国内では140以上の自治体で、パートナーシップやファミリーシップの制度が導入されている現在。全国各地で制度が整ってきているように見える一方で、地方には都市部と違う課題も。

地元は大好きだけれど、都市部に比べLGBTQ+に関する認知が進んでいない地方でどう生きていくか…。悩んだことがある人は少なくないかもしれません。

そこで今回、TENGAJobRainbowのコラボレーションによるLGBTQ+向けオンラインキャリアアップスクール「PRIDE SCHOOL」の卒業生で、地方に暮らす当事者3名を招いて座談会を実施。LGBTQ+当事者が地方で自分らしく生きることについて話を聞きました。

参加者プロフィール

  • かいわさん
 
かいわ
山形県出身。2020年に山形県の公務員職を退職したあと、現在は宮城県に住んで専門学校に通う。卒業後は山形県に戻ってLGBTQ+に関する活動をしたいと、活動のヒントを得るためPRIDE SCHOOLのチャレンジコースを受講。

note

  • そらさん
 
そら
青森県出身、昨春に東京の大学を卒業して青森にUターン。来春からは県外に勤務予定だが、いずれは青森に帰ってくるつもり。PRIDE SCHOOLでは、初めての就職や安定した就業を目指す方向けのスタンダードコースを受講。
  • すけさん
 
すけ
岡山県出身・愛媛県在住の大学生4年生。来春から岡山県内の市役所に就職予定だが、東京に住んでみたい気持ちもある。PRIDE SCHOOLではスタンダードコースを受講。

リアルの場での活動には難しさも

――生まれ育った地域や、今住んでいる地域にLGBTQ+のコミュニティや活動はありますか?

  • かいわ:私が生まれ育った山形県には交流会を開催する団体が2~3つあったと思うのですが、コロナ禍以降リアルで会うことが難しくなってからは、ほとんどどこも活動を休止してしまっているようです。
    私の出身大学でも後輩がLGBTQ+サークルを立ち上げたんですが、後継者を見つけるのが難しかったみたい。
    県内にゲイバーはあるんですが、東北地方で唯一レインボーパレードがない
    んですよね。顔を出して活動している方が少なくて、そういうところに閉塞感を覚えます。
  • すけ:僕の地元の岡山県では、2021年11月に中国地方で初のパレード『ももたろう岡山 虹の祭典 2021』が開催されたり、パートナーシップやファミリーシップの制度ができた自治体があったりと、活動はいろいろあります。
    一方で、今住んでいる愛媛県にはパートナーシップ制度のある自治体が1つもなくて、ここ1年ぐらいで署名活動などが始まったところみたいです。
    僕自身は、地元の本当に仲のいい友達3人にだけカミングアウトしています。変に関係が変わったり、気を使われたりするのも嫌なので。
    最近、今の愛媛の自宅の近くにゲイバーがあるらしいと知ったんですけど、そのコミュニティのことにはあんまり詳しくなくて。
    普段、他の当事者に偶然会うなんてことは基本ないので、僕の場合はアプリやTwitter経由などで交流しています。
image
Cosmopolitan//Getty Images

見えはじめた変化の兆し

  • そら:青森県では一昨日(2021年12月11日)、8回目の青森レインボーパレードがありました!
    当日は雨が降ったんですが、晴れ間が広がったときに虹が出て。まさに“レインボーパレード日和”でしたね。
    初対面の人同士で意気投合して連絡先を交換する姿が何度も見られたり、新聞やテレビのニュースでも取り上げられたりして、良かったなって。
    それと、今までパートナーシップ制度が県内では弘前市にしかなかったんですが、2021年11月に青森県全体での導入を検討していると発表があったので、ちょっといい方向に進んでるかなと。
    でも、まだまだだなと思うこともあります。
    たとえば、就職活動をするなかで県庁に就職希望の方々と「青森を良くするためにはどうすればいいと思いますか?」という題目でグループディスカッションをしたとき。
    私がLGBTQ+人材の県外流出の話をしたら、他の学生の方は「LGBTQ+」という言葉自体が初めて聞いたらしくて。県庁志望の方々でも単語さえ知らないことに、すごくショックを受けました。
    説明したら「そういうことも必要なんですね」と話を聞いてくれましたけどね。

都市部とは異なる「世間の狭さ」

――LGBTQ+が地方で自分らしく暮らすことの難しさ、逆に地方ならではの魅力は何だと思いますか?

