子どもを持つか持たないかの選択は、個人の自由であるべきこと。 イギリスに住む、ライターのセーラ・ケリーさんは「子どもを持たない」選択をした一人です。

彼女は、29歳で両側の卵管を切除する不妊手術を決断。そこに至るまでのストーリーと手術後の気持ちの変化を、<コスモポリタン イギリス版>よりお届けします。

語り:セーラ・ケリーさん

子どもを持つことへの恐怖

私には以前から、子どもを持ちたくないという気持ちがありました。

友達との会話のなかで子どもの話が出た時も、「かわいいけど、子どもを産む気はない。私には向いていないと思う」と言っていました。でも周囲の人たちは「そのうち気が変わるよ」と言って、なかなか理解してくれなかった。

2021年には、子どもを持ちたくないという思いは恐怖心に変わり、長年の付き合いであるパートナーさえも避けるようになりました。うっかり妊娠してしまったら…と、常に心配だったのです。彼とは子どもを持たないことで合意していたけど、万が一に妊娠してしまったら――。その時はパートナーを失うことはわかっていたし、私が中絶しなければ、自分が崩壊するだろうとも思っていました。

頭では、この恐怖が非合理なものであることはわかっていました。

妊娠を99%防げるという皮下インプラントの避妊法をとっていたし、子宮内膜症とも診断されていて、自分の子宮を妊娠のために使うかどうかを選ぶときが来るのも理解していました。でも、これらでさえ、不十分な気がしていたんです。

そうしてインターネットでいろいろと調べているうちに、「卵管の切除」という新しい選択肢を見つけました。

子どもを持つか持たないかの選択は、個人の自由。 イギリスに住む、ライターのセーラ・ケリーさんは「子どもを持たない」選択をした一人です。彼女は、29歳で両側の卵管を切除する不妊手術を決断。そこに至るまでのストーリーと手術後の気持ちの変化を、<コスモポリタン イギリス版>よりお届けします。
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両側卵管切除とは

両側卵管切除という選択は、予期しない妊娠へのストレスに終止符を打つ解決策に思えました。これまでの避妊法以外の方法を発見したことで、救われたような思いや、力が湧いてくるかのような気持ちになりました。

女性の不妊手術は、大きく「卵管結紮術」と「卵管切除」の2つに分けられます。2019年にはイギリス国内だけで7,600件の不妊手術が行われていて、卵管結紮術の方が一般的ですが、両側卵管切除の方が確実だと言われています。

卵管結紮術は必ず避妊できるかはわからず、正しく施術されていない場合には、子宮外妊娠のリスクもわずかながら存在します」と語るのは、産婦人科医のアシュファク・カーン医師

一方で、卵管切除は、卵巣がんや子宮内膜症(もし子宮内膜組織が卵管でも発育していた場合)の治療に使われることもあります。

方法は二つあり、開腹手術か腹腔鏡下手術。「腹腔鏡下手術はお腹を切る面積が少なく、回復が早くて複雑な問題が起きにくいもの。そのため、医療従事者がまず選ぶ方法です」と語るのはイリーナ・イリイチ産婦人科医

腹腔鏡下手術の場合はお腹に小さな穴を開け、腹腔鏡という先端にライトとカメラのついた細い道具や他の器具を入れて卵管を切除。術後は切開した皮膚を縫うか、医療用の接着剤で閉じます。

永久的な措置で大きな決断なので、医師はしばしば20代後半か30代まで不妊手術を待つよう促します。イギリスでは不妊手術を受ける最低年齢の規定はありませんが、国民保健サービスによると、産婦人科医がカウンセリングをすすめることもあるそうです(これも法的に定められているわけではありません)。

私の場合、医師はすぐ同意し、専門的なことや後悔する可能性について話してくれました。彼は私が感じている恐怖にも理解があり、卵管切除がメンタルヘルスの改善をもたらすだろうと賛成してくれたのです。

医師が「ノー」と言ったら

残念ながら、不妊手術を受けるのは必ずしも容易ではなく、多くの人々が愛する人や医師から反対されています。時代遅れの研究や、深く刻まれたステレオタイプ、そして個人的な信念が反対する理由として挙げられるようです。

