渉をもつ前に接種することが最も有効です。しかし海外で行われた臨床試験では、45歳までの女性を対象としてHPVワクチンの有効性が示されています。

※挿入を伴う行為やオーラルなども含む

なおコンドームを着用しても、感染している部分が終始覆われていない限り、完全な予防は厳しいとみられています。

ただし性交渉の有無に関わらず、年齢が若いときに接種する方が抗体価はつきやすいのも事実です。

Q11:検査で「陽性」とでたことがあっても、ワクチン接種はできる?

ワクチンはすでに感染しているウイルスに対して、治療をするといった効果はもっていません。しかし他のかかっていない型に対しては、予防の効果があります。

Q12:一般的に自費で接種するとなった場合の費用は?

クリニックによって異なりますが、だいたい2価(サーバリックス)・4価(ガーダシル)が3回で5万円程度、9価のシルガードは10万円程度となっています。

Q13:男性や子宮のない人でも受けることが大切な理由は?

男性や子宮のない人も、HPVに感染するとがんが発生する可能性があります。主ながんは、中咽頭がん・肛門がん・陰茎がんなど。

男性におけるHPV関連のがんの発生率は、増加する傾向にあるのだとか。また男性での接種が進むと、女性のHPV感染も減少することが期待されています。

ワクチンを巡って何が起こっている?

Q14:なぜ「キャッチアップ接種」を実施しているの?

日本でHPVワクチンが導入されたのは2009年のこと。2010年度からは中学生や高校生を対象とした「公費助成」が始まり、2013年度からは定期接種となりました。しかしHPVワクチン接種後に起こったとされる“多様な症状”について、そこだけに焦点を当てた報道が繰り返えされるように。

当時厚労省では、ワクチン接種の効果と比較した上で定期接種を中止するほどリスクが高いとは評価されませんでしたが、適切な情報提供ができるまでの間は「積極的な勧奨」を一時的に差し控えるべきとされました。

このように、「積極的な推奨」が控えられて定期接種の案内を行わなかった期間は、約9年にわたります。その後、国内外でさまざまなデータが集められるように。

安全性についての懸念が解消されはじめ、接種による有効性が副反応のリスクを明らかに上回ると判断されたことで、今回救済措置がなされたのです。

Q15:推奨を見送っていた期間があったことで、約何人が将来のHPV感染のリスクやそれに伴う子宮頸がん発症のリスクをおうことになる? 

上田先生らが行った試算では、「2000~2005年度生まれの女性では、ワクチンを接種しなかったことで子宮頸がんに罹患する人は計約27000人増加し、死亡する人が計約6600人増加する」とでているそう。

ただし「キャッチアップ接種」次第では、この数は一部低減される可能性はあるとみられています。

Q16:海外と比べたときの日本の接種率は?

 
Nakagawa S et al. Cancer Sci, 111:2156-2162, 2020.
HPVワクチンの接種率(地域保健・健康増進事業報告および国勢調査から算出)2000年度生まれの接種率は14.3%、2005年生まれ以降はさらに減少している。

HPVワクチンは100を超える国で、接種のための公費助成が行われています。こういった国々における女子の接種率はほとんどが50%以上で、80%を超える国も。

日本では、積極的勧奨が差し控えられる前は、(対象となる生まれ年度で)70%を超える接種率でしたが、積極的勧奨が差し控えられてからは1%未満となりました。

Q17:性交渉の数や頻度、人数は「感染率」と関係する?

“性的活動性”が高い人ほど、HPVウイルスに感染機会が高いのは事実です。ただそれが低い人でも(たとえ1回の性交渉でも)、HPV感染リスクは当然あります。

HPVはありふれたウイルスで、性交渉の経験のある女性では生涯ので8割くらいの確率で一度は感染するとされています(その後自然に陰性に戻ることが多い)。

すなわち性的活動性の高低というより、誰でも感染するということを意味していると言えます。

監修:上田豊先生

 
上田豊
大阪大学産婦人科医師で、専門は婦人科腫瘍。子宮頸がんやHPVワクチンを中心に疫学研究も行っている