  • すけ:とにかく世間が狭いことかな。大学でいつも赤い服を着ていて目立っている人がいたんですが、あるとき「あの人、実はLGBTとか“そっち系”の人らしいよ」って噂になっていて。
    赤の他人によってどんどん話が広げられるのが、怖いなと思いました。
  • かいわ:わかる! 山形もすごいですよ。私は山形のなかでもさらに田舎の出身なので、地元の地区に知らない車が入ってくると、「あれ、どこの車だ?」ってなります。防犯面では優れていますけどね。
    「誰々の東京の親戚の人が来たんだと」「どこどこさんちの息子さんは出世して部長になったんだと」とか、とにかく情報が伝わるのが早い(笑)。
    みんな必ずどこかでつながっているので、私自身も山形にいたころは身バレが怖かったです。
    たとえば、山形には秋に川原に出てサトイモの鍋を作って食べる「芋煮会」という文化があって。大学生のとき、LGBTQ+当事者の交流会の芋煮会に申し込みしたことがあるんです。
    でも、いざ川原に行くとオープンで丸見えなわけですよね。たぶんあのグループっぽいなという団体の隣で、自分の大学のサークルが芋煮会をしている。
    それで、悲しく感じながらも参加を見送ったという経験があります。 
  • すけ:そうなんですよね。僕も生まれ育った岡山を離れて愛媛にいる今のほうが、人目を気にしなくて済むからか自分らしくいられる感じがして。
    春に岡山で就職しますが、いずれは東京に行きたいなと思っています。
    東京のほうが、セクシュアルマイノリティだからって異質な目で見られることも少ないだろうから、生活しやすそうだなって。
image
Cosmopolitan//Getty Images

「自分の周りにはいない」という思い込み

  • かいわ:地方でのカミングアウトは、なかなか難しいよね。私は後々オープンにしていきたいと思っていたので、宮城の専門学校ではみんなに言おうと思っていたんですよ。
    でも、いざとなったら、怖くて言えなくなってしまって。
    自分ってダメだと思ったんですけど、ある人に相談したら「そんなこと当たり前じゃん。かいわの大事なアイデンティティのことなんだから、言いたいと思ったときにその人にだけ大切に伝えればいいよ」って話してくださって。
    言わないといないことにされちゃうから難しいんですけど、今は自分のペースでいいかなと思っています。
    ただ、山形の人って基本的にすごく優しいので「ここで受け入れてもらえたら、何の不安もなく過ごせるんだろうな」とは思います。
    LGBTQ+に関しては、単に「よく知らない」「自分の周りにはいない」という感覚の人が多い
    です。そういう意味ではすごく可能性のある地域じゃないかな。
  • そら:私も地元の人は大好きですね。今バイトしているカフェは、お店もスタッフの雰囲気も好きで働いていてすごく楽しいんです。
    だけど、従業員同士の会話のなかで、たまにステレオタイプな話題が出ることがあって。
    たとえば、(手を口の横に当てて)“こっち”って言うとか、そういうのはショックでしたね。自分がバレたらどうしようって思ったり。
    ただ、知らないだけだとは思うので、今度機会があったらLGBTQ+の話もしたいと思っています。
  • すけ:確かに人間関係が濃いのは魅力でもあって。一緒に育ってきた信頼できる人が近くにいるのは地元の良さかなと思いますね。
image
Cosmopolitan//Getty Images

東京のレインボーパレードの規模の大きさは圧倒的

――地方で東京の情報やニュースを目にして、世界が違うなと思うことってありますか?