幸いにもサポートグループが存在しており、Reddit(掲示板型ソーシャルサイト)のr/childfreeでは不妊手術に興味のある人々が経験をシェアしたり、質問したりする場になっていて、不妊手術を請け負うイギリス内外の医師の広範なリストも載せています。

もちろんどんな手術にも言えることですが、リスク要因や副作用はありえます。短期的なものは、骨盤痛、むくみ、腹痛、局部あるいは全身麻酔による吐き気など。まれに、手術中に周囲の細胞や組織へのダメージから長期にわたる影響が出ることもあります。

リスクには身体的なもののみならず、精神的なものもあります。私は一度も後悔していませんが、若くして不妊手術を受けた女性が、後に自分の選択を後悔することがあるという研究もあります。

イギリスで近年、不妊手術を受ける人が減っている一方、避妊が増えているのは、こうした理由によるものかもしれません。ただし、こうしたデータは過去のもので、近年の状況を反映したものではないことは付け加えておきます。

また卵管切除は永久的なものですが、気が変わった場合は、体外受精や養子縁組という他のオプションは存在します。

私の場合、手術を受けてからまだ1年経っていませんが、パートナーも両親も全面的にサポートしてくれています。実際には両親が私の選択に心を痛めていたようで、たぶんパートナーの両親もそう感じていると思います。それでも、私は一度も自分の決断を後悔したことはありません。

子どもを持つか持たないかの選択は、個人の自由。 イギリスに住む、ライターのセーラ・ケリーさんは「子どもを持たない」選択をした一人です。彼女は、29歳で両側の卵管を切除する不妊手術を決断。そこに至るまでのストーリーと手術後の気持ちの変化を、<コスモポリタン イギリス版>よりお届けします。
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がんの予防を兼ねる場合も

多くの場合、卵管切除は不妊のためですが他の理由もあります。ロンドン出身のソフトウェアエンジニア、マーセダイアさん(29歳)は子どもを生みたいと思ったことは一度もなかったと言います。

彼女が卵管切除を決意したのは、がんの予防ができると知ったから。「卵巣がんや子宮内膜がんといった生殖器のがんの家族歴があったので、そうならないうちに切除できて、ホッとしました」と話しています。

私の母も卵巣がんを経験しましたし、母方の祖母も乳がんに苦しんで亡くなりました。アシュファク・カーン医師によると、卵巣がんや乳がんの家族歴が強い女性はBRCA遺伝子変異を受け継ぐ可能性があり、発症のリスクは平均より高くなるそうです。

毎年イギリスでは7,500人が卵巣がんと診断されていますが、その3%は家族歴がある人々。高いリスクを有する人々は卵管切除で29.2〜64%も卵巣がんのリスクを減らせるという研究もあります。

性別違和の緩和にも

また他のケースもあります。ノンバイナリーを自認している人のなかには、卵管切除は自分の体に居心地のよさを感じられるという人もいます。

生物化学を専攻する学生であるローワンさん(21歳)は、生物学的な性別や伝統的な役割、それに対する違和感を不快に感じていたそう。

最終的には卵管切除をしたいというローワンさんの願いと、ジェンダーアイデンティティの両方を受け入れてくれる医師を見つけることができ、卵管切除をしたことで、自分の体が前よりしっくりくるようになったと話しています。

人生の次のステージへ

私にとって卵管を切除することは、別の意味で“自由通行権”を得ることでした。

それは、親になる制約や遺伝から自由になり、人生の次のステージに移行する力だったのです。もう妊娠の恐怖に巻き込まれることもないし、女性の体にとって“神聖”な場所と言われる箇所を切除したことは、私を損なうのではなく、むしろ力を与えてくれました。

パートナー(婚約者)との関係も変わりました。心が落ち着きましたし、キャリアは順調に進み、経済的にも余裕ができ、将来の夢も膨らんでいます。

残念ながら、現在の社会はこうした手段をとろうとする人々を必ずしも尊重していません。私たちはしばしば子どもを持つプレッシャーをかけられ、永久的な処置であるという理由から、不妊手術を思いとどまるように言われます。

でも、子どものいない人生を選ぶ人々を詮索するときに覚えておいてほしいことがあります。不妊手術は確かに永久的な選択です。でも、それと同じく子どもを持つことも永久的な選択なのです。

※この翻訳は、抄訳です。
Translation: mayuko akimoto
COSMOPOLITAN UK