  • すけ:2年前に東京へ遊びに行ったときに、たまたまレインボーパレードを見かけたんですよ。大人数で公道をにぎやかに歩いているのを見て、パレードがあることも知らなかったので「何だこれは!?」って。
    それで代々木公園に行ってみたらものすごくたくさんの人がいて、「こんなに大規模でやってるんだ」とすごく感動しましたね。愛媛だったらありえない。
  • そら:そうそう、パレード参加者の圧倒的な人数には驚かされますよね! 青森のパレードは県外から来てくれる方もいますが、商店街を歩くので地元の人は身バレが怖くて逆に出られないということもあるんです。
  • かいわ:確かに、規模感の違いはありますね。特に(新宿)二丁目は憧れでしたね。「二十歳になったら二丁目に行くんだ」って(笑)。
    初めて行ったときは感動でした! それまでも掲示板やアプリで同じセクシュアリティの人と連絡をとることはあったんですが、リアルで会うと質感が違うというか。「この人もこの人もこの人も!?」みたいな。
    東京とか都市部でLGBTQ+の認知度が上がってくれないと地方に浸透してこないので、「がんばれ、東京」という気持ちもありつつ地方でも早く広がるといいなと思っています。
    あと、地方で強いのが結婚圧力。親には「結婚しろとか言うなら山形に帰りたくないからね」って言ったら、なくなりましたけど 。
    その前は男の人と結婚して孫の顔を見せてあげられないのは親不孝だなと思うこともありました。
  • すけ:僕はまだあんまり言われないかな。
  • そら:私も、親戚や家族に結婚しなさいと言われたことはないですね。
image
Cosmopolitan//Getty Images

似た悩みを抱える人たちと一緒に毎週学ぶことが刺激に

――プライドスクールを通じて他の地域で暮らす受講生や講師と知り合って、どうでしたか?

  • そら:勇気をもらいました。私の参加理由の一つに、自分自身のセクシュアリティや心の在り方の軸を確立させるということがあったんですが、自分は変じゃないし今のままで問題なんかないんだと思えるようになったのが良かったです。
  • すけ:僕も参加してよかったことしかないですね! 地方にいると、自分と同じ悩みを抱える人と出会いにくいんです。
    それが週1回、似たような悩みを抱えて、それに向き合おうとしている人たちと一緒に学べることが刺激になりました。
  • かいわ:自分が山形で活動しようと思っていることをみんなが応援してくれて、自分のなかの「やりたい」という気持ちを確信できたのが良かったです。後押ししてもらって、実際に動き出すことができて。
    今月(2021年12月)はオンラインで来月にはリアルで、交流の場を開催します。

LGBTQ+であることは、たくさんある私の“タグ”の1つでしかない

――プライドスクールを受講したなかで印象に残っている授業はありますか?

  • かいわ:自分はLGBTQ+だからということに固執してネガティブに捉えすぎていたかもしれないと気づかされたのが大きかったです。
    ある授業で、LGBTQ+って自分の大事なアイデンティティではあるけれど、同時に自分が抱えているたくさんのタグのなかの1つでしかないんだという話を聞いて、自分は1つのタグに振り回されすぎていたと気づきました。
    誰しもがいろんなタグを持っていて、そこに生きづらさを感じることもある。LGBTQ+に限らず、一人一人がなめらかに生きていける世界にしたいんだなと、自分の価値観を広げてもらった場所でもありました。
  • すけ:僕は「カミングアウトをするときに、相手のことを考えているか」という話が心に残っています。自分は言うまでがゴールだと思っていたけど、それでは全然相手のことを考えていなくて言うことによって相手にどうしてほしいのかとか、それを聞いて相手にとってはどんな良いことがあるのかとか。言って終わりじゃなくてその先のことも考える必要があるよね、と。
  • そら:“自分らしく”と“自分勝手”は違うっていうお話が印象に残っていて。たとえば、就職活動で企業説明会に個人的な趣味全開の格好で行った人の話を挙げて、確かに個性的かもしれないけれどTPOに即した格好ではないよね、と。働く場所でもそういうことを考えていこうね、というお話でした。
image
Cosmopolitan//Getty Images

「いろんな人がいるからこそいいよね」が普通な社会

――LGBTQ+の人がより“自分らしく”暮らせる社会を実現するために、どんな取り組みや変化が必要だと思いますか?

  • かいわ:自分の地元・山形では、LGBTQ+がいないと思われていることが問題かなと。だから私は認知度を上げるため、自分のライフストーリーとともにLGBTQ+について伝える活動をしていこうかなと思っています。
    LGBTQ+に限らず「いろんな人がいるからこそいいよね」と考える人が増えると、みんなが自分らしく生きやすくなるんじゃないかな、と。
  • そら:そうなんですよね。「結婚するべきだ」とか、「片親で子どもがかわいそう」とか、自分の価値観で人の幸せを考えないことも必要なのかなと思いますね。
    他県では女子生徒の制服にスラックスの選択肢が加わったというニュースがありますが、青森市内の公立高校ではまだなくて。
    制服が変わらない要因の一つとして、50〜60代の卒業生の方が、今の制服が気に入っているから変えさせないということもあるらしくて。でも、OGの方たちは自分が着るわけじゃないので、現役の学生の立場を大事にしてほしいなと思います。
  • 一同:それは本当にそうだね!

リュックに付けたレインボーバッチで誰かの勇気に

  • そら:それと、小さなことですが私はレインボーのバッジをリュックに付けています。東京に住んでいたときにずっと付けていて、青森に戻ってきてから一回休んでいたんですけど、プライドスクールを卒業した後にまた付け始めました。
    東京にいたとき、同じバッジを付けている人を見てすごく嬉しくなったことがあるので、自分のバッジで誰かに勇気を与えられたらと思っています。青森でそのバッジ付けるのは、なかなかドキドキするんですけどね。
  • すけ:僕は大学の教育学部で勉強しているんですが、教育が遅れているなと思う部分もあります。小学校の学習指導要領が3年前ぐらいに改訂されたとき、セクシュアルマイノリティに関する知識を深めるといった文言は追加されず…。
    今は家庭科の教科書の1ページにちょこっと載っているぐらいで、こんなんでいいのかなって。もっと教育が変わっていけば、理解のある人が増えるんじゃないかと思います。
    アルバイトで子どもに関わる機会があるんですけど、ピンクの帽子をかぶって行ったら「先生、女なの?」って言われたことがあって。そのときに、小学生のほうが“男らしさ/女らしさ”の意識が強いのかなと思いました。きっと学校や親の教育の影響ですよね。
  • かいわ:私は、前の職場で先輩がアウティング(本人の了解を得ずに、他の人に公にしていない性的指向などの秘密を暴露すること)されて、その噂があっという間に広がっていくのを見たときに「ここでやっていくの無理かな」と思って。
    今は山形で活動するための準備中なんですが、将来LGBTQ+の研修をしてほしいと前の職場に呼ばれることが一つの夢です(笑)。
image
Cosmopolitan//Getty Images

何気ない会話で理解は伝わる

――素敵な夢! それはぜひ実現してほしいです。コスモポリタン読者にできること、望むことはありますか?

  • そら:例えば「彼氏/彼女いるの?」ってどうしても聞きたいのなら、性別を限定せず「パートナー/恋人はいるの?」っていう聞き方にするとか。
    そういうちょっとした言葉遣いで、この人は理解してくれているんだなと伝わって
    、ほっと安心できます。
  • すけ:そうですね。「もしかすると自分の近くにいるんじゃないかな」って頭の片隅に置いてくれていると、すごく生きやすいなと思います。
    自分がカミングアウトしていない場でも、雑談でLGBTQ+のニュースのことをポジティブに話題にしてくれるだけで、すごくあったかい気持ちになりますね。